IPAより、「IT人材市場予備調査 報告書」が発表されましたので、内容を吟味します。
大変興味深いデータです。
−やはりそうか(仮説が裏付けられた)という部分
−えっ、これはまずいのではないの(新たなネガティブな発見)
−調査そのものに関する疑問(残念な部分)
いろいろあります。
詳細は是非、本物をご覧ください。
URL:http://www.ipa.go.jp/about/press/20080129.html
以下は、調査報告書より抜粋しています。
まずは、職種別の人材の分布です。
PM: 15.9%
ITS: 11.9%
APS: 33.9%
SWD: 11.6%
上記職種(上位4者)の合計が約74%です。ほぼパレート分布に近いものです。
さらに、規模別では、以下のようになります。
大企業ほど、PM比率が高まります。一方APSとSWDは逆傾斜(中小企業ほど比率が高い)です。
これは請負構造が如実に出ているような気がします。
これも予想通り、大企業ほど入れる人材に恵まれている(処遇できるから)様です。
レベル6・7の人材の職種分布では、
CONS: 12.2%
PM : 32.4%
APS: 10.0%
SWD: 13.6%
SWDが意外と多いな、という感じがします。
今後特に重点的に確保・育成を図りたい職種では、
1000名以上規模では、
PM、ITA、ITS、CONS、APS の順です。
100名〜300名未満では
PM、APS、ITS、SWD の順となり、企業規模による格差がみられます。
この辺までは、ほぼ予想通りのデータとなっています。
失望は人材育成への投資の少なさです。完全に2極化しています。格差が現われてしまっています。
育成への投資額が売上の1%未満の企業がなんと全体の57%もあります。
これではお先真っ暗としか言いようがありません。投資をしていないに等しいことです。
一方、1%以上が27.8%あり、完全に2極化しています。ここでも格差社会が顕在しています。
投資額0.5%未満の企業はせめて1%以上(これが決して十分な投資額とは思いませんが)にしないと、今後とんでもないことになるのではないでしょうか。
昨年あたり、IPAの某センター長はことある講演で、「売上の5%を人材育成に投資するべき」とおっしゃっていたことを思い出します。現実の数字を目の当たりにすると某センター長が声高々に訴えられていた気持ちがよく理解できます。これでは日本のIT産業は衰退するしかないような気がします。
ITSS導入以前の問題が大きいようです。投資額が1%未満の企業の成熟度レベルはレベル1としか言いようがありません。大変ショッキングな数字を見てしまいました。
規模別に集計されていないのが、大変残念です。おそらく規模別にすると大企業は、%分布が高い方(1%以上)になるのではないでしょうか。規模が小さい企業が低い方(0.5%未満)に集中するような気がします。ぜひ、データの裏付けが欲しいと思います。公表できないのでしょうか。
データで裏付けされれば、何らかの対策が考えられると思いますが、想像から結論は出ませんので残念です。
人材育成に関する課題を見ると、さらに一目瞭然です。
まさに、デス・スパイラルそのものが現われています。
育成には費用がかかるものです。それが投資です。ITサービス業で人材に投資しなくて、一体何に投資するのでしょうか。人材のみがビジネスの資源だということの認識が決定的に不足しています。費用対効果は出す方法はいくらでもあります。やる気の問題だと思います。ITSSはその手段の一つだと思います。
投資をしないビジネスは衰退するのみです。
これは、企業の規模別集計が出されています。IPAの報告では以下のとおりです。
◆全体の結果と企業規模別の結果には、明確な差が見られる。
◆大企業では「育成の費用対効果の明確化」が課題となっている。
対する中小企業では、「育成の費用そのもの」や「指導人材の不足」が課題とされている。
◆100名未満の企業では、「人材を育成しても途中でやめてしまう」
との回答が、他より高い。
IPA「IT人材市場動向予備調査」より
上記から、やはり中小企業の方が人材育成への投資が少ないことが類推できます。大企業が費用対効果を課題としているのは、人材育成に投資をしている証拠とみられます。投資はしていてもビジネス成果との関係が不明のようです。一方、中小企業では育成費用の予算そのものが乏しいのでしょう。
なぜ、人材育成への投資が少ないのでしょうか。このまま2極化が進むと、中小企業はますます下請け構造から抜け出すことが難しいと思います。逆にそれを打破するためには、人材に投資するしかありません。経営者の力量が問われているようです。
では、ただ研修をすればいいのでしょうか。そこには戦略が必要です。自社のビジネス戦略を徹底的に考えることです。他社に負けない分野を確立することです。
傑作は、企業側の期待する教育と大学が重視している教育とのギャップです。
大学はお客様が誰で、そのニーズを何も分かっていないことがよくわかります。
これでは大学の将来は暗いものと言わざるを得ません。
どんなビジネスもそうですが、「お客様は神様」です。大学は学生の保護者(大学生に保護者はいませんので、正確な表現ではありませんが、意図は分かると思います)がお客様だと勘違いしているようです。企業でいえば、資本家の立場であり、投資家は企業の顧客ではないことは誰でもわかると思います。本当に困ったものだと思います。
「文章作成力・文章力」などは大学の国語教育の怠慢そのものです。文章力のバイブルとして有名なベストセラー「理科系の作文技術」(木下是雄著:中公新書)は27年前の著作ですが、国語学者ではなく、なんと物理学者が書いたものです。30年近くたった今日でも、なぜこの本の右に出る文章力の本が国語学者から出ないのでしょうか。エンジニア(物理学者も含めて、理科系人材)は小説を書く必要はありません。誰にでもわかりやすく、曖昧さのない文章を書く必要があります。一方、小説などはむしろ曖昧な日本語としての美しさ(例:川端康成の「美しい日本の私」などが典型)を大切にするようです。日本の国語教育は、まだあいまいな日本語教育をしているのでしょうか。大変理解に苦しむところです。
【後編に続く】
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