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  【ITSS対応パーソナルスキル研修】(その5) 
 
   3.3 ITSS対応パーソナルスキル研修   スキル研修を解説する前に、インストラクショナルデザイン(以下IDと略)について説明します。とは言っても、このメルマガはIDそのものを解説することが目的ではありませんので、必要最小限の説明にとどめます。詳細についてお知りになりたい方は、参考資料をご覧ください。
 3.3.1 インストラクショナルデザインとは
 デザインで重要な、「学習目標」「マクロモデルとミクロモデル」「ARCSモデル」そして「アダルトラーニング」について簡単に解説します。サンプルとして「ITSSコアコミュニケーション研修」を取り上げます。
 
   3.3.1.1 学習目標の要素 IDによると学習目標は3つの要素からなります。最初の要素はタスク(行動)です。2番目の要素は学習者がパフォーマンスを実行するときの条件を示します。3番目は学習者のパフォーマンスを評価する基準です。各々簡単に説明します。 タスク(行動)は観察可能な動詞で表現します。簡単そうですが、悩むことがあります。例えば、知る、理解する、認識するなどは観察が難しいので、具体的な観察可能な動詞に置き換えるべきです。例えば「知る」→「説明する」などに換えます。「ワープロが使えるようになる」という学習目標のタスクは「ワープロが使える」です。 条件とは目標を実行する上で学習者が置かれている状況や利用できる資源です。「ワープロが使える」だけでは学習目標としては不十分です。たとえば「一人で」「独力で」「誰にも手伝ってもらわずに」などの条件が必要になります。「ワープロを一人で(独力で)使えるようになる」これでだいぶ学習目標らしくなってきました。 さらに、基準があるとなおよいと言われています。例えば「原稿A4、1枚を5分以内で」作成することができる、などです。「ワープロを、一人で原稿A4用紙1枚、5分以内で作成することができるようになる」。これなら3要素すべてをカバーしたよい学習目標になっていることがお分かりになると思います。 特に技術研修の場合はこの3要素を満足する学習目標が有効です。例えば「SQLを使ってXYZ命令により、DataBase検索を高速処理(...秒以内で)することができるようになる」。     3.3.1.2 スキル定義に基づき学習目標を設定する コミュニケーションスキルと対応するスキル研修の関係は以下のようになります。   コアコミュニケーション    ⇒ ITSSコアコミュニケーション研修 プレゼンテーション      ⇒ ITSSプレゼンテーション研修 ドキュメンテーション     ⇒ ITSSドキュメンテーション研修 ファシリテーション      ⇒ ITSSファシリテーション研修 リーダーコミュニケーション  ⇒ ITSSリーダーコミュニケーション研修                ⇒ ITSS対人対応コミュニケーション研修 最後の「リーダーコミュニケーション」だけ2つのコースが対応しますが、残りはすべて1対1の対応関係です。   例として、コアコミュニケーションのスキル項目とITSSコアコミュニケーション研修の学習目標を比較してみましょう。 まず、「コアコミュニケーション」のスキル項目です。メルマガ12号に記載したものですが、覚えていらっしゃいますか。 •       信頼関係を構築することができる •       言葉で自分の主張を伝えることができる •       はっきりと手短に話すことができる •       ノンバーバル(言葉以外の姿勢、態度)なコミュニケーションを活用することができる •       適切に質問することができる •       相手のノンバーバルナなメッセージを解釈することができる •       反応的に傾聴することができる •       相手の言ったことを要約することができる •       相手の話を最後まで聴くことができる •       FAB(解決策、利点、利益)を説明することができる ・顧客や相手の不満に対応することができる   続いて、「ITSSコアコミュニケーション研修」のモジュールと学習目標です。
 
 
                    
                      
                        | モジュール | 学習目標 |  
                        | オリエンテーション | ・自己紹介、その他 |  
                        | 信頼関係 | ・アイスブレークなどにより信頼関係を構築することができるようになる |  
                        | 質問とニーズ | ・潜在ニーズと顕在ニーズを明確にする事ができるようになる ・4種類の効果的な質問ができるようになる
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                        | アクティブリスニング | ・反応を示しながら聴くことができるようになる ・ノンバーバルなメッセージを解釈することができるようになる
 ・相手の話を最後まで聴くことができるようになる
 ・相手のニーズを要約することができるようになる
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                        | FAB(特徴、利点、利益)の説明 | ・解決策の長所、利益を効果的に伝えることができるようになる ・自分の主張を論理的に伝えることができるようになる
 ・言葉、声の調子、態度で伝えることができるようになる
 ・反論/不満に対応することができるようになる
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   左側の「信頼関係」や「質問とニーズ」などはモジュール(もしくはユニット)という言い方をしますが、いくつかの学習目標を束ねてラベル化したものです。右側が学習目標です。 いかがでしょうか。学習目標の一つ一つがスキル項目に対応しているのがわかると思います。完全に一致してはいませんが。 異なる点が2つあります。ひとつは学習目標はタスクだけでなく条件や基準が追加された表現になっていることです。もっともパーソナルスキル研修の場合、技術研修(知識研修も同様)と比べて基準を明確にすることが難しいので明確な記述はありません。 もうひとつは順番が少し違うことです。これはスキルを定義することと、学習をデザインすることとの本質的な違いです。スキル定義では必要なスキルをタスク表現するまでですから、スキルをリストする順番は気にしません。一方、学習のデザインはどの順番で学習するかは極めて重要です。学習者の前提知識、前提スキルを考慮して、重要度、学習のストーリ化など様々なことを考慮する必要があります。  いずれにしても、上記のようにタスク表現されたスキル項目を利用して学習目標が作られていることがお分かりになったと思います。重要なことはスキルを「タスク表現」することのメリットです。この点は後ほど、さらに詳しく述べたいと思います。     3.3.1.3 ARCSモデル 教育学者ケラー(John M. Keller)が提唱している学習の動機付け理論「ARCSモデル」を紹介します。学習者が動機づけられる要因をまとめたもので、注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足(Satisfaction)の4つの要因からなります。 「ITSSコアコミュニケーション研修」ではこのARCSモデルを多く採用しています。具体例をご紹介します。
 
 -注意(Attention):面白そうなこと、学習する必要性に気付いてもらいます。  たとえば、導入時に短時間の演習をやり、これから学習する内容(スキル)がまだ身についていないことを自覚し、学習の動機付けにしています。
 モジュールの最初に行いますから非常に効果的です。
 
 
 -関連性(Relevance):自分の仕事に役に立つ  演習やロールプレイのコンテンツをIT顧客とのやり取りなどを題材に使っています。  実例に近い形で学習しますから、臨場感にあふれ、翌日からの仕事にそのまま使えます。
   -自信(Confidence):これならできると自信をつけることが重要です。  演習やロールプレイの難易度の調整を微妙に行います。経験年数、仕事内容(プロマネ、ソフト開発者、など)により、よりチャレンジングに
 する場合、そうでない場合と臨機応変にできるように学習を設計してあり
 ます(現場のインストラクターの判断で調整できます)。
 
 
 -満足(Satisfaction):やってよかった   演習や、ロールプレイで達成感を味わうことにより、満足感が得られます。   自信(Confidence)と密接な関係があります。簡易すぎたり、逆に難しすぎたりすると、満足が得られず、教育効果も下がってしまいます。
 
 ARCSモデルについては後の参考文献をご覧ください。   3.3.1.4 マクロモデルとミクロモデル インストラクショナルデザイン(ID)はおもにマクロな立場で学習をシステマチックに、教育ゴール → 学習目標 → コンテンツ作成 とデザインすることが多いのですが、現実にはミクロモデルと呼ばれる、具体的な学習要素(小さなかたまり)も同様に重要です。
 講義、ロールプレイ、ゲーム、シミュレーション、質疑応答、グループ演習、個人演習...など、さまざまなミクロモデルがあります。学習者を飽きさせないためには豊富なミクロモデルを駆使する必要があります。ARCSモデルのAttentionにも通じます。  「ITSSコアコミュニケーション研修」では、講義のみならずゲームや演習をふんだんに取り入れて行います。質問、傾聴では、役割を替えて何回もロールプレイを行います。  豊富なインストラクション経験により多くのミクロモデルを提供しています。単純にIDを採用しているだけではありません。   3.3.1.5 成人学習理論(アダルトラーニング) 学習を開発するときには、成人学習理論も重要です。 成人学習理論とは以下のようなものです。
 
 1. 主体的学習(Self directed)  成人は自らの意志で学びます  受け身の学習ではありません
 
 2. 実践学習  実務に役立つ内容が必要です(学生と最も異なる点です)  ARCSモデルのRelevanceと強い関係があります。
 
 3. 経験学習 成人は自分(及び他人の)豊富な経験を利用して学びます 学習者の持つ豊富な過去の経験が学習を効果的にします(自己の経験に基づいて学びます)
 4. 目標明示
    学習目標の早期開示を好みます(実践学習にも関連します)   IDの教科書には成人学習理論(アダルトラーニング)について残念ながらあまり触れられていません。それはIDの対象が成人だけでなく、学生(大学生や高校生)を含んでいるからです。私たちIT人材は基本的には成人(アダルト)ですから、アダルトラーニングが必須になります。  「ITSSコアコミュニケーション研修」の例では、  1. 主体的学習(Self directed)  グループ討議の運営は参加者にリードしてもらいます  発表者もグループ内で決めてもらいます。 2. 実践学習  コンテンツそのものが実践的です。  導入部分での短時間演習により、なぜこれを学ぶかを示したりします。  ロールプレイの題材は現実にきわめて近いのもこのためです。 3. 経験学習 グループ討議、クラス討議で経験を分かち合ってもらいます。 正解は一つではありません。異なる経験はすべて正解とします。 経験学習を成功するカギは参加者のすべての経験を受け入れることです。 そして、経験を整理してもらうと、良い学びが得られます。     4. 目標明示    すべてのモジュールの初めに学習目標を提示しています。   一つ言い忘れていた大切なことに「学習者分析」があります。 学習者の前提知識、前提技能、学習者の特性、学習スタイルの好み、などを調べます。 学習者は誰で、何ができて、何ができていない。いままで何を学習してきたか。などです。 ITSSパーソナルスキルの研修群では、ITSSレベルが重要な情報です。前提技能に影響します。 ITSSのエンジニア、UISSのエンジニア、ETSSのエンジニアで、前提技能や学習者特性に差異はあるでしょうか。あるとすれば、UISSだけは受講者のお客様が社内ユーザーということぐらいでしょう。外部顧客と社内ユーザーでは対象とするスキルに差はあるでしょうか。本質的にはないと思います。ですから、パーソナルスキル研修群はITSSのみならず、UISSやETSSにも共通に使えるのです。   今回はここまでにします。次回はコアコミュニケーション研修以外のパーソナルスキル研修をご紹介します。  
 
 インストラクショナルデザインの参考文献です。いろいろありますが、代表的なものをご紹介します。
  -The Systematic
Design of Instruction: Dick,W. , Carey,L.M., Carey,J.O    (和訳:初めてのインストラクショナルデザイン:ピアソン・エデュケーション)    オーソドックスな教科書です。IDを勉強する人は必ずと言っていいほど読んでいます。    しかしかなり難解です。はじめてこの本を読んでわかる人はあまりいません。    -Principles of
Instructional Design: Gagne,R.、Briggs, L.、Wager, W.   (和訳:インストラショナルデザインの原理:北大路書房)    数か月前に日本語版が出版されました。IDを勉強する人はこの本も必読です。    学習目標(Performance
Objectives)を5つの要素(Situation, Learned Capability Verb,    Object, Action Verb, Tools/Constraints or
Condition)で規定しています。    有名なガニェ(著者の名前)の9教授事象を説明してくれています。本物を読みましょう。    これもやさしいとは言えません。監訳者が著者(ガニェ)と交流のあった方なので内容を熟知されていて、日本語としてはDick&Careyの本よりわかりやすいと思います。
   初心者向けとしては、  -教材設計マニュアル(独学を支援するために) 鈴木 克明 著  北大路書房    があります。上記Dick&Careyの本をわかりやすくした感じです。    巻末にARCSモデルについて分かりやすく説明してくれています。この著者が上のガニェの本の監訳者です。
   
    
 
 
 
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