2009年7月21日
去る7月3日(金)に【ITスキル標準プロフェッショナルコミュニティ2009】(以下IPCF2009)がに開催されました。いくつかのプロフェッショナルコミュニティ活動結果を解説しています。
既にIPAより発表資料が公開されています。以下のURLのWebサイトをご覧ください。
URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/siryou/ipcf2009Data.html
今号と次号では、「エデュケーション委員会」の発表内容を解説します。
このプロフェッショナルコミュニティは約2年前に設立された比較的新しい委員会です。
IPCF2009発表資料より引用
この設立の背景で分かるように、「すべてのIT人材の育成を担うプロフェッショナル」の育成を考えることがこの委員会の基本的な趣旨です。ITスキル標準では「構築されたITシステムの使い方をユーザーに教育する職種」、と考えていたふしがあり、基本的立場が異なっていたのです。
その基本的立場の相違が露呈したのが昨年の発表及びそのあとの結果でした。
まず、昨年(2007年度)の活動内容の振り返りです。
IPCF2009発表資料より引用
上図のように、職種名を「ラーニングプロフェッショナル」に、さらに専門分野を「ラーニングコンサルタント」「ラーニングデザイナ」「ラーニングファシリテータ」にするという、アグレッシブな提言でした。
ラーニングコンサルタントは「人材戦略の策定」から「人材育成要件定義」まで受け持ちます。最上流工程ですから、ちょうどBABOK(R)でいうビジネスアナリストの位置づけに相当します。
ラーニングデザイナは「人材育成要件定義」から「コース開発/トライアル実施」までです。インストラクショナルデザインのすべての領域を担当します。
ラーニングファシリテータは「実施」と「評価」です。いわゆるインストラクターです。これはエデュケーション職の専門分野でもありますが、同時に他の職種、例えばPMのレベル4以上が下位のPMにインストラクションを実施することもあります。
昨年のIPCF2008で、最も評価の高かった発表内容でした。筆者も絶賛した一人です。細かな専門分野の名称はともかくとして、全体像として最も充実した内容でした。特にラーニングコンサルタントの位置づけは、これなくしてITSSを導入することはできないものです。また、ファシリテータとデザイナを区別することも意義があります。
IPCF2009発表資料より引用
ご存知のように、ITSSのレベル4以上の人材は全て、後進の育成の責任を持ちます。しかしながら、メンバーの育成方法やOJTのやり方などはどの職種の「スキル領域」や「スキル達成度」にも記述されていません。それをこの委員会で初めて育成方法の構造を明確に提言したのです。
残念ながら、この素晴らしい提言は採用されませんでした。理由は公にされていませんが、モレ伝えられるところによると、エデュケーション職の定義そのもののコンフリクトのようです。「構築したITシステムをユーザーに教育する職種」に固執する立場の人たちには到底受け入れることができない内容だったようです。
発表内容は素晴らしく、周囲からも高い評価を得ておきながら、肝心の提言が採用されなかったことを大変残念に思いました。同時にこのような革新的な提言を採用しなかったIPA(?)に対して大きな失望を抱いた次第です。このままいけば、ITスキル標準はこれ以上普及しなくなってしまうのではないか、と。 ITスキル標準の普及にはこのような職種の存在が欠かすことができないと思います。いいえ、職種に関係なくこのようなことのできる人材が必要なことは確かです。ではその人材が必要とするスキル・知識はどのようなものなのでしょうか。
エデュケーション職にあるなしにかかわらずに、必要なスキルをもった人材がいればよいわけです。
というわけで、このコミュニティの今年度の活動方針は職種にはあまりこだわらなく、人材が必要とする知識体系を作成するということに、方向転換されたようです。
2008年度の活動結果を見ましょう。
昨年は苦渋を味わったエデュケーションのプロフェッショナルコミュニティでしたが、今年度の活動はどうだったのでしょうか。
IPCF2009発表資料より引用
上図のように、活動を3点に絞っています。
−IT人材育成プロセスの整理
−IT人材育成のための知識体系の整理
−知識項目のIT人材育成プロセス視点での解説
また、大きな成果を出してくれたようです。
まず、IT人材育成プロセスを見てみましょう。
IPCF2009発表資料より引用
ちょうど開発プロセスのV字モデルに対応しています。ぱっと見ただけでも概要として理解しやすいと思います。
全体を4つのプロセス群でまとめています。
1.
経営戦略に基づく中期人材戦略策定・評価
2.
中期人材戦略に基づく人材育成体系策定・評価
3.
人材育成体系に基づくコース設計・開発・評価
4.
コース設計に基づく研修実施・評価
この詳細はすでにWebページに掲載されています。
URL: http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/activity/ED_com.html#H20
こちらからダウンロードしてください。
続いて、IT人材育成のための知識体系の整理です。
IPCF2009発表資料より引用
A: 企画コンサルティング
B: 設計
C: 教材開発
D: 教授法
E: 評価育成フォロー
F: 指導者育成
G: 教育
H: HRM/HPD
ありとあらゆる、教育、研修に関する東西の知恵が整理されています。
良くここまで、収集整理したものだと感心します。
詳細は次回に解説したいと思います。
IPCF2009発表資料より引用
さらに、IT人材育成プロセスと知識との関係です。
具体的なタスクが明確になっているのがお分かりになると思います。
IPCF2009発表資料より引用
「IT人材育成プロセス」には、そのインプット、アウトプットそしてプロセスの中身としてタスクがしっかり記述されています。素晴らしいのは、タスク実施に必要な知識がしっかり書かれていて、さらにそのテクニックの修得レベルが明記してあることです。
A4000: ラーニングアーキテクチャ・デザイン 使いこなせる
B1000: 教育設計基礎 知っている
B2000: 教育設計技術 使いこなせる
修得レベルが「使いこなせる」と「知っている」の2段階に分かれていますね。これも画期的だと思います
他の知識体系、例えば「共通キャリアスキルフレームワーク」や「情報処理技術者試験」では、知識項目の羅列でしかありませんでした。どの知識は使いこなさなければいけないのか、それとも単に知っていれだけで良いのか、区別が何もなかったのです。大変大きな進歩だと思います。もっとも試験では知識しか測れませんからそれで良いのかもしれませんが。
次回は成果物である、「IT人材育成プロセス」、「知識体系」、「人材育成プロセスと知識体系」の中身について解説します。
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