2010年7月5日
2. 2010年の改訂SMM(SMM2010)の解説
2.1 主な改訂は次の3点です。
−レベル2の定義:
−中小規模(300人規模)への適用
−「ゴール」ではなく「プラクティス」レベルでの診断
【レベル2の定義】
SMM値「2」をレベル2と見なすことにしました。
本来ならレベル2で必要なプロセス領域の「ゴール」、「プラクティス」が達成できているかどうかで判定するものですが、レベル2は単なる通過点です。CMMIのようにレベル2の診断を大げさにするほどの大きな価値はありません。多少の誤差があったとしてもその精度を高める必要性はない、と判断しました。
しかし、組織の成熟度レベルとしては一定の意味もあります。組織能力を底上げする意味で、決して無視してよいというものではありません。例えば、研修体系を作成したことがない中小規模の組織では、研修体系を定義し、研修を実施し、人材育成を行うことは最低限必要なことです。このレベルを無視していきなりレベル3の人材戦略を作成し人材像を定義しても、その人材を育成するプロセスが存在しない限り必要な人材を育成することはできないからです。それなりに重要なものであることに変わりはありません。ただ、診断を容易にしただけのことです。
【中小規模への適用】
診断項目を見直し、中小規模の組織でも適用できるように変更しました。具体的内容は次の「プラクティス」の中で解説します。
【プラクティスレベルでの診断】
ここが最も大きな改善です。昨年はプロセス領域の「ゴール」で簡易的に診断していましたが、今年のSMM2010では、「プラクティス」レベルでの診断です。そのため、診断項目数が大幅に増えました。24個の「ゴール」から78個の「プラクティス」への大幅な増加です。
では、これから具体的な各プロセス領域と「ゴール」、「プラクティス」の解説をおこないます。
2.2 「ビジネス戦略」カテゴリーのプロセス領域、ゴール、プラクティス
「ビジネス戦略」カテゴリーには3つのプロセス領域があります。
2.2.1【ビジネス戦略】
2.2.2【事業計画(中計)】
2.2.3【顧客満足度調査】
2.2.1 プロセス領域【ビジネス戦略】のゴールとプラクティスです。
ゴールは「1.顧客ニーズを反映したビジネス戦略を策定する」の一つだけですが、
ゴールを達成するために必要なプラクティスが4つあります。
プラクティス:−顧客とそのニーズを明確にする
−顧客をセグメント化し、狙いのセグメントを明確にする
−セグメントにおける競合分析を実施する
−(セグメント顧客にとっての)理想の(ToBe)ソリューションを
明確にする
1つのゴールと4つのプラクティスはあっさり記述されていますが、奥行きはかなり深いものがあります。基本的な考え方は「顧客中心」であり、プロダクトアウトではないマーケットインの考え方で、顧客との良好な関係(Win/win)が長期的なビジネスの成功につながる、というものです。
最近注目されているビジネスアナリシス知識体系ガイド(BABOK(R))も参考にしてあります。「ビジネスニーズを定義する」タスクに相当します。
2.2.1.1 顧客とそのニーズを明確にする
ビジネスの顧客の状況を知るためには、ビジネス環境分析が欠かせません。
マクロ環境(政治、経済、社会、テクノロジー)
外部環境
−顧客動向:
−競合他社:
−業界構造:
自社の内部環境
−事業、計画、プロセス、組織、目標など
−商品・サービス
−人材・スキル/人・物・金・情報
顧客のニーズは何でしょうか。
まず、製品・サービスそのものの問題解決能力です。これがお客さまがその製品・サービスを買う直接の理由です。これが明確でないとお客さまは製品・サービスを購入してくれません。
つづいて「広い意味での製品」の問題解決能力があります。製品・サービスの機能を補完しサポートしてくれるものです。例えば、システムやITソリューションで言えば、インスタレーション、保証、サポート、コンサルティング、ソフトウェアアップデート、カスタマ教育などです。最近ではRFP作成や要件定義などいわゆる超上流工程でのサービスが重要になってきています。
さらには、購入(導入・運用)に伴う全ての経験まで含みます。営業担当者は親切だったか、購入はしやすかったか(オンラインショッピングなどは顕著です)、コールセンターの対応は丁寧だったか、サービスのレスポンス時間は十分早いか、などです。顧客満足度を購入の目安にするお客さまはかなりいます。サービスの良さなどは口コミで広まります。
ニーズや品質に関する「狩野モデル」を考慮するのも有効です。
−基本的ニーズ(当たり前の品質)
−期待のニーズ(一元的品質)
−喜びの品質(魅力的品質)
顧客のニーズを正確に理解することがビジネスの成功に最も重要なことです。当たり前のことですが、意外と難しいものです。
2.2.1.2顧客(市場)をセグメント化し狙いのセグメントを明確にする
やみくもに市場を攻略しても成功するとは限りません。自社の得意とするセグメントを見つけることが極めて重要です。そのために市場を分割する必要があります。
2.2.1.3 セグメントにおける競合分析を実施する
自社の強み、弱み、機会、脅威を基にSWOT分析などが有効です。
そして、得意とするセグメントを明確にしていきます。
−セグメントごとの市場規模、伸び率、マーケットシェアも必要です。
−競合優位の源泉は何でしょうか。
2.2.1.4 理想(ToBe)のソリューションを明確にする
目標セグメントの顧客ニーズを満足させる理想のソリューションを考えることです。現在提供しているソリューションではなく、顧客の立場での理想的な(ToBe)ソリューションを明確にすることです。
これにより、目標セグメントごとの理想のソリューションのリストを作成してゆきます。そして、セグメントごとの目標値、投資額を考慮するとビジネス戦略の骨格が出来上がってきます。
ゴールとプラクティスをプロセス化した例です。
プロセスはこの図にこだわる必要がありませんが、サンプルとしてお考えください。
|