2009年6月30日
5.8 「基礎コンピテンシ(Underlying Competencies)」
7番目の知識エリアとしてある「基礎コンピテンシ」は他の6つの知識エリアと違い、タスクやプロセスを実行する前提としての知識、スキル、行動特性などをまとめたものです。英語のCompetenciesはカタカナのコンピテンシと意味が相当異なります。少しだけ脱線をお許しください。
英語のCompetencyは筆者の知る限り次の4つの定義があります(本当はもっとあるかもしれませんが代表的なものだとお考えください。
1.
Core Competence:
Gary
Hamel & C.K.Prahaladが有名な“Competing For The
Future”(「コアコンピタンス経営」:一条和生訳:日経ビジネス人文庫)で謳っている企業のCore
Competenceです。 組織が製品やサービスを生み出し、市場で競争優位を獲得するための組織の技術や生産の巧みな組み合わせを意味します。
2.
Competency Model:
これも有名です。自己、対人、成果、戦略、思考、等の分野と、遂行、適応、統合、創造等の次元を組み合わせ、30~40程度のコンピテンシモデルを構築します。その中から、各職種毎に5から10の重要なコンピテンシを抽出しその職種のコンピテンシモデルになります。つまり、その職種で常に高いパフォーマンスを上げている人材に共通のコンピテンシをまとめたものです。自己統制力、対人協調力、戦略立案力、成果追及力...など、たくさんあります。知識やスキルと異なり外部から観察しずらいものです。日本語のカタカナでコンピテンシと表現したものはほとんどこのCompetency Model のCompetencyを意味します。
3.
People CMMのWorkforce
Competency:
人的組織のコンピテンシ(workforce competency)は組織のCore Competenceに貢献するいくつかの事業活動を実施するために必要な知識、スキル、プロセス能力を結びつけたものとして定義されています。企業のCore Competenceと個人の知識/スキル/能力の中間に位置づけられています。People CMM以外ではあまり使われていません。
4.
何でもかんでもCompetency:
これは英語特有です。Competencyという言葉が斬新なイメージを持つからでしょうか。誰も何も定義しないで使用しています。要するに、知識、スキル、能力、コンピテンシ(コンピテンシモデル)などを十把一絡げにした総称として使用しています。
BABOK(R)のUnderlying Competencies は4番目の「何でもかんでもCompetencies」に近いものです。一方、カタカナ表記の「コンピテンシ」はほとんどの場合2番目のCompetency ModelのCompetencyを意味します。Underlying Competenciesの中で、コンピテンシ(カタカナ表記)を意味するのは、行動特性の「倫理」「仕事の段取り/処理」「信頼」のみです。他は知識とスキルだと思います。
ちなみに、筆者はカタカナの「コンピテンシ」という用語の使用を極力避けるようにしています。上記のように、数種類の定義が存在しかつ英語の定義と日本語(カタカナ)の意味が対応しなくなるの(つまり誤解)を防ぐためです。
最終日本語訳が「基礎コンピテンシ」になりそうです。上記のような誤解を与えなければ良いなと願っています。
それでは、本論に戻ります。
ここでは、「業界知識」と「組織的知識」に絞って、スキル標準との関連を考えてみます。
BABOK®2.0 より引用(筆者訳、表作成)
BABOK®の「業界知識」:の内容
「業界での競争力を知ること。年代・性別区分などによるさまざまなセグメントの顧客に共通する特徴。ビジネス要求を明確にするため、業界に影響を与えるメジャーなトレンド、それに対する競合他社の動向。その競合に対抗するために必要な変更を組織に推奨する。」
(筆者訳)
ビジネスアナリストとして必要な知識ですが、意外と深いと思います。顧客セグメントを正確に理解している人はどれだけいるでしょうか。そのセグメント顧客に共通する特徴やニーズを明確にすることそのものがタスク「ビジネスニーズを定義する」ことに通じます。大変重要な知識だと思います。
スキル標準ではどうでしょうか。顧客のセグメンテーションを考えている組織はどれだけあるでしょうか。ビジネスニーズを基に人材戦略を考えるためにも、ビジネスの基となる顧客ニーズの把握が欠かせません。ITベンダーに徹底的に不足している知識・スキルの一つではないでしょうか。
BABOK®)の「組織的知識」:の内容
「対象組織のビジネスアーキテクチャの理解。組織のビジネスモデルの理解。組織構造、ビジネスユニット間の関係、意思決定を左右する重要人物。非公式なレポートラインと権限(公式なものとは別に)、意思決定に影響する社内の政治力学の理解。」(筆者訳)
いかがでしょうか。アメリカを含むグローバルでも「非公式なレポートラインと権限」や「社内の政治力学」の知識が必要のようです。スキル標準を導入する時も共通ですね。
重要なのはこれらの知識を「暗黙知」として扱うのではなく「形式知」として明示的に扱っていることです。グローバルスタンダードであるためには、なるべく多く「形式知」として、明示することが重要のようです。スキル標準でも今後明示的に扱うことが必要だと思います。
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