| iPodはなぜ成功したのでしょう?
 
 
 大きな局面が2つあると思います。初期市場とメイン市場です。この2つの市場で大成功を収めています。そして、全てが事前に戦略が立てられていた、ということに尽きると思います。その戦略を見てみましょう。   ハイテク市場において最も重要なことは、テクノロジーライフサイクルです。これを理解しないと、どんな優秀な技術(製品・サービス)も市場で成功を収めるわけには参りません。  
 
 初期市場はイノベータとビジョナリーです。この2種類の人々には製品そのもの(テクノロジー)が優秀なことが重要です。多少使いづらくても自分たちの努力を惜しまずに使ってくれます。1000曲以上がいつでも聴けるということで、先進的なファンがiPodを使ってくれました。iTuneという使い勝手の良いソフトウェアが従来のMacファンを魅了したのです。
 
 初期市場での成功は 正しいセグメンテーションとコアプロダクトの優秀さでした。 ・        
HDベース(1000曲以上)の製品と使いやすいSW(iTune) ・        
Macファン好みの斬新なデザイン 
 初期市場での成功がそのままメイン市場での成功に結びつくでしょうか。そう簡単ではありません。初期市場とメイン市場の間には広くて深い溝(キャズム)が存在するのです。このキャズムを乗り越えない限りメイン市場に到達することはできません。 キャズムに関しては、のCrossing the Chasm(Jeoffery Moore)を参照してください。   ではどうやって、iPodはこのキャズムを乗り越えたのでしょうか。 ボーリングレーンと呼ばれる戦略です。ボーリングの1番ピンを倒すと、そのピンが2番ピン、3番ピンを次から次へ倒してくれることに比喩される戦略です。市場を適切に細分化(セグメンテーション)し、まず1番ピンに相当する市場セグメントを攻略し圧倒的シェアを獲得する。その勢いで隣のセグメントに波及してゆくというものです。iPodの場合はMacユーザーのセグメントが第1ピンでした。iTuneをWindowsにも使えるようにすることで、2番ピンであるWindowsユーザーのセグメントへ瞬く間に波及することに成功し、難なくキャズムを越えることができたのです。   キャズムを越えればメイン市場でも成功できるでしょうか。実はまだキャズムを越えただけで、大きなメイン市場での成功が約束されているわけではありません。 テクノロジーライフサイクルと共に重要なコンセプトがホールプロダクトです。
 
  
 テクノロジーが成功するためには、製品そのもの以外に、その周りのソフトウェア、サポート、サービスといった、全体としてユーザーの価値を高めるもの、すなわちホールプロダクトが形成されなければなりません。それは自社で提供するもののみならず、サードパーティ、ISV、などからも提供される必要があります。特にメイン市場の実利主義者、保守主義者はそういうホールプロダクトが出揃うのを待って、導入しようとするのです。当然価格も手ごろになっている必要があります。  
 
 実利主義者(最も大きな市場サイズ)は堅実です。あえて高いリスクを取ろうとはしません。回りの雲行きを見ています。彼らの典型的な行動パターンは以下のようなものです。 ・        
みんなで新しいパラダイムへ移行しようとします(みんなでわたれば怖くないから) ・        
デファクトスタンダードの出現を待ちます ・        
市場リーダーを支持します ですから、トルネードと呼ばれる現象が発生するのです。自然現象の竜巻(トルネード)同様、手が付けられない状態になります。売り上げが年率50%以上の成長が実現します。品薄状態になったりもします。 基本戦略は、大量に出荷できる体制を作ることです。そのためには次のことが重要です。 ・        
ホールプロダクトの簡略化 ・        
大量な販売チャンネルの確立 ・        
低価格化によるマーケットシェアの増加 ・        
熾烈な競合戦略 ・        
市場セグメントではなくグローバル市場   iPodの場合は、どうでしょうか。 拡張プロダクトとして、自前によるローコストの音楽配信を大々的に実現しました。USではそれがデファクトスタンダードを確立しました。日本でもリードが続いています(グローバル市場)。 ソニーがWalkmanで市場に参入し、その他の日本の音響メーカーも参入して、熾烈な競合状態になっています。 さらに、ソニーWalkmanの発表直前に低価格のiPodナノを発表し、低価格化まで確立し、プライスリーダーを維持しています。当然マーケットシェアもナンバーワンです。 まさにトルネード戦略そのものを遂行していることが分かります。日本では一時的ですが品薄状態も見受けられました。ヨドバシその他の全ての量販店で扱うようになってきました。 実利主義者に大々的に受け入れられたのは言うまでもありません。戦略だけでなくトルネード現象そのものが発生していることがわかると思います。マーケットリーダーを続けています。
 
 トルネードは長くは続きません。50%以上の成長率は2-3年で終わります。その後、10%以内の落ち着いた成長(メインストリート)になります。また、ホールプロダクトも理想のプロダクトが必要です。まだ実現していないので分かりませんが、携帯電話との融合かもしれません。楽しみです。   
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