| 2009年4月13日 
 
   IPAより、「IT人材市場動向調査 報告書」が発表されましたので、内容を吟味します。 昨年の「予備調査」に引き続き、今年から本調査を開始したようです。 大変興味深いデータですので昨年に引き続きご紹介します。   詳細は是非、本物をご覧ください。   URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/activity/activity2.html#20090226   尚、昨年の「予備調査」に関するメルマガの内容をWebページにも公開してあります。昨年との比較をされたい方は、ぜひご覧ください。  URL: http://www.kbmanagement.biz/sub340.html     以下は、調査報告概要版より抜粋しています。 
   最初に気になるのは、調査期間です。  
 IPA「IT人材市場動向調査」より   現在のような景気の状況になるとはだれが想像できたでしょうか。その意味では仕方ないと思いますが、2008年9月18日〜10月3日(約2週間)はまだ昨年の好景気が反映しているような気がします。調査データ(その時点での「事実」)を現在(2009年4月)の「事実」と勘違いしないようにしましょう。すこし割り引いて考慮しなくてはいけません。大変難しいことです。   例えば、「人材の不足感 人材の量」に関する部分です。 
  
 IPA「IT人材市場動向調査」より   確かに調査時点では、「1001名以上の大企業で、人材の不足感が昨年度より増加している」と思います。その後のいわゆる「トヨタショック」「ソニーショック」の後の現在の状況はすでに異なっているのではないでしょうか。   景気動向の影響が少ない部分を見ましょう。 ITスキル標準の職種別人材分布はどう変化したでしょうか。 
  
 IPA「IT人材市場動向調査」より      H20調査    H19調査    PM:   14.1%    15.9%    ITS:  11.1%    11.9%    APS:  37.7%    33.9%    SWD:  6.6%    11.6% 上記職種(上位4者)の合計が約69.5%(昨年は73%)です。ほぼパレート分布に近いものです。 昨年の調査と、大差ありません。APSとSWDの関係は上記IPAコメントのとおりだと思います。 ここで気になるのは、ED(エデュケーション)職です。昨年でも少ないと感じていたのですが、H20ではさらに0.3%(H19は0.7%)にまで下がってしまっていることです。IT人材の教育を考える人たちがこんなに少なくて良いのでしょうか。危機感を感じます。だれがITスキル標準の導入を進めているのでしょうか。それともITスキル標準は導入していないのでしょうか。大きな疑問を持ちます(これだけのデータでは結論が出ませんが)。   つづいて、今後拡大したい職種を見てみましょう。 
  
 IPA「IT人材市場動向調査」より   今後特に重点的に確保・育成を図りたい職種では、 H19と同範囲の企業では、  PM、APS、ITS、ITA、CONS の順です。 むしろ興味深いのはH20の追加地域企業では  APS、PM、ITS、SWD の順となり、大きな格差がみられます。 どうも、H20追加企業はプロマネを持たない、下請け企業が多いかもしれません。   人材の確保・育成の手段はどうでしょうか。    
 IPA「IT人材市場動向調査」より   「エデュケーション」が「国内アウトソース先の活用」とありますが、N=16 X 6.3% はちょうど1ですから、回答者16名(16社)のうち1名(1社)のみが「国内アウトソース先」と回答したようです。これが、この1社特有の事情なのか、業界の傾向としてアウトソースがポピュラーになりつつあるのか、これだけの調査結果では何も言えないと思います。 プロジェクトマネジメント(N=263)とエデュケーション(N=16)の中の比率を同じ尺度で%表示することは適切でしょうか。少し疑問を感じます。   ここからが本論です。ITスキル標準の利用状況は昨年からどれだけ改善され(増加し)ているのでしょうか。 
  
 IPA「IT人材市場動向調査」より   「ITスキル標準の利用が着実に浸透している」と結論付けていますが、本当でしょうか。もう少しデータを見ましょう。 確かに、「現在利用している」と回答している企業は増えています。しかし気になるのは「現在利用を検討している」と回答している企業数が大幅に減少しているのです。そして、その2つの合計はどうでしょうか。      H19調査              H20調査  全体 28.3%+27.5%= 55.8%     33.0%+19.6%= 52.6%  マイナス3.2ポイント  100名未満     33.3%            32.0%  マイナス1.3  100名以上300未満 53.5%            49.7%  マイナス3.8  300名以上1000未満 76.9%           67.8%  マイナス9.1  1000名以上    77.9%      
      89.4%  プラス11.5ポイント   このような数字になります。大企業(1000名以上)以外は、全体をふくめてマイナスになっているのです。「現在利用している」企業は増えましたが、大企業以外ではこれ以上は増えないことが予見されます。由々しき事態だと感じるのは筆者だけではないと思います。 さらに、特定企業かもしれませんが、大企業(1000名以上)の「現在利用している」と回答している企業も減っています。63.4%(H19)から60.5%(H20)です。母数も変化があるので(H19はN=41、H20はN=38)単純ではないかもしれません。このあたりの説明が何もないまま、「ITスキル標準の利用が着実に浸透していることが把握された」と結論づけることは少し無理があるような気がします。データ(事実)を自分の都合のよいように解釈したい気持ちは分かりますけれど。   昨年の調査にあって、今回の調査にない(公表されていないだけであるのかもしれませんが)データがあります。筆者が昨年最も失望したものです。 それは、人材育成への投資額です。今年のデータがありませんので、昨年のデータをご覧ください。 
  
 IPA「IT人材市場動向予備調査」H19より    0% : 4% 0.1%〜0.5%未満: 34%。  0.5%〜1.0%未満: 19%  1.0%〜5.0%未満: 21.6%  5.0%〜10%未満: 2.8%  10%以上   : 3.4%  無回答    : 14%   この数字はどう変化しているのでしょうか。大変気になります。改善していることを期待していたのですが、今回の調査になぜ含まれていないのでしょうか。現実は(最近の不況の影響で)さらに悪化していることは確かです。しかし、調査時点(昨年の9月、10月)はどうだったのでしょうか。今回の発表には何もないのが大変残念です。 
 【その2】に続く
 
 
 
 
 
 
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