2010年3月1日
このタスクへのインプットは、以下の通りです。
-ソリューション[デザインされた]
-ソリューションスコープ
-ステークホルダーの懸案事項
-エンタープライズアーキテクチャ
このタスクでは、構築する新しいソリューションが組織にもたらす影響(良いことだけでなく、悪いことも含めて)を明らかにして、組織がその変革を受け入れられる準備が整っているのかを診断します。
タスクの中で実施するべきこととして、BABOK®ガイドでは以下の3つの要素が挙げられています。
-文化(風土)のアセスメント
-運用または技術のアセスメント
-ステークホルダーの影響分析。
【文化(風土)のアセスメント】
「文化(風土)のアセスメント」とは何をしたらよいのでしょうか。
日本ではERPの導入がうまくいかないケースをよく耳にします。なぜだか考えてみましょう。ご存じのように、ERPは仕事のやり方(業務プロセス)をシステムに合わせる必要があります。それができると非常に大きな効果を得ることができます。逆に自社のプロセスに固執して、システムを自社プロセスにカスタマイズしてしまうとどうなるでしょうか。まずカスタマイズに時間とコストがかかります。いったん導入しても、バージョンアップするたびに、膨大なカスタマイズを再度やり直さなければいけません。そのコストがかけられれば良いのですが、それができないと、バージョンアップしないまま使用せざるを得なくなります。 そのうちERPベンダーからサポートされなくなってしまいます。
どのような組織がERP導入を成功しやすいのでしょうか。それを推測するためには、以下のような組織文化の分類方法が有効です。筆者がよくやっている方法を簡単に説明します。
縦軸は組織の在り方によって、「統制(コントロール)重視」なのか「変化への対応重視」なのかで分けます。横軸は「結果重視」か「プロセス重視」なのかで分けると、上下左右、4象限ができます。
左上は統制重視かつ結果重視なので、「実利主義」といえます。リスクも結果が合理的なら、とることをいといません。ただし真っ先にとるほどでもありません。
右上は統制重視かつプロセス重視なので「保守主義」といえます。リスクは基本的に避けようとします。新しい技術やシステムはデファクトスタンダードになるまでまちます。
次に下半分です。左下は対応的で結果重視なので非常に変革を早く取り入れる文化になりますから「ビジョナリー」と言います。リスクに対しても果敢に取り入れていきます。他社に先駆けて新技術やシステムを取り入れます。早すぎて失敗しても責められません。 そこから学ぶことに重きを置いています。
右下は対応的ですがプロセス重視なので「価値を重んじる」文化になります。ゴーイングマイウェイでかたくなに自社の価値を求めますので、変革に対しては極めて遅くなります。かなり頑固な一面が出てきます。リスクを取ろうとは決して考えたくない組織文化といえます。
この分類はちょうどテクノロジーライフサイクルの順番と一致します。
ERPの導入に話を戻しましょう。自社のプロセスを変えても結果を重んじるビジョナリーや実利主義の文化の組織なら、問題なく導入し成果を出すことができます。ところが、リスクを避けようとする保守主義では、自社のプロセスをERPシステムに合わせることを潔しとしません。ERPシステムを自社プロセスに合わせるようにカスタマイズしてします傾向があります。その結果、あまりよい成果に結び付かないことが多いようです。つまりERPのようなシステムの場合その導入の成功の度合いは、かなり組織文化と密接な関係があるということになります。
そして日本では、統制的で社内のプロセスを重んじる組織が多いようです(特に製造業)。そのような組織では、変革に対してはどうしても「保守的」にならざるを得ません。なぜなら自社のプロセスに自信と誇りを持っているからです。その結果ERPの導入の効果は認めるものの、自社プロセスに固執してしまい、ERPシステムをカスタマイズするケースが後を絶たないようです。
ERPのみならず、変革の大小にかかわらずその準備状況は組織文化との関連が強いのです。
ERPを例に出しましたが、新しいソリューション導入が成功するかどうかは、組織文化の影響が大きいことがお分かりいただけたと思います。
【ステークホルダーの影響分析】
ステークホルダーの影響は極めて重要です。レガシーに慣れ親しんでいるステークホルダーは新しいERPシステムの導入に戸惑います。業務プロセス(仕事のやり方)が変わります。仕事の相手も変わります。日本だけの問題ではなくなります。システムの使い方も知りません。
ステークホルダーによっては職を失う事もあり得ます。レガシーのときは100人で仕事を分担していたものが、半分もしくはそれ以下の人数で仕事ができるようになることもあります。仕事を失う人はどうしたらよいのでしょうか。
ステークホルダー個人も変革を受け入れやすい人もいれば、頑固で最後まで変革を受け入れたくない人もいます。人もアーリーアダプター、アーリーマジョリティー、レートマジョリティー、ラガードと分類されます。アーリーアダプターは自ら進んで変革を受け入れてくれますから問題ありません。人数的には17パーセント程度です。またラガードは最後まで変革に抵抗します。というよりあきらめている人たちです。他に選択肢がない場合のみ受け入れてくれます。定年間際の年配の従業員が新たなシステムの使い方を習得するのは至難のことかもしれませんし、組織として別の対応(早期退職制度など)が必要かもしれません。
2つのマジョリティーの合計が約67パーセントを占めています。重要なのはこのマジョリティーの人たちをいかにスムーズに移行してもらうかということが成功のカギを握っています。何もしないと時間がかかります。短時間で移行してもらうためにはそれなりの対策が必要です。そのためにステークホルダーの影響分析が欠かせなくなります。
特に、業務(タスク)に影響のあるステークホルダーはだれなのか、それを受け入れてもらえるのか。職を失う可能性があるのか。また、どんなスキルをもっていて、新しい業務で必要とするスキルはどんなものなのか。必要な教育はどんなものなのか。など。
このタスクで重要なステークホルダーを紹介します。「組織的変革のSME」です。このステークホルダーは組織的変革をスムーズに行うための専門家で、組織的変革をするためのリーダーとなります。
変革をリードするSMEの役割は重要です。上の図のように、レガシーから新しいERPに移行していきます。図(のピンク色の矢印)からわかるように、どんな移行でもいったんパフォーマンスが下がるものです。慣れ親しんだ使い勝手の良い古いシステム(レガシー)です。最終的なパフォーマンスは高いかもしれませんが移行当初は不慣れなため、そのパフォーマンスはなかなか発揮できないものです。これを恐れていると変革は実行できなくなります。そこで登場するのがこのSMEです。その代表的なやり方は次のようなものです。
1. レガシーのままではパフォーマンスが上がらないのみならず、組織の将来が危うくなる恐れがあることを明確に伝えます。
2. ERP導入後の成功した将来像をビジョンの形で示します。
3. アーリーアダプターの人たちに先に変革を体験してもらいその成功事例をPRしていきます。
4. マジョリティの人たちにアーリーアダプターの成功を見せ、安心して移行を働きかけていきます。
5. マジョリティが徐々に移行しますから、その成功例をPRし、さらに移行を加速させていきます。
経営者もビジョン作成に協力する必要があります。
日本では残念ながらこの役割はあまりポピュラーではありません。それもERP導入の妨げになっている要因かもしれません。ビジネスアナリストはこのSMEの肩代わりをする必要があるでしょう。
|