メールマガジン創刊1周年を記念してETSSに関して、わかりやすい形でまとめてみたいと思います。もう一つの観点はITSSから見たETSSという立場で考えていきます。純粋にETSSだけを必要としているユーザーはあまり多くないようです。ひとつの会社の中でITSSが必要な部署とETSSが必要な部署とが混在している組織が多いためです。
これから、以下の順序に沿って、解説していきます。
1.
ETSSの対象者は誰?
2.
ETSSの全体像
3.
ETSSスキル基準とは
4.
ETSSキャリア基準とは
5.
ETSS教育研修基準とは
それでは、最初の課題から始めます。
1.
ETSSの対象者は誰?
ETSSの対象者は組込み系ソフトウェアを作成する人材、ということになっています。間違いというわけではありませんが、もう少し分類する必要があります。組込み系というのは非常に幅の広い応用があります。私たちの身の回りの電化製品でマイコンが組込まれていないものはほとんどありません。テレビ、冷蔵庫、エアコン、電気釜、....。さらに携帯電話、電話などの通信機器。乗り物もそうです、自動車(カーナビ、エンジン制御、ブレーキ制御)、電車の制御システム...。全ての製造業が対象になると言っても過言ではありません。
では全ての製造業のエンジニアがETSSの対象でしょうか?少し違いますね。ものづくり(製造業)ですから、大きくHW(ハードウェア)とSW(ソフトウェア)に分類されます。HWは基本的にはETSSの対象ではありません。SWを担当するエンジニアがETSSの対象です。しかし開発/設計ではソフトとハードの境界をどう決めるかという課題が常に付きまといますから。ソフトウェアエンジニアといえども、HWのことをある程度理解していなければいけません(少し厄介です)。この辺がITエンジニアとの相違点のひとつです。
最近の開発形態にも特徴があります。マイコンが創成期のころ(20年くらい前)はHWエンジニアがSWも作っていました。一人でボードの設計とそのうえで走るプログラミングをアッセンブラで作成していたのです。最近、ロボコン(ロボットコンテスト)で学生がHWとSWを作成している光景をテレビで見ますが、その姿がマイコン創成期の開発形態に似ています。
だんだんプログラミングの規模が大きくなると、HWとSWをひとりでは作成しきれなくなり、HWエンジニアとSWエンジニアの分化が始まりました。それでもある時期は同じ社内の開発部門にHWエンジニアとSWエンジニアが隣り合わせで仕事をしていたものです。最近はSWの規模がさらに拡大し、最終製品のメーカーではあまり手掛けなくなる傾向にあります(特に携帯電話、カーナビ、コピー機などSW規模が大きいものに目立ちます)。では一体誰が大規模SWを作成しているのでしょうか。
ITの世界では以前からいわゆるITサービス産業が盛んでした。ユーザー企業のソフトウェア開発を一手に引き受けてくれる、ITベンダーの存在が有名です。大手ユーザー(商社系、金融系など)は自社の情報システム部門からソフトウェア子会社を設立してきました。大手コンピューターメーカーもコンピューターハードを売るためにソフトウェア子会社を設立しています。さらに独立系ソフトウェア会社も存在します。このようにしてITサービス産業は発展してきたのです(最近は?のつくことが多いのですが、ここではあえて触れません)。
組込み系ソフトの世界でも似た現象が起きています。メーカーの開発部門がSWを作成するのではなく、子会社のソフトウェア会社及び第3者のITベンダーの台頭です。大手メーカーは自社の製品の組込みソフトを専門に作成する子会社を設立しています。また独立系のITベンダーの一部が組込みソフト(特に携帯電話やカーナビ)を扱っているのです。ですからITSSがITサービス産業のエンジニアを対象にしたスキル標準であるのと同様に、ETSSは組込みソフトを扱うITベンダーやメーカーの子会社のエンジニアを対象としたスキル標準になっているのです。
メーカーの子会社の場合は社内ではETSSのみでスキル標準はすみそうです。しかし、組込みソフトを扱っているITベンダーの場合、同じ社内でIT系の仕事も組込み系の仕事も請け負っています。そしてIT系ではITSSを、組込み系ではETSSという具合に、2つのスキル標準を使い分けなくてはいけなくなっているのです。この2つのスキル標準をどのように共存させるべきか、悩んでいるITベンダーが多いと思います。
尚、IT系の場合、ユーザー企業の情報システム部員を対象にしたUISSが存在しますが、ET系の場合はどうでしょう。残念ながらメーカーの開発部門のSWエンジニアを対象にしたスキル標準はまだありません。この辺がIT系とET系の2番目の相違点ということです。
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