私たち日本人はIT業界に限らず、戦略が苦手です。もともと農耕民族なので、みんなで同じことをすることを良しとする文化が長く続いてきました。農家では同じ日に苗を植え、草を取り、稲刈りをしていました。古くは聖徳太子の「和をもって尊しとする」からはじまり、70年代の高度成長期そして80年代のバブル経済まで続いたのです。護送船団方式により、業界全体が右肩上がりで成長し、業界として同じこと(似た製品、似たサービス)を提供することが、私たち日本人全体の幸せにつながっていたのでしょう。ジャパン アズ ナンバーワン ともてはやされた時がピークでした。品質の高いメードインジャパンの製品が世界を席巻していました。このような時代の戦略(かどうかは疑わしいのですが)は「みんなと同じことをする」ことでした。和を尊しとする日本人には最も得意なことでした。
しかしバブル経済も終焉し、日本経済も全体として成長する時代は過去のものとなり、成熟期を迎えたのは誰もが認めるところです。一方、経済のグローバル化に伴い、世界的競争がますます激しくなってきました。外資の参入も激しく、M&Aも当たり前になり、高度成長期とは比較にならない、競争激化の時代になりました。高度成長期のように全ての業界が右肩上がりになることはもはやありえませんし、私たちのいるIT業界が右肩上がりに成長することも難しい状態です。さらにはオフショア開発と呼ばれるように、中国やインドなどが安価な人件費を武器に日本の市場に参入してきています。そのため、ITサービス業界の上位企業はわずかな例外を除いて、売上げの伸び悩みと収益の低下に苦しんでいるのが現状です。
IT技術の進化はめざましく、かつ多様化し、細分化しています。インターネットの普及に伴い、顧客ニーズはそれ以上に多様化しています。BPOを含むアウトソーシングからアプリケーション、ソフトウェア製品、プラットフォームと実にさまざまです。つまりビジネス機会は今まで以上に多くなっているのです。逆に特定のサービス(例えば受託開発など)は減少しているのではないでしょうか。すなわち従来とは違ったやり方が求められているといえます。
では私たちはどうすればよいのでしょうか。
「みんなと同じことをする」時代が終わり「他人とは違うことをする」必要がでてきたといえます。ITサービス企業が「みんなで同じこと(例えば受託開発)」を提供するだけでは、多様化している顧客ニーズを満たすことができなくなり、自分たちの事業目標(売上げ、利益など)が達成できなくなってきているのです。
これからは、ITサービス企業は他社にマネのできない(差別化できる)ユニークなサービスを提供し、多様化する顧客ニーズに応えることで事業目標(売上げ、利益など)を達成するべきではないでしょうか。
すなわち、自社の得意とするモノ(製品・サービス)で、他社にはできないことを見極め、それに注力(リソースを投入)することです。それを体系的に考えたものが「ビジネス戦略」と言えます。
私たち日本人は、戦略を考えることは苦手ですが、苦手な戦略をうまく作成し実行すればビジネスは成功します。苦手だからといって逃げていては、ビジネスの目標を達成することは難しいでしょう。
これから「ビジネス戦略」を作成するための一つのモデル(手法)を提示します。このモデルだけが「ビジネス戦略」を作成する方法ではありません。他にもたくさんあります。ビジネスコンサルタントの数だけ方法論があると思って差し支えありません。しかしこのモデルの特長は、ITやハイテクといったテクノロジーを扱うビジネスに極めて有効なことです。その意味では数少ない「ITビジネス戦略」作成の手法といえます。
ご一読いただければ幸いです。
ビジネス戦略に関するいくつかの質問です。まず、お試しください。
1.
あなたのビジネスのお客さまは誰でしょうか(狙いのマーケットは)?
そのお客さまのニーズは何でしょうか?
2.
そのお客さまは、誰からあなたのソリューション(またはサービス)を購入したいと思っているでしょうか(チャンネル)?
3.
あなたのビジネスの競合は誰でしょうか?
競合の強み、弱みは把握できているでしょうか?
狙いのお客さまに対する、あなたのソリューション(またはサービス)の競争優位性は明確
でしょうか?
4.
3年以内に目標マーケットセグメントでNo.1か2の地位になれるでしょうか?
なるためには何をしたらよいでしょうか?
もしなれないなら、なれるまでセグメント(お客さま)を考えなおしましょう。
5.
あなたのお客さまが求める理想の解決策(ソリューションやサービス)は何でしょうか?
(お客さまが求めるものであって、あなたが提供できるものだけとは限りません。
それをしっかり把握できているでしょうか?)
では、それを自社だけで提供できるでしょうか?
できないとしたら、誰とパートナーを組むのが最適でしょうか?
3.に戻って競争優位性を確認しましょう。
4.のセグメントでの地位を再確認しましょう。
上の1から5を真剣に考えると、ビジネス戦略の骨格が見えてきます。
先に進む前に、しばらく、ご自分で考えてみてください。
1から5まで、すらすら回答できる人はこの先を読む必要はありません。
ビジネス戦略を十分理解されています。
1がわからない人: 先をお読みください。ヒントが得られると思います。
2がピントこない人: SIerに多いと思います。今までは必要なかったかもしれません。
それですんでいる間は幸せでした。これからはお考えください。
3.4.5 : わかっているつもりの人が多いと思います。ぜひお読みください。
わかっていなかったことがわかるかもしれません。
お読みになりたいテーマをクリックしてください。
または、下の「続く」をクリックすれば、次へ進みます。
1.お客さまは誰でしょうか?
2.チャンネルは?
3.競合は誰?
4.セグメント内での地位は?
5.理想の解決策は何?
[続く]
本稿へのご意見、質問を歓迎します。
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