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スキル標準成熟度モデル(SMM: Skill Standard Maturity Model)Ver 0.1
               (その10) 最終回


レベルVの特徴です。

CMMのレベル3(定義されたレベル)に相当します

・全プロセスがビジネス戦略と整合(リンク)しています

・顧客満足度調査が実施され、結果が教育体系計画に反映されます

 (レベル4: 教育が実施され、次回の顧客満足度調査で効果が把握されている)

・従業員満足度調査が実施されます

 

 

ビジネス戦略/
ビジネス効果
人材像/
GAP分析
教育体系/
キャリア計画
レベル認定 組織文化
その他
レベルV 【ビジネス戦略】

【顧客満足度調査】
【スキル分析/定義】

【人材像策定】

【キャリアモデル提示】

【スキル診断(GAP分析)】
【組織トレーニング(教育ニーズの統合)】

【個人別教育計画】

【メンタリング】
【社内認定(外部コンサルコンサル関与)】 (参加型文化)
【従業員満足度調査】


注)全プロセスが有機的にリンクされている(Defined)



連載の最後です。

成熟度レベル3を実現するために必要な、リソース(人と金)についてまとめてみます。

A.人に関して(人数)

B.人材

C.予算

3つの要素について解説します。

 

A) レベル3を実現するために必要な教育人員(人数)

ITスキル標準のドキュメントにはありませんが、もしくはトータル人員の2%程度、もしくは最低でも2名必要です。100名の組織なら2%2名になります。100名以下で2名ということです。1人では、休暇をとることができませんので、人員に対する%が高くなりますが、複数人数(2名)が必要です。規模が大きくなれば、%は減ります。1,000人以上の大企業なら、1%1.5%位になるでしょう。それに達しない場合、外部コンサルを依頼するなどの措置も必要になります。そんな余裕はないと思っている経営者が多いのが現状かもしれません。

しかし、考えてみれば投資をしない事業(企業)は将来がありません。いつまでも親会社、得意先に言われるまま仕事をし続けるわけにはいかないと思います。そろそろ重い腰を上げる時期が来ているのではないでしょうか。

 

一方、IT企業の現状を見るとさびしい限りです。今年IPAより発表された「IT人材市場予備調査」によると、エデュケーション人材は全体のわずか0.7%、推計5149名しかいません。しかもこの中には、IT教育ベンダー(XXXラーニング、YYYアカデミー、ZZZ-メディアなど)が含まれていると思います。その教育ベンダーのエンジニアは全員エデュケーション人材だと考えると、一般IT企業のエデュケーション人材は半数以下ということになります。おそらく1,000名〜2,000名ではないでしょうか(人数は清水の推測です)。それをIT人材の総数(約76万人)で割ると大変お寒い数字になってしまいます。はたして、これでIT人材育成ができるのでしょうか。人材教育を行っているのは、ほんの一握りの大企業のみという構図が浮き彫りにされます。

 


詳細は是非、本物をご覧ください。

  URLhttp://www.ipa.go.jp/about/press/20080129.html

 

 

B) 成熟度レベル3を実現するために必要な人材は以下のとおりです。

パフォーマンス・コンサルタント

インストラクショナルデザイナ

インストラクター/ファシリテータ

キャリア・コンサルタント

 

パフォーマンスコンサルタント

ハイレベル人材は、ビジネス戦略を基に人材戦略からキャリアモデル、GAP分析、スキル定義など、ITSS導入の責任を担う人材です。社内レベル認定の事務局も務めます。場合によってはビジネス戦略そのものを策定する可能性もあります。これはIT企業は人材なくしてビジネスが成立しないため、すなわち人材の裏付けのないビジネス戦略は成立しないからです。それだけ重要な位置づけになります。

 

尚、パフォーマンス・コンサルタントという名称は、人材開発部門の従来の役割であった「研修の提供」を、企業の「ヒューマン・パフォーマンスの変革」へのパラダイムシフトを表す職種として、生まれたものです。

 参考文献: 「パフォーマンス・コンサルティング」 (株式会社ヒューマンバリュー)

         Dana Gaines Robinson & James C. Robinson

 

インストラクショナル・デザイナ:

文字通り、研修/教育をデザインする人材です。日本では絶対的に不足しています。専任の人材がいるのがベストですが、後述のインストラクター/ファシリテータが兼ねることも可能です。

これからもてはやされること必至のプロフェッショナル職だと思います。問題はインストラクショナル・デザインを教えることのできる人材が極めて少ないことです。

 

インストラクター/ファシリテータ

説明する必要もないと思いますが、大事なことは従来の教え方(教師が生徒に一方的に教える)だけではなく、受講者が主体的に学習する、アダルトラーニングの考え方にシフトしているということです。前者は従来型のインストラクターであり、後者は新しいファシリテータと言えます。この2つはかなりスキルが異なりますから注意が必要です。

講師が何を教えるかが重要なことではなく、受講者自らが何を学び実践するかが重要になります。受講者自らが学ぶ過程をサポート(ファシリテータ)できるスキルが必要です。前述のインストラクショナル・デザインとも密接な関係があります。デザイン上ファシリテーションを前提にコース設計された研修が必要です。

さらに学習したことを実務で行動できる(行動変容)必要があります。行動変容までサポートできるファシリテータが注目されます。

インストラクターが向いている教育は従来型の知識研修や技術研修です。最近重要性が認識されている、ラーニング、シミュレーション、アクションラーニングなどは全て有能なファシリテータがいて初めて成立します。

 

キャリアコンサルタント/カウンセラー

ITSSでキャリアを選択できるようになると、エンジニア本人のキャリア計画が自由に立てられるようになります。自由意思だけに任せても混乱しますから、ある程度企業側で個人のキャリア計画をサポートしてあげる必要が出てきます。そのスキルをもった人材も必要です。

 

C) 予算

教育予算は重要です。企業ですから投資をする必要があります。IT企業は「人」だけが価値を生み出す源泉です。製造業が工場や設備に投資するのと同じように、この唯一の資産である「人」に投資をして初めて事業が成り立ちます。投資の具体的対象は教育しかありません。

具体的な数字としては、売上の2%以上をめどに考えることをお勧めします。とくに成熟度レベル3では最低限そのくらい必要です。グローバル企業では5%が常識になっています。急に増やすのは問題がありますから、徐々に増やしていくことをお勧めします。すでに2%以上教育投資に費やしている企業は、グローバル企業の数字に近づけるのが良いと思います。エンジニアの時間としては5%1/月もしくは10/年)程度が望ましいところです。

教育のROI(投資効果)が見えないという話をよく聞きます。簡単ではありませんが、工夫すればROIも出せます。ひとつの例を連載7回(メルマガ第44号)で紹介しましたので、参考にしてください。ITSSでは達成度指標にサイズ(金額)がありますから、ROIにつなげることができます。

 URL: http://www.kbmanagement.biz/sub396.html

 

一方、現実はかなり異なります。前述のIPA発行の「IT人材市場予備調査」をごらんください。



 

 0% : 4%

0.1%0.5%未満: 34%

 0.5%1.0%未満: 19%

 1.0%5.0%未満: 21.6%

 5.0%10%未満: 2.8%

 10%以上   : 3.4%

 無回答    : 14%

 

育成への投資額が売上の0.5%未満の企業がなんと全体の38%もあります。

これではお先真っ暗としか言いようがありません。投資をしていないに等しいことです。

一方、1%以上が27.8%あり、完全に2極化しています。ここでも格差社会が顕在しています。

投資額0.5%未満の企業はせめて1%以上(これが決して十分な投資額とは思いません)にしないと、今後とんでもないことになるのではないでしょうか。言いかえるとITSS成熟度がレベル1以下ということです。売り上げの1%以上を投資している企業の成熟度がどの程度かは、残念ながらこのデータだけでは判断付きません。

 

最後に成熟度レベル3をまとめます

1.  ビジネスへの貢献

ビジネス戦略と整合がとれていますから、人材の能力発揮がそのままビジネス結果に結びついています。ビジネスに本当に必要な人材像が定義され、正しくレベルが認定されています。

人材の能力(スキル)が企業価値に反映しています。

 

2.  エンジニアの満足

自分のスキル、業績がそのまま認定されますから、従業員満足度は高まります。その結果、顧客満足も高まってきます。レベルに応じた仕事をアサインされていますから残業に追われることも少なくなります。学習する余裕も生まれ、ビジネスに必要な研修のみならず、自分のキャリア計画を考慮した研修を受けることもできます。自分のためになることを学習しますから、学習動機も高く、教育効果も高まります。

 

3.  適切な処遇

人事部門が先行するのではなく、ビジネスのニーズに合った人材を認定していますから、何の抵抗もなく適切に処遇(人事制度)に反映することが可能です(反映させるかどうかは各企業の判断です)。

社内のモノサシと市場のモノサシが共通化しますから、必要に応じて外部から優秀な人材を調達できています。