2013年1月15日
【プロジェクトマネジメントを成功に導くビジネスアナリシス】(その1)
プロジェクトマネジメント知識体系(BABOK)第4版では、知識エリア「プロジェクト・スコープ・マネジメント」に新しく「要求事項の収集」というプロセスが追加されました。
その内容をBABOKの観点で整理してみましょう。
インプットは「プロジェクト憲章」と「ステークホルダー登録簿」です。「プロジェクト憲章」はプロジェクト開始の重要事項が記載されているものです。一方の「ステークホルダー登録簿」はBABOKでは「2.2ステークホルダーリスト、役割、責任」に相当します。PMBOKもBABOKもほとんど同じタスク(プロセス)のアウトプットといえます。
ツールと技法では多くのテクニックが紹介されています。
-インタビュー(BABOKと同じ)
-フォーカスグループ(BABOKと同じ)
-ファシリテーション型ワークショップ(BABOK)
-グループ発想技法(ブレーンストーミングがBABOKと同じ)
ブレーンストーミング、ノミナル・グループ技法、デルファイ法、マインドマップなど。
-グループ意思決定技法
-アンケートと調査(BABOKと同じ)
-観察(BABOKと同じ)
-プロトタイプ(BABOKと同じ)
驚くことに、かっこで(BABOKと同じ)と記したテクニックは、BABOKの知識エリア「引き出し」で紹介されているテクニックです。8種類のツールと技法のうち、7つまでがBABOKと共通です。
ちなみに、BABOKでは上記以外に「文書分析」、「インターフェース分析」があります。
PMBOKとBABOKの類似に大変驚きます。
つづいて、「要求事項収集」プロセスのアウトプットを見てみましょう。
-要求事項文書(Requirements Documentation)
-要求事項マネジメント計画書
-要求事項トレーサビリティ・マトリクス
これらのアウトプットを正確に作成するためには、まさにBABOKのタスクとテクニックの理解が不可欠です。
今号は「要求事項文書(Requirements Documentation)」です。
BABOKでは、「4.4要求パッケージを準備する」タスクのアウトプットに相当します。
要求パッケージの具体例としては、下記が紹介されています。
-ビジネス要求文書(Business Requirements Document)
-プロダクトのロードマップ
-ソフトウェア要求仕様またはシステム要求仕様
-補助的な要求仕様
-ビジョン文書
また、ベンダー選定のための要求としては、RFI(情報提供依頼書)、RFP(提案依頼書)、RFQ(見積もり依頼書)があります。
そして、RFPに含めるべきものとして、
-ビジネス要求とステークホルダー要求
-ビジネス戦略やビジネスアーキテクチャの概説
-技術的な環境の制約と限界
-法律、規制、行政府の要求
などが挙げられています。
特に、ビジネス要求をRFPに含めることは日本ではあまりなされていなかったと思います。RFPを受け取る方もビジネス要求が明確だと、より積極的な提案ができる可能性が出てきて、発注側と受注側のポジティブな相互関係が出てくるのではないでしょうか。
ここまでできると受注側のプロジェクトマネジメントとしても、今までとは一味違う、価値のある提案ができるようになるのではないでしょうか。
もう一つの留意点ですが、タスクとプロセスの違いです。BABOKはプロセスではなく全てタスクとして扱っています。それは、タスクなので一度のみならず何度でも実施してもかまわないというスタンスです。ビジネスアナリシスのアクティビティをいくつかのフェーズに分割し、例えば、ステークホルダー要求をまとめるフェーズでの「要求パッケージを準備する」タスクのアウトプットはビジネス要求文書(BRD)かもしれません。またソリューション要求をまとめるフェーズでのアウトプットはソフトウェア要求仕様書、もしくはシステム要求仕様書かもしれません。この辺がBABOKという知識体系の醍醐味(うまくてにくいところ)でもあります。
PMBOKでも特定フェーズでの要求事項文書として考えればよいのです。例えば、ステークホルダー要求をまとめるフェーズでは、BRDとなるのでしょう。しかし、PMBOKはITプロジェクトとは限定されていません(例えば製造業も対象です)から、抽象的にならざるを得ません。BABOKの方が具体的と言えるようです。
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