2009年1月5日
ITSSの導入事例の発表を紹介します。
【「ITスキル標準」導入プロセス実証実験に参加して】(株式会社エイチ・アイ・ディ様)
この事例の特徴は、IPAスキル標準センターの「中小企業におけるIT人材育成強化事業」一環として実施されたもので、通常の導入事例とは異なりIPAがスポンサーとなり、外部コンサルタント指導のもとに行われたものです。しかも首都圏とは離れ、場所も北海道の中小企業が参加されました。その意味でも極めてユニークな事例と言えます。
IPAの「中小企業におけるIT人材育成強化事業」について:
この事業の目的:
ITスキル標準を中小企業に適用し、導入プロセスの実証実験を行い、中小企業における
「ITスキル標準」の活用手引きとして公開し、他の中小企業の人材育成に対する参照モデル
を提供する。
事業内容:
(1)「ITスキル標準」導入プロセス実証実験の実施
(2)「ITスキル標準」活用手引き書の作成
(3)成果物
「ITスキル標準」導入プロセスの実証実験報告書(Web上で公開予定)
「ITスキル標準」活用の手引書(Web上で公開、及び書籍として提供予定)
ということなので、IPAとしてもかなり気合いの入った事業のようです。
では、具体的な事例を見ましょう。
株式会社エイチ・アイ・ディ様については、Webページの会社情報をご覧ください。
北海道札幌に本拠を置く、従業員230名程度のIT企業です。
URL: http://www.dosanko.co.jp/hid/flash/index.html
この実証実験で行ったこととして以下のリストがあります。
−要求分析(モデリング)
−機能分析(モデリング)
−To-Beファンクションモデル構築
−目標人材モデル策定
−人材ごとにスキルセットを構築
−パイロット・スキルレコーディング
−総括
(「スキル標準ユーザーズカンフェランス2009」発表資料より)
上記を見る限り、スタンダードな導入方法を採用されているようです。
前述のIPAのプレゼンでは、この部分の特徴が垣間見れましたのでご紹介します。
導入プロセスのワークショップを効率的に実施しているようです。
イベント 内容
1.キックオフ会議 情報共有
2.ワークショップ 要求モデル
3. 同上 ファンクションモデル
4. 同上 キャリアフレームワーク
5. 同上 スキルセット
6. 同上 パイロットレドーディング
7. 同上 まとめ
これだけの内容を3か月で実施という、かなり強行なスケジュールです。
ポイントはテンプレートの有効活用による作業の効率化のようです。
前回ご紹介したETSS実証実験でもテンプレートを活用しましたが、ユニークな組織でなければ十分に活用できると思います。短期間で成果を出すためにはかなり有効だと思います。
「ITスキル標準」導入実験で得られたこととして、以下があげられています。
要求分析(モデリング)
⇒次期中期経営計画で策定した「経営方針」を要求モデルへ展開し、
具体的な施策へ落とし込んだ
機能分析(モデリング)
⇒次期中期経営計画にとって必要な機能を洗い出し、機能と組織とを対応付けた
目標人材モデル策定
⇒9つの人材像(キャリア)を設定し、レベルを6段階で定義した
パイロット・スキルレコーディング
⇒社員の中からパイロットメンバーを募集し、スキル評価を行って現状を把握した
(「スキル標準ユーザーズカンフェランス2009」発表資料より)
スキル標準を着実に導入されていることが分かります。
9つの人材像(キャリア)は、組織の特性を表わした以下のとおりです。
ストラテジックオフィサー: レベルVI(ITSSレベル5)
ソリューションセールス: レベルI(ITSSレベル1)−レベルVI(ITSSレベル5)
システムコンサルタント: レベルV(ITSSレベル4)−レベルVI(ITSSレベル5)
プロジェクトマネージャ: レベルIV(ITSSレベル3)−レベルVI(ITSSレベル5)
ITアーキテクト : レベルIV(ITSSレベル3)−レベルVI(ITSSレベル5)
アプリケーションデザイナ: レベルIII(ITSSレベル3)−レベルV(ITSSレベル4)
ソフトウェアデベロッパ : レベルI(ITSSレベル1)−レベルIV(ITSSレベル3)
ITスペシャリスト : レベルII(ITSSレベル2)−レベルV(ITSSレベル4)
システムアドミニストレータ: レベルI(ITSSレベル1)−レベルV(ITSSレベル2)
(「スキル標準ユーザーズカンフェランス2009」発表資料より)
ITSSの11のキャリアをそのまま使うのではなく、組織の実際の仕事に合わせてキャリアを設定されて、必要なキャリアにまとめ上げています。ITSSキャリアフレームワークの、マーケティング、カスタマーサービス、エデュケーションの3職種が存在しないようです。このようにITSSを参照モデルとして自社に必要な職種のみを設定されています。
6段階のレベルは、ITSSのレベル1から5までとし、レベル3を上下2レベルに細分化しているとのことです。ETSS実証実験でもそうですが、レベル6やレベル7の人材を育成することまではプロジェクトのスコープから外しています。特にレベル3を上下2レベルに細分化することは実に理にかなっています。組織の実力に見合ったレベルを設定していると言えます。
そして常套手段ですが、定義されたスキルセット、キャリア、レベルの定義をスキル標準ユーザー協会保有のSSI-ITSS(スキルインベントリーシステム)に実装して、レベル判定のパイロットレコーディングを実施されました。詳細は発表されませんでしたが、レベル判定のチューニングに時間がかかっているとのことでした。
今後の展開が期待されます。
本実証実験の意義
IPAが導入実験を実施されたことの意義が大きいと思います。IPA(スキル標準センター)は主にITスキル標準のメンテナンス業務をされてきました。今までに、V2やV3を発表するだけでなく、プロフェッショナルコミュニティを開催し、専門家による各キャリア(職種)のスキルの改善に努めてこられました。現在8職種のプロフェッショナルコミュニティが活発に活動されています。そしてこのプロフェッショナルコミュニティの提言を基に、ITスキル標準が改訂されているのです。
一方、啓蒙活動も盛んにされてきましたが、ITSSの普及は大手(1,000人以上のIT企業)では60%以上普及してきましたが、中小企業(従業員数300人未満)では20%以下にとどまっています。そのため、ITSSをさらに普及するためには、中小企業を啓蒙し普及することが緊急の課題となっていました。さらに、大都会と地方で分類すると圧倒的に地方での普及率が低いのが現状です。
今回、まさに北海道で従業員数300名以下という、HID様に対しての実証実験はまさに、上記2つの条件に当てはまる格好のモデルと言えます。このモデルでの成功事例を今後「活用の手引書」としてまとめて公開していくことは、同等規模(かつ地方)のIT企業にとってのモデルケースとなりうるものではないでしょうか。「活用の手引書」の公開を期待するところです。
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