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フェーズ6: レベル認定





最近の出来事

あるIT大手企業(X社)がビジネスパートナー数社とプロジェクトを組みシステム開発をしています。プロジェクトマネージャはX社でレベル5の人材です。ITスペシャリストのレベル3をパートナーのA社、B社、C社から1名ずつ計3名、ソフト開発はA10人(レベル32)、B5人(レベル3)、C3人(レベル3)の18名です。

 プロジェクトがスタートしてまもなく、プロジェクトマネージャは大きな問題に気がつきました。同じレベルのはずのITスペシャリストの3人のスキルがバラバラなのです。A社のITスペシャリストはプロジェクトマネージャの期待していたとおりのスキルのあるエンジニアでした。B社、C社のITスペシャリストはレベル3には程遠く、レベル2もしくはそれ以下くらいでした。またソフト開発もB社、C社のレベル3のエンジニアはA社のレベル2エンジニア程度のスキルしかありませんでした。

 ビジネスパートナーにはITSSのレベルを指定して人材を供給してもらったはずなのですが、いったいどうしてこのようなことが起きてしまったのでしょうか?

似たような経験をお持ちの方はいらっしゃらないでしょうか。



異なるITSSの導入目的

 A社、B社、C社ともに、ITSSを導入しているといって、X社にレベルをコミットして人材を供給しています。もう少し詳しく聴いて見ましょう。

 A社はITSS導入を自社のビジネス戦略遂行の手段と捕らえ、会社が必要とする人材像を明確にし、目標(職種/レベル毎の人数)をベースに全エンジニアにスキル診断(GAPの明確化)をし、適切な教育計画(GAPの解消計画)に基づく研修を実施し、そしてその効果を確認するため、および本人のモチベーションを考慮したレベル認定を書類審査と面接でしっかりと行っていました。そして役員を含めた面接官により認定された人材をX社に供給していました。

 B社はITSS導入目的を人材育成として捕らえ、診断ツールにより、各エンジニアの強み、弱みを明確にし、診断結果に基づいて教育計画を立てて、これから教育を実施するところでした。X社からITSSレベルに応じた人材供給を求められたので、診断ツールによる暫定レベルで人材を供給したのです。

 C社はITSS導入目的は元請対策として、全員に市販の診断ツールで自己採点させたものを、各自のレベルとして公表していただけでした。

 

もうお分かりでしょう。同じITSSを導入したといっている3社ですが、導入目的が異なるとこれだけ結果(この場合は人材のスキルレベル)も異なってしまいました。ある意味では当然ですね。では、このような事態を避けるためにはどうしたらよいのでしょうか。



先に進む前に、もう一つの研究成果を紹介します。

 

約1年前に、経済産業省の委託事業で、ITSSの認定レベルについての「評価ガイドライン策定事業」の取りまとめです。ご存知の方もいらっしゃると思います。

  (詳しくは下のURLWebページを参照してください。)

      http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/activity/hyouka_guide_200603.pdf

 

レベル5以上についての評価ガイドラインです。

評価プロセス

@      申請

A      書類審査

B      面接

 

具体的な内容の抜粋です。

@   申請

ITスキル標準の定義によるレベル5以上の要件を満たしていること」が申請の前提

申請書類は以下の通り。

 −申請書

 −業務経歴書

 −知識項目チェックシート

 −達成度チェックシート

A   書類審査

  当該職種においてハイレベル認定を受けた上位者による審査が基本。

B   面接審査

当該職種においてハイレベル認定を受けた上位者による審査が基本。

申請者のプレゼンや質疑応答を通して、合否を判定する。

各面接官による差異を調節するためのコンセンサスミーティングで最終合否を判定する。

 

各企業での活用例(ヒアリング結果の整理): <抜粋です>


ハイレベル認定の申請資格 審査体制 認定の活用方法
A社

PMについては、一定の業務経験とPMPの取得が要件

ITアーキテクト及びITスペシャリストについては、一定の業務経験と規定の研修を受験することが要件

・書類審査を担当するレビュアーと面接官は、いずれもハイレベル認定を受けた当該職種の上位者が担当

・評価のブレをなくすため、審査を行う前にオリエンテーションが行われる

・ハイレベル認定はプロフェッショナルの育成を図るためのものである。

・自己啓発に役立てられるようにするため、合否の理由をフィードバックする
B社 ・一定の業務経験、研修等を受講した実績、上司の承認が要件 ・審査官は、役員、外部の有識者、社内認定のプロフェッショナルが担当(申請者の業務理解できる審査員を含む) ・スキル認定がそのまま人事考課(格付け)につながる
C社

・実績及びスキル評価(いずれも自己評価)をもとに上司が推薦

・上記関連書類についてコミュニティメンバーが要件を満たしているかチェック
・同職種コミュニティ(ハイレベル者より構成)のメンバー35

・基本はあくまで「育成」

・ただし今後は「一定レベル以上の認定を課長の基本要件とする」という使い方を想定(処遇と一切結び付けないと認定を受けないものがいるため)
D社

・アセスメントは自己+第三者にて行っているが、PMのみ上位レベル者を認定

PMについては@プロジェクト経験評価、A管理能力評価、B技術力・マネジメント技術評価(社内研修・公的資格)、が申請の要件となる
・第三者評価の面接官は、役員が担当 ・顧客に対してプロジェクトを推進する力があるとの意味づけがある(プロジェクトの結果は個々人のプロジェクトマネジメントスキルに大きく依存していると判断している)


4社はITSSを最先端で導入されたIT企業で、大変立派な認定をされていると思います。

社内の人材育成を体系的に行う、という観点では4社ともパーフェクトに近いレベルだと思いますし、それなりに成果も立派に出ていることでしょう。(上の表は抜粋です。詳しくはオリジナルをご覧ください。  http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/activity/hyouka_guide_200603.pdf )

 

ただし、これだけ社内で独自な認定をされてしまうと、企業間でのレベルの整合は残念ながら図られていません。 各社が大変立派な「サイロ」を作り上げてしまって、外からサイロの中の様子がまったくわからないのです。外部企業(パートナー)とプロジェクトを組む場合に問題になるでしょう。大企業ですからグループ会社は同じ基準で認定できると思っているかもしれませんが、現実の仕事はもっとダイナミックです。グループ以外の企業ともパートナーを組む必要も出てくるでしょう。


「1.本ガイドラインの位置づけ」では、次のように述べています。

仮に「評価結果の活用」が「企業レベルでの活用」にとどまるのであれば、本ガイドラインを参考にしつつ、「適切なアセッサー」を確保すれば、「企業内でのスキル評価の基本的な仕組みはほぼ完成」とみても差し支えないであろう。他方、評価結果の「市場レベルでの活用」までをも視野にいれる場合には、本ガイドラインが触れていない多数の課題を解決せずに、スキル評価の仕組みの完成はありえないということになる。

 

立派な「サイロ」の中と外部(市場)との格差をなくすためにはどうしたらよいでしょうか。

 

簡単です。外部の第三者による客観的な視点を導入すればよいのです。透明性(Transparency)を確立することです。つまりサイロをガラス張りにし外から見えるようにすることです。

申請書のコアとなる内容を統一し(各社による多少のプラスは構いません)、面接官として、経験のある外部コンサルタントを加えることです。これによりサイロは開放され、透明性が確保できます。現状のやり方をいくら改善してもサイロの中が高くなるだけです。ガラス張りにし外から見えるようにしない限り、市場(外部)には通用しません。

 

それでは、誰が外部コンサルタント(アセッサーと呼びましょう)として適任でしょうか?

現状ではITSSユーザー協会認定コンサルタントがその有力候補です。有力候補というのは、認定コンサルタント全員がその能力を身に着けているかわからないからです。認定基準がそうなっていないため仕方ありません。レベル認定の経験のないコンサルタントもいらっしゃるようです。今後認定コンサルタント全員がアセスメント能力をつける必要があると思います。またアセッサーのバラツキをなくすための研修なども必要になってくるでしょう。ユーザー協会および認定コンサルタント自身の課題ではないでしょうか。

 



20077月にIPAから「レベル5の認定の手引き」が発表される予定です。発表された時点でもう一度この議論をしたいと思います。






ITSS導入プロセスの全体像です。
あまり難しく考える必要はありません。できるところからお始めください。そしてPDCAのサイクルを
徐々に大きくしていくことをお勧めします。

ITビジネスを成功させるために必須なことがお分かりいただければ幸いです。


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