【ITスキル標準とテクノロジーライフサイクル】(その1)
概要:
ご存知のように、情報処理技術者試験の結果を取り入れる形でITスキル標準V3が発表されました。期待と不安が錯綜しています。そこで、ITSSの今後の動向を占ってみたいと思います。次のような内容で連載します。
1.ITスキル標準V3はトルネードになる
2.ITスキル標準V3の課題
3.トルネードの次のメインストリート(保守層)とは
4.メインストリートに到達するためには
なお、この内容は弊社Webサイトの記事「ITSSとキャズム」の続編に位置づけられるものです。約1年前のITスキル標準V2発表時に書いたものをV3に合わせて書き直した側面もあります。
併せてお読みいただけると幸いです。
参考文献です : Crossing the Chasm by Geoffrey Moore、日本語版 「キャズム」翔泳社
それでは、はじめましょう。
1. ITスキル標準V3はトルネードになる
トルネードという耳慣れない言葉が出てきたと思いますが、これから説明しますので、ご容赦ください。
1.1 テクノロジーライフサイクルとは
一般的ににテクノロジーは、図のようにイノベータ、アーリーアダプタ(ビジョナリ)、アーリーマジョリティ(実利主義)、レートマジョリティ(保守主義)そしてラガード(懐疑派)の順番に採用されていきます。
ITスキル標準も同様に、このテクノロジーライフサイクルのカーブに沿って採用されていく、ということを論証したいと思います。そして、その論証をベースにITスキル標準の将来を占うことを試みます。
1.1.1 初期市場
イノベータとアーリーアダプタが形成する市場を初期市場と言います。イノベータはいわゆるハイテクおたくで、新しい技術ならなんでも使ってみようとする人たちです。アーリーアダプタ(別名ビジョナリ)は新しい技術が仕事に役立つならリスクを冒してでも他人(他社)より早く導入して、差別化し成果を早く出し業績に貢献させようとする人たち(企業)です。ERPを先駆的に導入した企業、例えばデルなどが該当します。ITスキル標準では、ITSSユーザー協会の会員がその典型です。
これらの企業はITSSが多少使いづらくても自分たちの努力を惜しまずに使ってくれました。社内で独自のスキル標準を作ろうとしていた先進的なIT企業が該当します。例えば、800ページにものぼるITSSと同等のものを社内独自で作成する手間隙を考えたら、そのまま流用するほうがはるかに楽だと考えたでしょう。また、社内のスキル体系が市場のそれと同じモノサシになれば、調達のときの利便性にメリットを感じたかもしれません。
このころにITSSを導入した企業は多大な努力を払い、業界発展のためも兼ねて大変な貢献をされてきました。まだその貢献は続いており、心から敬意を払います。ITSSユーザー協会の内部の活動(ワーキンググループなど)を見ていると、その献身的な活動に本当に頭が下がります。これらの企業のおかげで、ITSSは初期市場において、それなりに普及してきたのです。
1.1.2 メイン市場
メイン市場の構成はアーリーマジョリティ(実利主義)とレートマジョリティ(保守主義)です。
この市場の構成メンバの特性は初期市場のメンバー(ビジョナリ)の特性とかなり違います。比較をご覧ください。
ビジョナリーの特性 実利主義者の特性
・直感的 ・現実的
・革新を求める ・改善を求める
・人まねをしない ・他人の成功を参考にする
・群れを避ける ・群れを成す
・リスクを進んでとる ・リスクを管理する
・将来のチャンスにかける ・現実の問題にかける
・可能性を追求する ・確実性を追求する
・最高の技術を追求しようとする ・最高の解決策/ベンダーを追求しようとする
J. Moore: Crossing The Chasm より
ビジョナリと実利主義では、その特性がかなり違うことがお分かりになると思います。実利主義は決してERPを本邦初導入するようなことはしません。他社の成功事例を確認します。
さらに、保守主義の特性は以下のとおりです。
・保守的
・社内標準(プロセス)を大事にする
・業界標準を待つ
・リスクを避ける
・保証を求める
・他人の後を追いかける
こちらも、同じメイン市場のメンバですが、実利主義者とはかなり違います。ERPでは業界標準のものを採用します。さらに社内のプロセスを変更するのを嫌い、カスタマイズを要求します。それに対応できるベンダーでないと信用しません。日本でERPの普及が思った程進まない要因はこの保守主義が多い(特に製造業)からではないでしょうか(余談です)。
ITスキル標準の普及にもこれらの特性の違いが大きな影響を及ぼします。
1.1.3 キャズムとトルネード
初期市場とメイン市場の間にはキャズム(溝、クラック)と呼ばれる大きな溝(クラック)が存在します。ビジョナリと実利主義との特性の違いがこの大きなクラック=キャズムを存在させるのです。そして、ここにはまり込み抜けだせないテクノロジー商品が数多く存在します。最近のHD−DVDはその典型例です。古くはビデオのベータ方式、ビデオ会議、衛星携帯電話などなど、枚挙にいとまがありません。
ITスキル標準とキャズムについては前述の記事(「ITSSとキャズム」)に書いておきましたので、ここでは詳しく述べません。ITスキル標準も一時キャズムに落ち込んでいましたが、V2発表後にメイン市場にたどり着いてきました。
キャズムを超え、本格的に実利主義者に受け入れられるようになると(そうたやすいことではありませんが)、トルネード(自然界の竜巻:トルネードから由来)になります。他人の成功を目の当たりにした実利主義者は群れをなしてデファクトスタンダードになる新技術を支持してくれます。マーケットリーダーを実利主義者が次から次への採用し、成長路線をまっしぐらに成長していきます。自然界のトルネード同様、手のつけられない状態がしばらく続きます。トルネードの具体的なことはもう少し後で解説します。
その前に重要な概念、ホールプロダクトについて解説します。
1.2 ホールプロダクト
IT商品・サービスが成功するためには、コアプロダクト(製品そのもの)以外に、その周りのソフトウェア、サポート、サービスといった、全体としてユーザーの価値を高めるもの、すなわちホールプロダクトが形成されなければなりません。それは自社で提供するもののみならず、パートナー、サードパーティなどからも提供される必要があります。
ITSSの普及にも同様なことがいえます。ITSSのホールプロダクトはどのようなものでしょうか。
【次ページに続く】
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