2009年4月20日
第2章 ユーザー企業向け「IT人材動向調査」
まず、人材の「量」と「質」に対する過不足感です。
IPA「IT人材市場動向調査」より
・「量」、「質」どちらについても、「(大幅に/やや)不足している」
と答えた企業が8割を超えている
・特に「量」より「質」について、「大幅に不足している」という回答が
多くなっている。
では一体どのような人材の「質」が不足しているのでしょうか。大変気になりますが、残念ながら今回の調査では明らかになっていません。
代わりに、JUASの調査データ(2008年実施)をご紹介します。調査方法その他単純に比較はできませんけれど、参考になると思います。
2008年JUAS調査より
JUASによれば、IT要員に必要な能力は「戦略・企画力」「要件定義力」「プロジェクトマネジメント能力」の3つです。
我田引水になりますが、この3つのうち2つ、「戦略・企画力」と「要件定義力」はまさにビジネスアナリシス(その知識体系としてのBABOK(R))そのものです。
また、能力の充足しているところとそうでない部分の調査もあります。
2008年JUAS調査より
ご覧のように、不足している能力分野として「戦略・企画能力」「プロジェクトマネジメント」「ITアーキテクト」の3分野が具体的に出てきます。4番目はやはり「要件定義能力」です。不足分野を補うためにも、ビジネスアナリシス(その知識体系としてBABOK(R))が有効なことが分かります。IPAの調査結果を紹介しているつもりでしたが、JUASの調査結果の紹介になってしまいましたね(笑)。
つづいて、IT関連業務の人材の割合です。
IPA「IT人材市場動向調査」2009年2月より
今回は共通キャリア・スキルフレームワークの人材像で分類したものです。テクニカルスペシャリストが最も多いのが一目瞭然です。ただこの分布が好ましいものなのかどうかは何も分かりません。
前のスライドで、人材の「量」と「質」が大幅に不足しているとありますが、この人材分布との関係はいかがでしょうか。25.7%のテクニカルスペシャリストで足りているのでしょうか。ストラテジストが12.9%で十分なのでしょうか。それとも不足しているのでしょうか。不足している人材はどこでしょうか。質が不足している人材はどこでしょうか。質として何が不足しているのでしょうか。上述のJUASの調査の方が深みがあるようです。
次回の調査を期待したいと思います。
昨年の予備調査と比較してみます。
IPA「IT人材市場動向予備調査」H19より
ユーザー企業における情報システムユーザースキル標準職種の人材分布(H19調査)
ビジネスストラテジスト : 3.7%
ISストラテジスト : 4.8%
プログラムマネージャ : 4.5%
ISアナリスト
: 3.9%
プロジェクトマネージャ : 13.0%
ISアーキテクト : 7.5%
システムデザイナー : 11.4%
アプリケーションデザイナー : 19.7%
ISアドミニストレータ : 6.2%
セキュリティアドミニストレータ : 2.4%
ISオペレーション : 13.4%
ISスタッフ : 8.4%
ISオーディタ : 1.0%
ご覧のように、昨年の予備調査は「情報システムユーザースキル標準(UISS)」の人材像(11種類)で人材分布をだしていたのですが、今回の調査では「共通キャリア・スキルフレームワーク」の人材像(6種類)による分布に変わりました。それなりの改善をされたようです。昨年のUISSの人材像(11種類)は現実を反映していない(この人材像で仕事をしている組織はほとんどあり得ない)ことを認識した結果だと思います。
少し乱暴かもしれませんが、昨年の結果と比較してみましょう(本当はこれが知りたかったのです)。調査結果で比較がありませんから、少しチャレンジしています。やり方はそれほど難しくありません。共通キャリア・スキルフレームワークの人材像とUISSの人材像の対応表を参照すればよいのです。
昨年(UISSの人材像) 今年
ビジネスストラテジスト : 3.7% ストラテジスト : 12.9%
ISストラテジスト : 4.8%
プログラムマネージャ
: 4.5%
ISアナリスト : 3.9%
小計: 16.9%
昨年と比較して、ストラテジストはかなり減少しているようです。
これで良いのでしょうか。それとも調査方法の違いによる差なのでしょうか。
プロジェクトマネージャ : 13.0% プロジェクトマネージャ: 14.1%
プロジェクトマネージャはあまり変わっていないようです。
ISアーキテクト : 7.5% システムアーキテクト : 11.9%
アーキテクトはかなり増加しているのでしょうか。
こちらも調査方法の違いもありそうです。
システムデザイナー : 11.4% テクニカルスペシャリスト: 25.7%
アプリケーションデザイナー: 19.7%
小計: 31.1%
テクニカルスペシャリストも減少でしょうか。
ISアドミニストレータ : 6.2% サービスマネージャ 12.6%
セキュリティアドミニストレータ:2.4% ISアドミニストレータ
小計: 8.6%
この辺になると、同じ人材像と言っていますが、その定義が本当に対応できているのか疑問になります。
ISオペレーション : 13.4%
ISスタッフ : 8.4%
ISオーディタ
: 1.
昨年のUISSによる人材分布と、今回の人材像による人材分布の比較をしてみました。
あまり精度は期待できません。人材像(または職種)の定義をしっかりしないと、本当に増えているのか、減っているのかわからないと思います。それだけ調査開始段階での定義が重要のようです。
なお、最後に「IT人材の育成に携わる人員」が6.5%とあります。本当でしょうか。ITSSのエデュケーション人材の全体に対する割合は、先号でご紹介したとおりわずか0.3%(昨年は0.7%)です。そこから類推すると、このパーセンテージ(20倍以上)はかなり疑問に感じます。オリジナルの質問項目が公表されていないので、なんとも言えないところですが。こういうありえない数字がでると、調査そのものの信憑性を疑う人もいるかもしれませんね。少し心配です。
次は、UISSの利用状況です。
IPA「IT人材市場動向調査」2009年2月より
確かに昨年より増加しています。
先日の「イノベーション経営カレッジ」でも、人材育成にITSS/UISSを活用しているというカシオ計算機のCIOの発表がありましたので、増加傾向であることは確かだと思います。少し気になるのは1000名以上の大企業での浸透は進むと思いますが、300名以下の中小ではどうなるでしょうか。ITSSでもかなりの差が出ています。UISSではもっと大きく差が出るかもしれません。今、結論づけるのは早いので、もう少し推移を見たいと思います。
最後のスライドです。
IPAが今年力を入れている、ITパスポート試験です。
IPA「IT人材市場動向調査」2009年2月より
先日の「イノベーション経営カレッジ」記念シンポジウムの懇親会で、来賓としてあいさつされたIPA理事長の西垣氏によると、今回(2009年4月19日実施予定)のITパスポート試験の受験応募者数は約46,000人(筆者の記憶に間違えがなければ)だそうです。数の上では成功と言えるのではないでしょうか。
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