2009年8月10日
2.
中期人材戦略に基づく人材育成体系策定・評価
IPCF2009発表資料より引用
このプロセスエリアは
図のように5つのプロセスからなります。
−人材育成戦略立案
−人材育成構想立案
−人材育成要件定義
−人材育成構想評価
−人材育成戦略
おのおのみていきます。
2−1 人材育成戦略立案
投資試算を出しているのが良いですね。予算的裏付けがないと何もできません。中期計画ですから、投資の対象期間は重要です。人材が育つのに時間がかかります。1年かけて育成しても、目標キャリアに到達するのには、2,3年かかることもあります。
人材像に優先順位はないのでしょうか。投資予算に限りがあります。特に昨今のような不景気の局面ですと、教育予算が削減の対象となりがちです。そのためには経営戦略と人材戦略が直結していなくてはいけません。不景気の時こそ、戦略的な人材育成をするべきです。そのためには明確な経営戦略をIT企業が持つべきものです。そこがあやふやなままでは、人材への投資は効果が危ぶまれます。
2−2 人材育成構想立案
BOK(知識体系)なので仕方ないかもしれませんが、「人材育成体系図」のサンプルがあるともっとイメージしやすいですね。「研修ロードマップ」はITスキル標準に付随しているので読者にはおなじみだと思います。この「人材育成体系図」および「人材育成計画書(人材像毎)」はなじみの少ないものではないでしょうか。
2−3 人材育成要件定義
ここはITSSでおなじみの「研修ロードマップ」を作成するところです。引き続き、「研修コース体系」になります。
研修ロードマップにも優先順位があってもよさそうです。ロードマップ上のコースをすべて実施するのは得策ではありません。ビジネス戦略上、最も効果のある研修を優先的に実施するようにするべきです。
2−4 人材育成構想評価
人材育成をやりっぱなしではいけません。PDCAを回すために、2−4および2−5では結果の評価を行います。V字モデルの右側の部分です。
2−5 人材育成戦略評価
さらに上流の人材育成戦略を評価します。戦略どおりに人材が育成できたかをレビューします。
ITスキル標準のレベル認定をこのプロセスに追加するのが良いかもしれません。
レベル認定に関してはIPAよりガイドラインが出ていますので、参考にするとよいでしょう。
URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/download.html
上記IPAのサイトより、「付属書のダウンロード」の下の「社内プロフェッショナル認定の手引き(ITスキル標準V3 2008対応)」からダウンロードできます。
3.
人材育成体系に基づくコース設計・開発・評価
図のように、4つのプロセスからなります。
個別のコースの中身の「企画」「設計」「開発」「評価」です。すこし見方を変えると、教育コースを「分析し(Analyze)」、「設計し(Design)」、「開発し(Develop)」「実施し(Implement)」「評価する(Evaluate)」ので、英語では頭文字をとってADDIEモデルと言います。インストラクショナルデザインの基本プロセスです。
3−1 研修コース企画
ADDIEモデルのAnalyze(分析)に相当します。
少し気になるのは、実行予算を算定するのは良いのですが、不景気で予算が認可されない場合どうするのでしょうか。どんなに素晴らしい研修企画を作成しても予算がなければ実行できません。Make Or Buyの判断をどこかでするべきものだと思います。
3−2 研修コース設計
ADDIEのデザインの部分です。
SME(Subject Matter Expert)は耳慣れないかもしれません。「その道の専門家」です。例えば、「データベース設計」のコースを作成する場合、データベースの専門家に加わってもらい、専門知識を加味する必要があります。
重要なことは、SMEはコース作成には必須ですが、実施のインストラクターになるわけではありません(まれにインスストラクターを兼任する場合もありますが)。
3−3 研修コース開発・トライアル実施
開発とトライアル実施です。
3−4 研修コース評価
コース評価はいくつかのレベルがあります。
この評価はコースの設計へのフィードバックです。
トライアル時での課題は早急に対応し、コースの完成度を高めます。
4.コース設計に基づく研修実施・評価
ADDIEモデルのImplement(実施)とEvaluate(評価)です。
4−1 研修実施
インストラクターによる研修の実施です。
4−2 研修評価
受講者の理解度による評価です。クラス実施(インストラクション)の改善にも役立てます。
まとめ:
「IT人材育成プロセスと知識体系」を解説してきましたが、全体として大変素晴らしい内容だと思います。スキル標準を制定しても人材育成プロセスに落とさない限り成果は出てきません。育成プロセスを明確にしたものとしては高く評価されるべきものだと思います。
あえて改善点をあげるとすれば、研修の外部調達です。
この知識体系は研修を内製化することに重点が置かれているようです。特に「3.人材育成体系に基づくコース設計・開発・評価」「4.コース設計に基づく研修実施・評価」の内容はすべて自分たちで研修を開発することになっています。しかし、ITスキル標準を導入する企業で自ら研修コースを内製することのできる企業はどのくらいあるのでしょうか。むしろ外部の研修ベンダーのものを取捨選択し組み合わせることで、自社に最適(?)なカリキュラムを組んでいるのではないでしょうか。今後の改定では、ぜひ研修の外部調達、アウトソースにまで言及していくことを期待します。
尚、IPAから2007年に「研修のガイドライン」という付属書が発行されています。研修の調達や研修コースのRFPの書き方(サンプル)も載っています。
URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/download.html
上記IPAのサイトより、「付属書のダウンロード」の下の「研修のガイドライン」からダウンロードできます。
こちらも参考にされるとよいと思います。
ただ、この「研修のガイドライン」はあまり分かりやすいものではありません。内容のレベルはかなり高いのですが、前半と後半で整合していない部分が見受けられたり(おそらく複数の執筆者が担当し、全体の調整がされないまま発刊しているかもしれません?)しますが、何らかの参考にはなると思います。
|