(2)レベル評価手段として情処理技術者試験の活用(レベル1〜3)
客観的な人材評価メカニズムの構築を可能にするため、ITスキル標
準のレベル1〜3の評価について、基本的に情報処理技術者試験の位
置づけを明確化した。
図1−2 共通キャリア・スキルフレームワークに基づくレベル判定
(出典:人材育成WG報告書)
A:レベルの基本的な考え方、B:情報処理技術者試験の位置づけ、C:従来の「達成度指標によるレベル評価」、そして、D:今までの混乱と誤解、の4点にわけて説明します。
A:レベルの基本的な考え方:
「ITスキル標準V3 1部:概要編」によると、レベルの基本的な考え方は次のとおりです。
....プロフェッショナルの評価は、あくまでも経験と実績の指標
である「達成度指標」を用いて行う。
スキル熟達度で評価するのは、限定的な範囲での能力であり、その
熟達レベルは、達成度判定のための必要条件であるが、十分条件ではない。
スキルの熟達が人材としての最終目標ではないためである。ITスキル
標準で重要視するのは、プロフェッショナル人材であり、スキルの熟達
に基づき、ビジネス上で顧客の要求を満足する成果をあげられる人材である。
これはV2と全く同じで、一字一句違いません。すなわちレベルの基本的な考え方は何も変わっていないのです。
次に、各レベル(3〜1)の中身を見てみましょう。
◆レベル3
要求された作業を全て独力で遂行する。スキルの専門分野確立を目指し、プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有する。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められる。
◆レベル2
上位者の指導の下に、要求された作業を担当する。プロフェッショナルとなるために必要な基本的知識・技能を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
◆レベル1
情報技術に携わる者に最低限必要な基礎知識を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
これらも、V2と本質的に変わりません。ただレベル1が少し緩やかになりました。IT
パスポート試験を考慮したためだと思います。
B:情報処理技術者試験の位置づけ: 【条件付きレベル認定】
情報処理技術者試験が改革をし「共通キャリア・スキルフレームワーク」に合致させたので、ITスキル標準のレベルにも対応できるようになりました。
以下のとおりです。
ITスキル標準 情報処理技術者試験
達成度指標 スキル熟達度 業務と役割
レベル3 要件に対して メンバーとして 独力で役割
独力で達成 独力で実践 を果たす
レベル2 上位者の メンバーとして 上位者の指導の
指導の下 上位者の指導の 下、役割を果たす
下で実施
レベル1 担当作業 基礎的な知識を 活動を行う
を実施 を有する
ここまで整合できたので、試験の合格をもってレベルの評価に代えても良いでしょう、ということになったのです。
でも、Aの基本的な考え方はV2と何も変わっていなく「経験と実績の指標である達成度指標」で評価するべきものですが、V3では「各レベルに対応する情報処理技術者試験の合格をもって当該レベルの入り口に立ったと見做す」ことになりました。「合格者は...定義されている「達成度指標」の記述を認識し、そこで求められている「実務能力」を習得するため、要請されている経験を積むことが必要である。」すなわち、「条件付き」(もしくは見習い)のレベル認定と言ってよいと思います。運転免許の初心者マークのようなものです。まだ見習いなのだから、一般道路を安全運転に心掛けて(条件付き)運転しなさい、ということです。
このことを日経ITPro(3/31付)では「エントリー基準」と表現しています。確かに、レベル3は幅が広く、その中を上、下、の2段階に分割して実施している企業もあるようですから、レベル3の一番下の「エントリー基準」という表現もうなづけます。実務がしっかりできるようになったら本物のレベル3ということになります。
(日経ITproのURLは以下のとおりです。合わせてご覧ください。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080331/297556/?bzb_pt=0 )
C:従来の「達成度指標」と「スキル熟達度」による認定
注釈として「情報処理技術者試験を用いない場合のレベル評価指標として「達成度指標」と「スキル熟達度」が引き続き有効であることは言うまでもない。....」と丁寧に従来の認定方式も明記(併記)されています。これなら従来から社内で認定していた企業も安心だと思います。
試験合格者はまだ「条件付き」ですから、実務経験のない学生をレベル2とかレベル3に認定する企業はまずないでしょう。レベル3の条件は「すべて独力で実施できる」ですから、かなりきついかもしれませんね。
結論としては、なかなかうまい落とし所に落ち着いた、という感じがします。ITスキル標準センターの見識が高度に発揮されたようです。
これからは、試験に合格した方を「条件付きレベルX(X=1,2,3)」と表現するようにしたらよいと思います。
D:今までの混乱と今後の導入の責任
昨年7月の「人材育成WG報告書」から、ITSS、ETSS、UISSそして情報処理技術者試験を「共通キャリア・スキルフレームワーク」に統合し、「試験合格で当該レベルを認定する」という方針。ITパスポート試験をレベル1、基本情報技術者試験をレベル2、応用情報技術者試験をレベル3に対応させるという、あまりにも荒っぽいやり方には、明確に反対意見を述べてきました。それなりの意味があったことをご理解いただければ幸いです。
課題はむしろこれからです、運用する企業側に委ねられるところが多くなっています。試験結果がレベルにリンクされたので、それだけに頼ってしまう企業が出ることを危惧します。それは、企業自らの人材育成の責任を放棄することにつながるからです。
IT企業は責任をもって運用しなければいけません。人材育成を試験制度に任せ、合格結果のみを鵜呑みにすることは許されません。自らが主体的に人材育成の責任を果たしていかなくてはいけないのです。それには、外部コンサルタントの果たす役割が今まで以上に大きくなったのではないでしょうか。
何はともあれ、課題は残りますが、ITスキル標準V3が発表されました。多くの企業が正しく導入していただけるように、微力ながら尽力したいと思います。
【Part3 に続く】
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