DXにおけるビジネスルールの重要性

DXにおけるビジネスルールの重要性

従来からDXにおける業務プロセスの重要性について述べてきました。

今回は更に発展してDXにおけるビジネスルールの重要性について考えてみます。

業務とビジネスルールの関係

業務プロセスは、仕事の流れ(フロー)、ルール、情報(データ)の組合せからできていますが、業務からビジネスルールを切り離して管理する方法が注目されています。ビジネスルールの多くがプロセスの中に含まれているのです。

Bルールがプロセスの中に2

(図クリックで拡大表示)

上図は単純な承認ルールの例ですが、世の中の景気の変動により承認ルールを変えたくなりますよね。ルールの変更をシステムが対応するためには、その都度システムを止め、コードを変更し、テストし、動作チェックをする...時間がかかりますね。

VUCAの時代と言われているように外部環境の変化は最近よくあります。その都度システムのコードを修正するには多くの作業が必要です。外部環境の変化に対応しずらい(対応するのに時間がかかる)のは大きな問題です。最近の研究で明らかになってきたことは、頻繁に起こる外部環境の変化にはビジネスルールの変化で対応できることが意外と多いということです。

本当に重要なのはBルール

 

(図クリックで拡大表示)

上図のように、業務プロセスの中からビジネスルールだけを取り出し、別に管理するやり方をBRM(ビジネスルール管理)と言い、それを支援するのがBRMS(ビジネスルール管理システム)です。

従来から特定な業界(保険業界や通信業界など)ではBRMSが多く使用されてきました。考えてみると保険の約款はビジネスルールの塊です。ビジネスルールをしっかり管理する必要があります。また、携帯電話(スマホ)の料金プランもビジネスルールです。学割、家族割など、毎月のように新しいプランが提案されますが、請求プロセスなどは殆ど変わりません。ビジネスルールを変えているだけです。

このようにビジネスルールの変更のみで、魅力的な料金プランを提示することにより、スマホユーザーにキャリアの変更を促すことができ、キャリア会社の売上げに直接影響し企業利益に貢献することが可能になります。

つまりビジネスルールの変更⇒ 顧客行動に直接影響し、売上・利益の向上に寄与

これが最重要です。

DXブームの一環で、プロセス(フロー)改善も重要で、BPM(ビジネスプロセス管理)や、それを支援するBPMS(ビジネスプロセス管理システム)も注目されています。しかし、プロセス改善は仕事の効率向上によるコスト改善に効果がありますが、売上の向上はあまり期待できないかもしれません。

スマホ料金プランのように、ルールの変更は魅力的なプラン(家族割など)を提示でき、顧客の行動に直接影響を与えることが期待できますから、効率より企業の売上げや利益への直接的な貢献が期待できます。

また、電気・ガス料金の自由化で従来別々の契約だったものを、ガス会社(電気会社)が電気料金(ガス料金)と合算して一括サービスを提供できるようになりました。電気・ガスを別々に契約することに比べ、一括サービスで魅力的な料金サービスを提供しています。提供会社の売上げ・利益の貢献のみならず、消費者の満足度向上にも大きく貢献しています。これもビジネスルールの果たす役割が極めて大きいものです。

ビジネスプロセス管理とビジネスルール管理の効果の違い:

  •  ビジネスプロセス管理: 業務効率の向上がメインで、コスト削減に寄与
  •  ビジネスルール管理:  顧客行動に直接影響し、売上・利益の向上に寄与

ビジネスプロセスからビジネスルールを分離して管理することは、業務の柔軟性・一貫性・保守性を高めるという観点から、さまざまなメリットがあります。次の表はその代表的なものです。

観点 メリット               説明
① 柔軟性 ルールだけを変更可能 プロセス自体を修正せずに、ルール(例:支払条件、審査基準)だけを更新できる。頻繁な制度改定や商品変更に対応しやすい。
② 保守性 メンテナンスが簡易化 プロセスとロジックが明確に分離されていることで、ロジックのテストや更新が独立して実施でき、影響範囲も明確にできる。
③ 再利用性 複数のプロセスで共通ルールを活用 例:同じ「顧客ステータス判断ルール」を契約・支払・保全プロセスで使い回すことが可能。ルールの一元管理ができる。
④ 一貫性 判断のバラツキを防止 プロセス内での判断がルールに依存するため、担当者やチャネル(Web/代理店など)による処理の違いを最小化できる。
⑤ コンプライアンス 監査や説明責任に強い 「なぜこの判断をしたか?」をルールに基づいて明示できる。金融・保険では特に重要(支払拒否判断の根拠提示など)。

特に変化の多い業界(例:保険・金融、通信、公共料金など)では、その利点がより顕著です。

DXにおけるビジネスルールの重要性

ビジネスルールは最近のDX環境において、変化の多い業界のみならず大きな意味があります。それはDXで重要なのは業務をデジタル化(もしくはデジタライズ)したのちに外部変化への対応能力を高めておくこと必要があるかからです。外部環境が変化するたびにデジタルシステムを作り直すのではなく、ビジネスルールのみを修正することで変化に柔軟に対応可能なデジタルシステムにしておくことがDX時代には不可欠になります。

そもそもDXとは「デジタルを活用して、企業が競争優位を獲得・維持するために、ビジネスモデル・業務プロセス・組織文化を継続的に変革していくこと」です。この変革の過程で、頻繁に変わる意思決定や業務判断が必要になります。

→ その中心にあるのが「ビジネスルール」と言えます。

DXにおけるビジネスルール管理の重要性(要点)は次のとおりです。

観点 重要性の説明
柔軟性の確保 ビジネスルールをアプリケーションやプロセスから分離すれば、外部環境変化による業務要求の変更に即応できる
アジリティ(俊敏性) ルールを外部化・可視化することで、開発や運用に手を加えずにビジネス判断の変更が可能
説明責任(ガバナンス) なぜその判断に至ったか(ルール根拠)を説明しやすい
再利用と統一性 同一ルールを複数システム・部門で共通利用し、ばらばらな判断や業務ブレをなくすことが可能

日本ではDXブームと言われていますが、AI、IoTなどデジタル技術に重点が置かれていてX(トランスフォーメーション)がなおざりにされているのは残念です。まして、ビジネスルールの重要性にまで気がついていないようなのが気がかりです。

DX時代のデジタルビジネスは、ある意味「コードよりもルールで動かす」ことが重要ではないでしょうか。ビジネスルールが外部化・再利用・可視化されることで、DXに必要な変革スピード・一貫性・説明力が確保されます。

ビジネスアナリストがビジネスルールの設計と管理に深く関与することで、ITと業務の橋渡しが実現します

 

次回はDXにおける意思決定マネジメントです。