ビジネスルールとビジネスプロセス(その5)

5.ビジネスルールの作成方法

今週からビジネスルールの抽出方法を簡単に紹介します。

下記、5つの方法を解説します。

  • ファクトモデルからビジネスルールを抽出する
  • ビジネスプロセスからのビジネスルールを抽出する
  • マイルストンからビジネスルールを抽出する
  • 決定分析からビジネスルールを抽出する

今週はファクトモデルですが、退屈するかもしれません。少し我慢してください。

5.1 ファクトモデルからビジネスルールを抽出する

【用語(Term)】

当たり前のことからスタートします。ビジネスルールを決めるためには、ビジネスで使用する用語を定義しなければなりません。ですから用語が最も重要です。当たり前すぎることなので困惑するかもしれませんが、同じ社内、ユーザーとベンダー、また顧客との間でも用語が統一されていないとコミュニケーションが取れなくなります。

先日来ご紹介している東京海上日動システムズにおけるビジネスアナリシスの実践においても、担当されたビジネスアナリストは「用語集」が最も重要と述べています。たとえば「クレーム」という言葉は、保険業では「事故処理」を意味しますが保険代理店では「顧客からの苦情」を意味していました。このように認識が異なるままインタビュー、要求分析を続けていったらどうなるでしょうか。空恐ろしいことになることが想像できますね。

BABOKでは、「用語集」を「組織または部署が使用するすべての用語を識別し、定義するための公式文書」と解説しています。この解説を見るだけでもビジネスアナリシスにおける重要性がわかります。

用語:ビジネス運用に関わるものを示すために用いる名詞、および名詞句

例は、「顧客」、「注文」、「従業員」、「出荷」...などですが、それらをしっかりと定義しておかなければなりません。スタートですから当たり前で簡単のようですが、意外と深い意味があります。当たり前(自明)と思える用語を定義するのですから意外と大変かもしれません。

例えば「顧客」の定義ですが、

顧客:商品やサービスを購入する者、特に規則的に、あるいは高頻度で購入する者

(メリアム・ウェブスター大辞典[MWUD])

規則的とはどういうことでしょうか。高頻度とはどのくらいの頻度を意味するのでしょうか。それらも決めておく必要があるのです。もちろんビジネスドメインにより頻度の意味は大きく異なります。自動車の顧客が新車を購入する頻度(数年に一度)とコンビニの顧客が買い物をする頻度(ほとんど毎日)は大きく異なりますね。ですから同じ頻度でも、組織においてしっかり定義しなくてはいけないのです。

【表現法(Wording)】

上で定義した用語どうしの関係を動詞で表現したものです。

ビジネスにおいて、「顧客」、「注文」、「出荷」、「従業員」などは用語として基本的なものですが、それらの関係を記述します。

例: 顧客が注文を出す

出荷が従業員により承認される

これらのように、名詞-動詞(Wording)で構成された表現を「ファクトタイプ」と言います。

表現法(Wording)により、動詞や動詞句をビジネス用語集に追加したものを、「構造化ビジネス用語集」と言います。

【ファクトモデル】

ファクトタイプを下のように図形表示したものがファクトモデルです。UMLをご存知ならクラス図とみてもかまいません。

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ファクトモデルまたはファクトタイプからビジネスルールを導くことができます。

上記のファクトタイプから導き出されるビジネスルールの例は下記のようなものです。

  • 顧客は少なくとも1個の注文を出さなくてはならない
  • 出荷は少なくとも2人の従業員により承認されなくてはならない

用語、表現法、ファクトモデル、ビジネスルールの関係をまとめると次の図のようになります。

 

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実際のファクトモデルの例です。

 

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