【ITスキル標準とテクノロジーライフサイクル】(その5)
3.
トルネードの次のMainstreet(保守主義)とは
紆余曲折はあるものの、ITスキル標準はなんとかトルネードまでたどり着くことができそうです。では、トルネードまで来ればあとは自動的にメイン市場の後半の保守主義に受け入れてもらえるようになるのでしょうか。じつは意外にここにも落とし穴が存在します。再度テクノロジーライフサイクルの図をご覧ください。少し意図的に実利主義と保守主義の間を空けておきました。ここにもキャズムほどではありませんが、隙間が存在します。
3.1 実利主義と保守主義と隙間
実際のテクノロジー商品の市場で、この隙間に落ち込んでしまったケースがいくつかあります。具体例を2つ紹介します。ひとつはミニコンの雄DECのVAX、もう一つはマイクロプロセッサーのモトローラMC68000です。
DEC社はPDP-11から始まりVAXシリーズはメインフレームに迫るパフォーマンスを提供し業界のデファクトスタンダードとして、まさにトルネードの如くミニコンのみならずメインフレームの市場を席巻する勢いで急成長しました。VMSという占有アーキテクチャの利点を最大限に活かした戦略が功を奏していました。けれど、UNIXとNTという新技術(代替手段)の出現と、保守主義へのマーケティング不足により、あっという間にこの隙間に落ち込んでしまいました。その後DEC社はパソコンのコンパックに買収され、今ではHPとなっています。
もう一つの例、モトローラMC68000は1980年代に16ビットマイクロプロセッサーとして一世を風靡しました。組み込みシステムのコントローラとしても大成功を収めました。インテル8086とくらべてメモリ実空間も大きく、大変使いやすく日本のマーケットでも大成功をおさめていました。後続の32ビットチップMC68020/30/40はパソコンを除くすべてのワークステーションに採用されました。当時のSUN、アポロ、HPそして初期のマッキントッシュはすべてMC680X0だったのです。
CISC(Complex
Instruction Set Computer)という基本的アーキテクチャの素晴らしさが初期の成功をもたらしましたが、後期ではCISCに対抗するRISCアーキテクチャのチップ、SPARC、MIPS、PA-RISCなどに性能面で歯が立たず、衰退の道をたどってしまいました。
唯一メインストリート(保守主義)に到達できたのは、インテルx86です。性能面では、MC68000に劣り、ましてやRISCチップにもかなわないのですが、半導体先端技術への多大な投資によりしぶとく生き残り、現在に至っています。チップとしてのアーキテクチャは斬新なものではありませんが、16ビットの8086からの互換性(8ビットの8080からの互換性かもしれません)、は不連続な変化を受け入れない「保守主義」にはたまらない魅力です。
トルネードが達成できたからと言って、次の保守主義に自動的に受け入れられるわけではないことがお分かりいただけたと思います。まだもう一つのギャップ(隙間)が存在するのです。
3.2 保守主義の要求
ITSSは保守主義に受け入れられるでしょうか。もう一度保守主義の特性を見てみましょう。
同時に、ITSSの現状と比較します。
・保守的(不連続な変化を受け入れない)
・社内標準(プロセスややり方)を大事にする
−情報処理技術者試験を採用している企業は問題ありませんが、
そうでない企業では、残念ながら、ITSSではやり方を変えざるを得ません
・業界標準を待つ
−試験制度とは合体しますから、その意味では業界標準になるといえます。
しかし、社内にETSSが混在する企業ではまだ標準とは言いずらいところが残ります。
−試験制度の信頼度がまだ不安材料として残ります
・リスクを避ける
−リスクを減らすためには有能なコンサルタントが必要です。
−保守主義はコンサルティングに費用を払ってくれるでしょうか、疑問が残ります。
・保証を求める
−まだ成功事例が少ない(導入と成功は異なります)と思います。
−誰に保証してもらえるのでしょうか
・他人の後を追いかける
−後を追いかけたくなるような導入事例がどれだけあるのか
さらに、前述のITSS/V3の4つの課題、試験制度の信頼度、真のレベル判定、企業認定(レベル5まで)、レベル6,7の判定方法、まであります。
大丈夫でしょうか。少し不安になってきました。トルネードにまで到達しても、やはりITSSはメインストリートではうまくいかないのでしょうか。メインストリートにゆくためにはどうしたら良いのでしょうか。
【次ページに続く】
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