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 【ITスキル標準とテクノロジーライフサイクル】(その3) 
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3 「トルネード」現象の予告 「トルネード」現象とはどのようなものかをまず解説します。 1.3.1 自然界の「トルネード」とハイテク市場の「トルネード」 春先のアメリカ中西部ではよく竜巻(「トルネード」と呼ばれます)が発生します。破壊的な猛威をふるうことで知られています。家屋は壊れ、木はなぎ倒され、自動車も舞い上がるほどの強さです。通過した後は、何も跡形もなくなってしまいます。 ハイテク市場においても似たような現象がよく見られます。そしてベンチャーキャピタルなどは「トルネード」の発生のタイミングを見計らい、それを助長するように行動しています。市場の「トルネード」は自然界同様に破壊的で、旧いパラダイムを徹底的になぎ倒してしまいます。新しいパラダイム(新テクノロジー)はニッチな市場から起こり、大きな市場に拡大しマーケットリーダとなります。デファクトスタンダードに成長し立派な地位を築くのです。 「トルネード」は破壊的であると同時に創造的でもあります。それまで誰もなしえなかった富を築くことすらあります。顧客にとっても、ビジネスや組織を再構築するようなインフラを提供してくれます。「トルネード」は発生すれば、広く普及しますが、その原因ははっきりせず、経路は予想しずらいものです。 なぜ、どのように発生するのでしょうか。   実利主義者の特性を考えてみましょう。新しいパラダイム(新テクノロジー)を他社より早く使用すれば、貴重なリソースをシステムデバッグに費やすことになりかねません。数年後に使用すればそのような無駄な作業はしなくてすむものです。また、同業他社より遅く導入すれば、競合優位性は損なわれてしまいます。ですからITマネージャはジレンマに陥るのです。導入が早すぎればリスクは大きいし、導入が遅すぎれば、競合優位はなくなり、古びたシステムを使わざるを得なくなります。 道はただ一つ、周りの動向を観察することです。ちょうど群れをなす動物(羊のような)のような行動になります。常に天候を観察し、「トルネード」発生の気象条件をつくりだすのです。
 1.一緒に新しいパラダイム(新テクノロジー)を採用しようとします
 2.ほぼ同時期に採用します 3.出現しているマーケットリーダーをみんなで支持します。その結果デファクトスタンダードに なります。その時点でのマーケットリーダーを選択することが実利主義者の安全パイです。
 上記の結果、「トルネード」が発生するのです。自然界同様、手がつけられない状態になります。売り上げが年率50%以上の成長が数年間続きます。   最近の「トルネード」の具体例はiPodです。それまでソニーウォークマンが形成していた市場を完全に破壊してしまいました。実利主義者に大々的に受け入れられて、デファクトスタンダードになっているのは周知のとおりです。音楽配信というホール-プロダクトから、さらに携帯電話機能も発表されています。 自然界の「トルネード」同様、手がつけられない状況です。どこまで伸びていくのか見当がつかないのも自然界と似ています。   iPodに関しては「iPodの成功例」をご覧ください。   1.3.2 ITスキル標準も「トルネード」になる もうお分かりになると思います。ITスキル標準も「トルネード」になる要素が整いつつあります。前号で解説したとおりに、実に充実したホールプロダクトが形成されています。 IPAが実施した「IT人材市場動向予備調査」によると  ITSS導入企業:               28%  ITSS導入を検討している企業:      27%  ITSS導入の必要性を感じている企業: 27%  ITSS利用の予定はない  :       15%
 
 これはちょうどテクノロジーライフサイクルで 左から  初期市場:                  17%  実利主義者:                 33%  保守主義:                   33%  懐疑派:                    17% を考慮すると、「ITSS導入企業」はキャズムを超えて、実利主義者の前半まで進んでいることを示しています。 
  
 まさにタイミングとしても「トルネード」の手前にいるとみなせます。 そして、「使用を検討している企業」が群れをなして「天候を伺っているようです」。まさに嵐の前の静けさのようです。 
 
   1.3.3 情報処理試験派の合流 具体的には、いわゆる「情報処理試験派」のなかの実利主義者がそのまま「ITSS導入企業」になるでしょう。そして現在の28%プラス27%、合計55%となります。 これで、導入企業が過半数を超えるので、めでたしめでたしとなります。長年苦労していたITスキル標準が成功裏にIT産業に受け入れられることになりました。   でも、果たしてこれを喜んで良いのでしょうか。導入したけれど成果の上がっている企業はどれだけあるのでしょうか。ITスキル標準により幸せになったITエンジニアは何人くらいいるのでしょうか。ビジネス戦略と人材戦略が密接に結びついているIT企業はどれだけあるのでしょうか。赤字のプロジェクトは減ったのでしょうか。IT企業の財務状況は改善されているのでしょうか。人材育成投資の効果は計測されているのでしょうか。 まだ釈然としない方が多いのではないでしょうか。過半数と言っても、形だけITスキル標準を導入している企業と、いままで「情報処理技術者試験」を導入していた企業の数を合計しただけかもしれません。   もう少し検証してみる必要があるようです。 
 【次ページに続く】
 
 
 
 
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