2009年5月17日
4.2 解決策としてのビジネスアナリシス(BABOK)
これからビジネスアナリシスがなぜ解決策となるのかを解説します。
以下の4項目にまとめました。
-一気貫通の考え
-グローバルスタンダード
-オープンソリューション
-最近のCIOの役割と責任そしてビジネスアナリシス
4.2.1 一気貫通の考え
既にBABOKの全体像については解説してありますので、詳しくは述べませんが6つの知識エリアがあります。(以下の知識エリアをクリックすれば解説のページにジャンプします)
-ビジネスアナリシスのプラニングとモニタリング
-引き出し
-要求の管理と伝達
-エンタープライズ分析
-要求分析
-ソリューションの診断と妥当性確認
まず、「エンタープライズ分析」ではタスクとしてビジネスニーズを定義します。重要なのはビジネスアナリストがその責任を持っているということです。そしてビジネスケースを作成して、投資効果を明確にします(ビジネスアナリストの仕事です)。スポンサー(経営層)が最終承認します。これによりITプロジェクトを実施する理由(Why)が明確になります。
すべての要求の引き出しの入力に上記「ビジネスニーズ」と「ビジネスケース」が位置付けられていますから、明確なWhyの下に要求仕様(What)が作られていくのです。知識エリア「要求分析」ではビジネスニーズやビジネスケースをもとに要求の優先順位をつけ、各種モデリングテクニックを駆使して、正しい要求(What)にまとめていきます。
知識エリア「要求の管理と伝達」において、成果物として「RFP」や「BRD(ビジネス要求仕様)」がまとまります。ビジネスニーズから一気貫通してRFP、BRDまで作成されることがお分かりになると思います。
4.2.2 グローバルスタンダード
BABOK(R)はIIBA(TM)のビジョンにあるように、最初からグローバル・スタンダードをビジョンに掲げています。そして現実に既にグローバル・スタンダードの地位を獲得しています。BOK(知識体系)の内容にもまして、このグローバル・スタンダードであることの意義が極めて大きな強みとなっています。
最上流工程がスタンダード化されることの意義は極めて大きいものがあります。標準に則って作成されたソリューションの仕様(RFPやBRDなど)は世界中どこへ持って行っても、プロジェクト化することができます。それは、プロマネ以下ソリューションルチームもBABOK(R)を理解しているからです。すぐに仕様の内容を理解することができ、素早く開発作業を開始することが可能となります。いわばRFPやBRDがテンプレート化(実際はもう少し複雑です)されていると思えば分かりやすいと思います。
グローバル・スタンダードとしてテンプレート化されているRFPなら、どこに何が書かれているのかが一目瞭然です。システム要求がビジネスニーズに如何に結びついているのか明確に記述されます。もしビジネスニーズとシステム要求に不整合があれば、逆にもっと良いシステム仕様が逆提案される可能性すらあります。
例えば、インドのシステム会社からより優れたシステム仕様が、日本のITベンダーの半額の見積金額で提案されたり。あるいは、システム計画の改善により、ビジネスケースとしてより収益の高い事業計画が逆に提案されるといことすらあり得るのです。このように、発注側と受注側の極めて建設的な議論に発展し得ます。BABOK(R)は発注側と受注側との効果的なコミュニケーションツールでもあるのです。これがグローバル・スタンダード(テンプレート化)の大きな価値です。
日本にはITコーディネータ制度など、似た分野の資格制度(情報処理技術者試験「ITストラテジスト(旧システムアナリスト)」も含む)がいくつか存在します。大変残念ながら、せっかく良い内容のものですが、日本国内でしか通用しない、いわばガラパゴスの状態になっています。
海外のプロマネやテクニカルチームは仕様書の読み方から学習しなければいけません(仕様が正しいかどうかの以前の問題です)。発注側は、ビジネス要求のまとめ方、ユーザ要求の記述の仕方、すべてそのつど説明する必要があります。しかも外国の言葉(おそらく英語)で。
私たち日本人(筆者自身を含めて)は、良い品質のものを作りそれを海外に認めてもらおう、という発想が強いと思います。昔、日本の製造業が世界で成功したやり方です。言い方を変えれば、品質が十分に優れていないと海外に持って行ってはいけない、と思っているのではないでしょうか。正直、筆者もそう考えていました。
このBABOK(R)およびIIBA(TM)のやり方は本質的に異なっています。最初からグローバル・スタンダードになることをビジョンとして掲げているのです。BABOK(R)の内容(品質)も優れていますがそれ以上にすごいのは、このビジョンを既に実現していることです。グローバル・スタンダードというビジョンが実現すれば、世界中のベストプラクティスが集まり品質はさらに向上します。この良循環が既に回り始めています。私たち日本人には得意でない発想(やり方)だと思います。学ぶべきことかもしれません。いえ、素直に学ぶべきものだと思います。
すでにインド、中国でもBABOK(R)を取り入れています。台湾にもEEP(R)(認定教育プロバイダ)が存在します。日本のIT業界としては、最上流工程のグローバル・スタンダードであるビジネスアナリシス(BABOK(R))を一日も早く取り入れることではないでしょうか。さもないと、日本のITは世界から取り残されてしまう恐れすらあります。ガラパゴスで生きていける時代ではないのです。
4.2.3 オープンソリューション
BABOK(R)は超上流工程における、世界中のベストプラクティスを集めたいわばオープンなソリューションです。この分野は従来いわゆるビジネスコンサルティングの領域として、アクセンチュア、プライスウォーターハウス(現IBMビジネスコンサルティング)などの独占状態でした。ちょうど10数年前、ITがメインフレーマーに牛耳られていた状態に似ています。
非常に高価なコンサルティング費用、ITベンダーもビジネスコンサルが指定するままの状態です。全てをビジネスコンサル会社の意のままに従わざるを得ない状態ではなかったのではないでしょうか。その結果トータルコストは非常に高価なものになり、利用できるユーザーは限られてしまっていたと思います。
状況は一変します。超上流工程がオープン化することの意義は非常に大きいものがあります。ITベンダーを自由に選べますから、コストは下がります。勉強すればユーザー企業自身がビジネスアナリシスができるようになります。ITベンダーもビジネスアナリシスを肩代わりすることができるようになるのです。
ちょうどシステムがメインフレームからオープンシステムに変換されたプロセスそのものではないでしょうか。しかもハードウェアではありませんから、過去の資産(いわゆるレガシー)にとらわれる必要は何もありません。スイッチングコストも気にするほどではありません。
この超上流工程におけるパラダイムチェンジはかなり急激に起こる可能性があります。近い将来が楽しみです。
繰り返しますが、日本のIT産業が生き残るためには、この分野を早く取り込むことしかなさそうです。最初に提示した結論の前半、
日本のIT産業が生き延びるために必須の知識・スキル
であることは間違いありません。
4.2.4 最近のCIOの役割と責任そしてビジネスアナリシス
2008年12月1日の日経コンピュータに、国際CIO学会のUSA会長のジャン-ピエール・オフレット氏のインタビューを簡単にご紹介します。お持ちの方も多いと思います。ぜひ原本をご参照ください。
オフレット氏によると、米国のCIOには3つのタイプがあるそうです。以下に引用します
「CIOには大きく分けて三つのタイプがあります。一つめはIT部門長タイプ。システムがうまく機能しているどうかに責任を持つ人です。二つめがIT部門長の枠組みを超えて、組織の業務プロセス全体をICTを使ってうまく管理する責任まで持つ人です。さらに進んで、組織における事業戦略の一部を担い、売り上げ増加といった事業そのものの責任を負う人が三つめです。」
「米国ではIT部門長にとどまるのが3割。最も進んだ事業戦略まで担うCIOが4割。両者の中間、三つのタイプの二つめに相当する移行期のCIOが3割というところでしょうか。」
日経コンピュータ 2008年12月1日号より引用
ビジネスアナリストはCIOの直轄です。上記3つのタイプはそのままビジネスアナリシスのタイプに一致します。特に米国の4割のCIO、「組織における事業戦略の一部を担い、売上増加といった事業そのものの責任を負う人」の下にいるビジネスアナリストは、ビジネス戦略(およびビジネスプラン)の立案者として位置づけられます(CIOは立案されたものを承認する立場)。BABOKの中では知識エリア「エンタープライズ分析」のタスク「ビジネスニーズを定義する」および「ビジネスケースを作成する」ことに相当します。
このような役割と責任を持つビジネスアナリストは極めて重要な存在ではないでしょうか。言い方を変えればビジネスイノベーションを担う人材を意味します。
JUAS「企業IT動向調査」
上記はJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の昨年の調査結果の一部です。ビジネスイノベーションを期待されていますが、まだあまり進んでいないようです。
JUAS「企業IT動向調査」
人材も確保できていないようです。筆者から見れば、育成ができていないと思います。
その人材こそがいま話題にしているビジネスアナリストではないでしょうか。
ですから、
ITをビジネスに活用するユーザー企業にとっても必要不可欠なもの
なのです。
最後にもう一度、結論を示します。
ビジネスアナリシス は、
①
日本のIT産業が生き延びるために必須の知識・スキル
②
ITをビジネスに活用するユーザー企業にとっても必要不可欠なもの
と言えます。
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