【顧客のビジネスを知る】
最近の情報システムは顧客のビジネスと極めて密接な関係があります。金融・証券業界では、情報システムが金融商品そのものを実現していると言っても過言ではありません。通信業界も例えば携帯電話の料金プランなどは情報システムが実現しています。
一方、システム構築を手がけるIT企業のプロジェクトマネージャは、自分の担当するプロジェクトが顧客企業でのビジネス価値についてどれだけ理解しているでしょうか。担当プロジェクトが影響を与える顧客のビジネス規模を把握しているでしょうか。担当プロジェクトにより、顧客ビジネスがどれだけ増えるのでしょうか。プロジェクトのROI(投資効果)は.....。 意外と知らないもののようです。
システムを構築する側が顧客のビジネス背景やビジネスそのものを知らないままで、本当に役に立つシステムを構築することができるのでしょうか。はなはだ疑問ですね。
そこで、このコースではまず最初のモジュールで顧客の「ビジネス要求」を明確にする方法を学習します。
前回、示した学習目標を思い出してください。
学習目標:
−ビジネス環境分析を使い、顧客のビジネス背景をメンバーに説明できるようになる
−SWOT分析、ロジックツリー分析により、顧客のビジネス要求(問題対策)を明確に
することがができるようになる
最初に行うのは演習です。受講者に架空の顧客(eハウス社)の情報(会社の理念、資本金、売上、利益、ビジネスの概況、など)を与えます。以下はその一部ですが雰囲気は分かると思います。
中堅リフォームメーカーのeハウスの社長は自社の業績の停滞に頭を悩ませている。
経営理念として、
... 「新世代型リフォーム専門企業」として時代をリードする価値を創造する。
を掲げているが、実績がまだ伴っていない。
売り上げ: XX億円 (前年比..%)
経常利益: YYYY万円(前年比マイナス..%)
施工実績: ...件以上
地域 : 東京、千葉、神奈川、....
現在の概況
−....を目指している。しかし適正価格が維持できないため利益が低い。
−....業界に先駆けてITを取り入れた顧客満足志向の経営を実施しており、....。
−...人材は活性化している。
そして、次の演習を行ってもらいます。
背景:自社ではRFPを作成する能力がないので、RFP作成をコンサルとして依頼されました
課題:「eハウス社の社長にインタビューするための質問項目を作成してください」
たくさんの質問事項が作られますが、そのまま置いておきます。
次に、小講義を行いビジネス環境分析の概要を説明します。
マクロ環境、外部環境(顧客、競合、...)、内部環境(事業・プロセス、商品....)などです。具体的な説明をします。
そこで、先程の演習の質問事項をビジネス環境分析の表に当てはめていきます。一体なにが起こるでしょうか。
受講者が多くの質問事項を当てはめていくと、質問事項の多い分野と質問事項の少ない(全くない)分野があることに気が付きます。質問事項が偏在してしまうのです。
良くあるパターンは、内部環境の「事業・プロセス」に質問事項が集中し、外部環境の「顧客」「競合」やマクロ環境には質問事項が殆ど出てこないのです。質問がかなり偏ってしまっています。
では、それは一体なぜなのでしょうか。
受講者に討議してもらい、考えてもらいます。 典型的な反応は「(システムを)作る立場でしかものを考えていなかった」「顧客のビジネスのことなど頭になかった」という大きな気づきです。
質問が偏ったままだと、この後のSWOT分析はどうなるのでしょうか。偏ったSWOT分析になってしまいますね。SWOT分析の結果(CSF:Critical
Success Factors)も偏ったものになってしまいます。必然「ビジネス要求」も偏ったものになり、正しい「ビジネス要求」とはかけ離れたものになってしまいます。
では、顧客(この場合はeハウスの社長)はどうでしょうか。やはり人間ですから関心の偏りは存在します。そのままだと顧客のSWOTも偏ります。その結果「ビジネス要求」も偏っている可能性があるのです。
そこで、「ビジネス環境分析」というフレームワークの価値を認識することができるのです。
「ビジネス環境分析」により質問も360度カバーできますから、自分の質問の偏りをなくすだけでなく、顧客の関心の薄い分野の質問もできるようになります。そうすると全ての「ビジネス環境」の分野がカバーされ、顧客の気付かない「ビジネス要求」に結びつくことまで可能になります。
もし、eハウスの社長が自分の気付いていなかったCSF(Critical Success Factors)を教えてもらったら、どうなるでしょうか。そのコンサルタントに対する信頼感は....。 言うまでもないと思います。
この演習で、受講者は自分の質問事項の偏りを自覚し、このままでは正しい「ビジネス要求」の把握に結びつかないことに気が付きます。それを正してくれる「ビジネス環境分析」の価値を認めるとともに、続くSWOT分析やロジック・ツリーの学習意欲が非常に高まっていきます。学習の動機付けという意味合いの強い演習です。
この後は、質問事項の少ない分野に質問を追加してもらいます。そして、自社(eハウス)の強み、弱み、を明らかにしていきながら、SWOT分析の学習に移行していきます。学習意欲が極めて高い状態です。
TQMで有名な図を紹介します(すでに他のページでも使っています)。
基本的ニーズ(当たり前の品質):
−このニーズ(品質)が満たされないと、顧客は大変不満を持ちます。
しかし、これが満たされていても何も感じません。
−顧客は自分からこれが満たされないと不満だ、とも言いません(当たり前だからです)。
☆インタビューでこのニーズを聴き出せないと致命的な問題が発生する可能性があります。
例えば、自動車のバックミラーが必要だというお客はいませんよね。当たり前だからです。
バックミラーのない自動車は明らかに欠陥車です。顧客がニーズを口にしなくても、聴きだすスキル、もしくは業界知識(常識)を開発側が身につける必要がある、ということです。
期待のニーズ(一元的品質)
−これについて、顧客は自分から何が必要かを、話してくれます。
−この機能が欲しい、これが満たされないと困る(不満)、と言ってくれます。
☆どんなインタビューアでも聴けるニーズです。
RFPに書かれている要求は全てこの「期待のニーズ」です。
これを実現するだけでは差別化できません。
喜びのニーズ(魅力的品質)
−顧客が気付いていなかった、特別付録です。大変喜んでくれます。
−逆にこれが満たされなくても、別に不満に思いません(気付いていないからです)。
−喜んだ顧客は、別の顧客に話してくれます。
☆SWOT/Logic TreeによりRFPにないビジネス要求に気づいてもらえると、大きな差別化につながります。
「ビジネス要求」の把握で差別化できると大変有利な提案ができます。
PM/コンサルの価値の発揮できる場面ではないでしょうか。
以上、簡単ですが最初のモジュール【顧客のビジネスを知る】の一部を解説しました。実際はこの後、具体的なSWOT分析を行い、CSF(Critical
Success Factors)の候補を作成していきます。さらに、Logic Tree分析から、CSFを絞り込んでいきます。
|