知識資産の最大化を実現するKBマネジメント 本文へジャンプ

        【ITスキル標準プロフェッショナルコミュニティフォーラム2009】の解説
                       (その5)

                                                  2009年8月4日



去る73日(金)に【ITスキル標準プロフェッショナルコミュニティ2009】(以下IPCF2009)がに開催されました。いくつかのプロフェッショナルコミュニティ活動結果を解説しています。

既にIPAより発表資料が公開されています。以下のURLWebサイトをご覧ください。

URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/siryou/ipcf2009Data.html

 

「エデュケーション委員会」の発表内容を解説しています。

 

前回は全体像の説明でしたで、今回は少し各論に入ってみたいと思います。

IT人材育成プロセスと知識体系」について、解説します。

URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/activity/ED_com.html#H20

こちらよりダウンロードできます。ぜひ実物をご覧ください。

 

IT人材育成のための活動プロセス】をご覧ください。

 

まず、プロセス全体像です。




IPCF2009発表資料より引用  


 

ご覧のように、

4つのプロセス群からなります。

1.経営戦略に基づく中期人材戦略策定・評価(ピンク色の部分)

2.中期人材戦略に基づく人材育成体系設計・評価(黄色の部分)

3.人材育成体系に基づくコース設計・開発・評価(うすグリーンの部分)

4.コース設計に基づく研修実施・評価(空色の部分)

 

図で分かるように、V字モデルなので大変わかりやすいと思います。

 

1.  経営戦略に基づく中期人材戦略策定・評価

 5つのプロセスがあります。

−人材戦略のための環境分析

−人材像のToBeモデル策定

−現状(AsIs)と課題の分析

−解決策の方向性

−人材戦略の評価

 

 

1−1 人材戦略のための環境分析



 

いかがでしょうか。プロセスのインプット、アウトプット、そしてプロセスを構成するタスクが記述されています。構造として大変わかりやすいと思います。形式的にはPMBOKBABOKの記述の構造を参考にしているようです。

内容としては、「経営戦略」ありきから始まっていますが、実はここが怪しいITベンダーが多いようです。自社の明確な経営戦略及び事業戦略をまず持つべきです。それがない限り、これ以下の人材戦略、その他はあまり意味を持たなくなってしまいます。「経営戦略・事業戦略」などは他の業界(製造、金融、流通、など)では常識のことなのですが、ことIT業界(正確には「情報サービス産業」)特有の問題があります。

情報サービス産業がはじまって以来数十年、常に仕事があったのです。ですから経営戦略や事業戦略を考える必要すらなかったようです。固定客の要望に答えてさえいれば、次の仕事が入ってくるという好循環が繰り返されていて、経営者は人さえ確保していればよかった時代が長く続いたのです。業界全体で同じこと(例:受託開発など)をしていればよかったのです。

他の業界では考えられないことです。

 

やっと最近ではそうではなくなってきました。オフショア開発など、廉価な労働力のアジア諸国の台頭で、付加価値の少ない仕事は外国で実施することが多くなってきたのです。

 

ですから、このプロセス群の上流として、経営戦略・事業戦略を考えるプロセス群を追加することが必要ではないでしょうか。次期バージョンで期待します。

 

このプロセスで必要な知識項目です。




注目するべきことは、右側の修得レベルです。「使いこなせる」と「知っている」の2段階です。

以前にも解説しましたが、大変画期的なことだと思います。

他の知識体系(共通キャリアスキルフレームワークや情報処理技術者試験)でも早急に見習うべきものだと思います。単に知識項目を羅列したものがBOK(知識体系)ではありません。

 

1−2 人材像のToBeモデル策定


外部環境分析があるのは大変良いことだと思います。ビジネスですから自社だけではできません。顧客の動向、競合他社の動向、顧客市場の動向を把握する必要があります。

少しだけ気になるのは、ToBeAsIsより先に決める点です。AsIs(現在の位置)を無視してToBe(行き先)が決められるのでしょうか。良く見かける、トップダウンアプローチというもののようですが、少し不安です。

ERPのようなパッケージソフトの場合ですと、ベストプラクティスをベースにしたトップダウンアプローチが有効なことは、すでに実証されています。逆にそうしないとカスタマイズが多く発生し、パッケージ導入のメリットが出てきません。

しかし、人材育成はもともとカスタマイズであるべきものです。その企業の実態に即した人材像を定義して、人材を育成するものではないでしょうか。あまり理想を追いすぎるのは良くありません。

 

1−3 現状(AsIs)と課題の分析


 

ここでAsIsとのギャップ分析になります。先に述べたように、ToBeが先にありますから、AsIsとのギャップをここで分析します。分析の結果、ギャップが大きすぎて達成できそうにないとわかったらどうするのでしょうか。不安が残ります。

課題の優先順位を付けて、取り上げる課題を決定するようです。うまいアプローチだと思います。課題を特定することなく、ITスキル標準を導入しても、その結果を評価することはできません。その評価方法を決めるのが次のプロセス「解決策の方向性」です。

 

1−4 解決策の方向性


このプロセスは1つのタスクのみですが、重要です。

−達成目標の設定(達成するべき人材またはポートフォリオ)

−人材育成計画の詳細化

−投資効果の明確化

−推進組織の明確化

などです。重要なので、いくつかのタスクに分解した方が良いかもしれません。

 

1−5 人材戦略の評価


このプロセスは、人材育成が実施された後で、実行される評価プロセスです。

V字カーブの右上に位置します。



 

ITスキル標準では、「レベル認定」が不可欠です。おそらくこのプロセスの中で行うべきものだと思います。残念ながら明示されたタスクとしては存在していません。プロセスとして追加するか、タスクとしてこのプロセスの内部に入れるか、次期バージョンに期待するところです。

 

人材戦略の部分のみでした。のこりのプロセスは次回に解説します。