| 2009年3月2日 
   
 1.2 ビジネスアナリシス(およびビジネスアナリスト)とは 
  BABOK® Version
1.6より引用します。 
   
 ビジネス分析は、ビジネスのニーズを特定したり問題ソリューションを決定するために必要なタスク、知識、テクニックのセットである。ソリューションにはよくシステム開発の要素が上げられるが、作業改善または組織変更が上げられる場合もある。
 
   
 ビジネスアナリストは今日、ビジネスアナリスト、ビジネス・システムアナリスト、システム・アナリスト等、様々な役職名でよばれている。このガイドでは便宜上ビジネス分析を行う者をビジネスアナリストと呼ぶことにする。
 
   
 ビジネス分析は、財務分析、プロジェクト管理、品質保証、組織開発、テスト、研修、文書化開発とは異なる。しかしながら、組織によっては、ビジネスアナリストがこれら関連機能について幾つか又はすべて行う場合もある。
 
 (IIBA™日本支部による翻訳をあえてそのまま引用しました) 
   
 1.2.1 IIBA™(International
Institute of Business Analysis)とは 
 トロント(カナダ)に本拠地を置く法人で、国際的かつ中立的立場でビジネスアナリシスの啓蒙を行う非営利団体です。 IIBA™はビジネスアナリシス、システムアナリシス、 要求分析、プロジェクトマネジメント、コンサルティング、プロセス改善など様々な領域での円滑な業務推進を支援します。 
 IIBA™は8カ国のメンバーにより2003年10月に設立されました。100あまりの支部を国際的に展開し、会員数は現在7,000名を超えます。 
   
  ビジョン: ビジネスアナリシス専門家のために、世界をリードする団体 
   
  ミッション: ビジネスアナリシスの実践と、その実務家の認定のための標準を作成し、維持する 
   
 詳しくは、IIBA™のWebサイトをご覧ください。 
 URL:  http://www.theiiba.org/ 
   
 1.2.2 IIBA™日本支部 
 2008年12月23日にIIBA™日本支部が設立されました。 
 余計な解説をするより、Webページをご覧ください。 
 URL: http://www.iiba-japan.org/about.php#message 
   
 設立時点での日本支部会員は43名でしたが、現在は90名(2/24現在)の方が会員登録されています(筆者もその一人)。 
   
   
 BABOK®ガイドの日本語版について、以下の注意をご覧ください。 
 「この文書は、IIBA 日本支部会員がBABOK の理解を深める目的で、IIBA 日本支部設立準備室 
 が、BABOK Release 1.6 Draft を日本語に翻訳したものであり、IIBA 本部が承認した正規の文書 
 ではありません。 
 正規の文書は、IIBA 本部のホームページ(http://www.theiiba.org/)から入手できる英文の文書 
 です。 
 この文書は、IIBA 日本支部会員の個人的学習の便宜をはかるために提供するものであり、 
 IIBA
日本支部会員の個人的学習以外の目的で使用することを禁じます。 
 IIBA
日本支部
2008/12/24」 
   
 ちなみに、BABOK® Version 1.6 日本語版の入手方法は以下のとおりです。 
 1.クレジットカード決済で$95(米国ドル)支払って、IIBA本部の会員になる。 
 会員になるとメールで会員ID番号が届きます。 
 会員登録ページのURL: http://www.theiiba.org/AM/Template.cfm?Section=Join 
 2.IIBA™日本支部のホームページより日本支部会員の申し込みをする(前述の本部会員のIDが必要) 
    会員募集ページのURL: http://www.iiba-japan.org/rules.php#members 
   
 3.日本支部会員になれば、PDFのダウンロード方法を担当理事から教えてもらえます。 
   
 BABOK®ガイドの日本語版(308ページ)が95ドル(9,000円程度)で入手できると割り切れる方にはお勧めします。会員にはその他の特典(例えば、CBAP受験料金の割引など)もあります。 
   
   
 1.3 同じ分野の資格・制度との類似点と相違点 
 日本で普及している(?)3つの資格・制度(ITコーディネータ、UISS、システムアナリスト試験)との比較です。 
   
 1.3.1 ITコーディネータ(ITC) 
 ご存知の方が多いと思います。概略です。 
   
 ITコーディネータ資格認定制度(2001年設立)は、経営とITを橋渡しをし、真に経営に役立つIT投資を推進・支援するプロフェッショナルを育成・認定する制度。ITCは経営者と経営環境変化についての認識を共有するとともに、革新的な経営戦略の策定支援、経営戦略目標を達成するための戦略的IT化投資支援を通して、経営改革を支援していく使命を担っている。(ITCプロセスガイドより抜粋)
 
 現在の資格保有者数: 6354名(H20年3月末) 
   
 ビジネスアナリシスと似ていますね。経営とITの橋渡しをする趣旨は共通ですね。ただしITCが対象とする経営は中小企業がメインのようです。 
 経営戦略支援、IT戦略策定支援、IT資源調達支援、IT導入支援、ITサービス活用支援と幅広い知識とスキルが求められています。その分、浅く広い知識のようです。 
   
 1.3.2 情報システムユーザースキル標準(UISS) 
 以下の3つの目的があります。 
 l  経営戦略の視点からIS機能の体系的な一覧を提供することで、各企業が自社に必要なIS機能の全体像の可視化を実現する 
 l  求められるスキルや知識の一覧を提供することで、IS部門やIS活用部門など、ISに携わる人材の最適な配置と育成を実現する 
 l  ISの構築・運用に関わる一連の「調達」、「評価」、「利活用」に関する機能とそのスキルを定義することで、発注者としての能力向上を実現する 
   
 ビジネスアナリシスに近いUISSの3つの人材像です。 
 [ビジネスストラテジスト] 
 【ミッション】全社戦略の実現に向けた事業戦略を策定・評価する。【活動内容】事業戦略策定・評価を主な活動領域として以下を実施する。
 ●事業戦略策定
 ・経営要求の確認
 ・新ビジネスモデルへの提言
 ・事業戦略の実現シナリオへの提言
 ●事業戦略評価
 ・事業戦略の評価
 ・事業戦略評価結果のフィードバック
 
 [IS ストラテジスト] 
 【ミッション】事業戦略実現に向けたIS戦略を策定・評価する。【活動内容】IS戦略策定・評価を主な活動領域として以下を実施する。
 ●IS戦略策定
 ・対象領域ビジネス及び環境の分析
 ・IS戦略の策定
 ・IS戦略全体計画の策定
 ・IS戦略実行体制の確立
 ・意図と指針の周知
 ●IS戦略評価
 ・IS戦略全体計画の評価
 ・IS戦略の評価
 
 [プログラムマネージャ] 
 【ミッション】IS戦略の実現に向けて、複数の個別案件をマネジメントする。【活動内容】IS戦略実行マネジメントを主な活動領域として以下を実施する。
 ●IS戦略実行マネジメント
 
 ・IS戦略の分析・把握 
 ・IS戦略実行のモニタリングとコントロール 
 ・IS戦略実行上のリスクへの対応・コントロールフレームワークの維持・管理
 
   
 11の人材像を規定しています。上記3つの人材像がビジネスアナリシスの領域と重なります。 
 UISSのタスクの内容をBABOK® に整合させると、より良い人材像ができるのではないでしょうか。 
 ビジネスアナリシスは職種ではなく、役割(タスク)をまとめたものです。その意味では、ユーザー企業の情報システム要員のタスクを標準化したUISSとは親和性が高いと思います。 
   
 1.3.3 システムアナリスト試験(新ITストラテジスト試験) 
 [対象者像] 
 経営戦略に基づく情報戦略の立案、システム化全体計画及び個別システム化計画の策定を行うとともに、計画立案者の立場から情報システム開発プロジェクトを支援し、その結果を評価する者
 
   
 [役割と業務] 
 情報システムの企画・計画の段階で、情報戦略立案、システム化全体計画策定、個別システム化計画策定を行い、また開発・導入の段階で、戦略と計画に基づく情報システム構築の実施に関する推進支援や、システム化と同時に進める業務革新の推進支援を行うとともに、それらの結果に関する評価を行う業務に従事し、次の役割を果たす。
 (1)経営戦略と一慣性のある情報戦略を立案し、それを基づくシステム化全体計画を策定する。
 (2)情報システムに関する資源および組織の運営方針を策定し、システム化全体計画に反映
 させる。
 (3)ステム化全体計画に基づいて、業務革新に貢献するシステム化案を提案し、個別システム
 化計画を策定する。
 (4)戦略と計画に基づく情報システム構築と情報システムサービス運営の実施を支援し、
 合わせてシステム利用部門が主体で実施する業務革新を支援する。
 (5)計画立案者の立場から、システム化の結果に関して、合目的性、有効性・効率性・達成品
 質水準を評価する。
 
                        (IPA システムアナリスト試験(AN) 制度の概要 より) 
   
 システムアナリシスとビジネスアナリシスは言葉の違いぐらいで、似た内容ですね。狙いは共通だと思います。あえて違いを言えば、ビジネスアナリシスはその名称が示すように、よりビジネス側に立っているのではないでしょうか。制度としては試験のみで資格を認定するのか、実務経験を重んじるのかが大きく異なります。BABOK®では実務経験(5年以上)を重要視しています。 
   
 1.3.4 デファクト・グローバル・スタンダード 
 BABOK®と上記3つの国内の資格・制度との決定的な違いは、グローバル・スタンダードだと言うことです。ITC、UISS、情報処理試験は基本的に全て日本国内でしか通用しません(一部アジアに拡大しつつあるものもありますが)。最近の言葉ではいわゆるガラパゴス状態です。決して海外で通用する資格・制度となっていないのが残念なことです。 
 一方、BABOK®はIIBA™のビジョンにあるように、最初からグローバル・スタンダードをビジョンに掲げています。そして現実に既にグローバル・スタンダードの地位を獲得しています。BOK(知識体系)の内容にもまして、このグローバル・スタンダードであることの意義が極めて大きな強みとなっています。 
 最上流工程がスタンダード化されることの意義は極めて大きいものがあります。標準に則って作成されたソリューションの仕様(RFPなど)は世界中どこへ持って行っても、プロジェクト化することができます。それは、プロマネ以下テクニカルチームもBABOK®を理解しているからです。すぐに仕様の内容を理解することができ、素早く開発作業を開始することが可能となります。いわばRFPがテンプレート化(実際はもう少し複雑です)されていると思えば分かりやすいと思います。 
 これが標準化されていない仕様のやり方(例えばITCプロセスガイド)で記述されていたらどうでしょう。海外のプロマネやテクニカルチームは仕様書の読み方から学習しなければいけません(仕様が正しいかどうかの以前の問題です)。発注側は、ビジネス要求のまとめ方、ユーザ要求の記述の仕方、すべてそのつど説明する必要があります。しかも外国の言葉で。 
 一方、グローバル・スタンダードとしてテンプレート化されているRFPなら、どこに何が書かれているのが一目瞭然です。システム要求がビジネス要求(事業戦略や事業計画)に如何に結びついているのか明確に記述されます。もし事業計画とシステム要求に不整合があれば、逆にもっと良いシステム仕様が逆提案される可能性すらあります。 
 例えば、インドのシステム会社からより優れたシステム仕様が、日本のITベンダーの半額の見積金額で提案されたり。あるいは、システム計画の改善により、ビジネスケースとしてより収益の高い事業計画が逆に提案されるといことすらあり得るのです。このように、発注側と受注側の極めて建設的な議論に発展し得ます。BABOK®は発注側と受注側との効果的なコミュニケーションツールでもあるのです。これがグローバル・スタンダード(テンプレート化)の大きな価値です。残念ながら、そこにはガラバゴスの入り込む余地はどこにもありません。 
   
 私たち日本人(筆者自身を含めて)は、良い品質のものを作りそれを海外に認めてもらおう、という発想が強いと思います。昔、日本の製造業が世界で成功したやり方です。言い方を変えれば、品質が十分に優れていないと海外に持って行ってはいけない、と思っているのではないでしょうか。正直、筆者もそう考えていました。 
 このBABOK® およびIIBA™のやり方は本質的に異なっています。最初からグローバル・スタンダードになることをビジョンとして掲げているのです。BABOK®の内容(品質)も優れていますがそれ以上にすごいのは、このビジョンを既に実現していることです。グローバル・スタンダードというビジョンが実現すれば、世界中のベストプラクティスが集まり品質はさらに向上します。この良循環が既に回り始めています。私たち日本人には得意でない発想(やり方)だと思います。学ぶべきことかもしれません。いえ、素直に学ぶべきものだと思います。 
 すでにインド、中国でもBABOK®を取り入れています。台湾にもEEP(認定教育プロバイダ)が存在します。日本のIT業界としては、最上流工程のグローバル・スタンダードであるビジネスアナリシス(BABOK®)を一日も早く取り入れることではないでしょうか。さもないと、日本のITは世界から取り残されてしまう恐れすらあります。ガラパゴスで生きていける時代ではないのです。 
 
 
 
 
 
    
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
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