知識エリア【要求アナリシスとデザイン定義】
まず、この知識エリアの概要です。(筆者試訳)
- 知識エリア「要求アナリシスとデザイン定義」では、要求とデザインを仕様化・モデリングするタスク、その情報の検証と妥当性確認をするタスク、組織的なニーズを満たすソリューション選択肢を識別するタスク、そして各ソリューション選択肢により実現できる潜在的価値を評価するタスクについて記述する。
- 知識エリア「要求アナリシスとデザインの定義」は、最初のコンセプトおよびビジネスニーズの調査から、そのニーズを特定ソリューションに変革するまで、ソリューションをインクリメントに生成する過程全体をカバーする。この知識エリアは、実現することができる可能性のある価値あるいは将来価値にフォーカスする。要求とデザインは、ハイ・レベルもしくは非常に詳述されたもののいずれかもしれないが、ビジネスアナリシスの情報を基に適切に作成される。
- 要求とデザインの主な違いは、表現ではなくそれがどのように、誰によって使用されるかにある。各々のステークホルダーがソリューションのインプリメンテーションに近づくために表現を使用するとき、ある人にとってのデザインは別の人にとっては要求かもしれない。
- 要求とデザインは共に、変革を定義しガイドするためにビジネスアナリストによって使用される重要なツールだ。要求とソリューションのモデリングにおけるビジネスアナリストの役割は、任意の組織変革の中で行われる分析およびコミュニケーション活動の両方において貴重な存在である。その詳細の形式およびレベルは状況、対象者および目的に依存する。
- アナリシスと定義は、引き出し活動中に発見され文書化されるステークホルダーニーズを段階的に詳細化することにより行なわれる。これを実行するために、ビジネスアナリストは引き出しの結果を要求とデザインに変換する。
図7.1
- ビジネスアナリストは、要求とデザインの両方の潜在的価値を分析する。ステークホルダーは実行されたソリューションを通じ、結果として生じる表現により価値を認識することができる。ビジネスアナリストは、すべてのステークホルダーに明瞭で完全に意味を理解してもらうことを確実にするために要求を体系化する。
- ビジネスアナリストはソリューションSMEと共同で、評価可能な一連のソリューション選択肢を提供するために、将来の状態の一つ以上のソリューションデザインを定義する。その後、ニーズを満たし、望ましい価値をドメインSMEにもたらすソリューション選択肢を推奨することができる。
タスクの変更点をまとめてみました。
最初の3つのタスクは従来の知識エリア「要求アナリシス」のタスクを踏襲しているようです。4番目の「要求アーキテクチャを定義する」タスクはV2の「要求を体系化する」タスクと似ていますが、エンタープライズレベルでのアーキテクチャを意味しています。いわゆるザックマンのエンタープライズアーキテクチャがその典型です。5番目と6番目のタスクは新しいタスクで、ソリューションの定義に関するタスクです。
[図のクリックで拡大表示]
大きな違いは、バージョン2では主に「要求」だけを扱っていたのですが、V3では、ニーズを満たすソリューションを定義し、ステークホルダーに確実に価値を提供するために、要求のみならず、「アーキテクチャ」と「デザイン」が不可欠となったことです。
そのため、4番目の「要求アーキテクチャを定義する」タスクが加わりました。また従来はソリューションを定義することはビジネスアナリシスの対象業務ではなく、外部で行われていたのですが、新しいバージョン3ではビジネスアナリスト自身が「ソリューション選択肢を定義する」ようになりました。コアコンセプトに、「ソリューション」が採用されたための必然の結果だと思います。そして、知識エリアの名称も「要求アナリシスとデザイン定義」となりました。
左図は昨年のラスベガスで開催されたBBC(Building Business Capability)カンファレンスにおいてKevin Brennan氏のスライドを基に清水が作成したものです。ニーズを満たすソリューションを定義し、ステークホルダーにビジネス価値を提供するためにはアーキテクチャとデザインが不可欠なことを示しています。
[図のクリックで拡大表示]
つづいて、知識エリア「要求アナリシスとデザイン定義」のタスクの概要です(筆者試訳)。
要求の仕様化とモデリングを行う:
- ステークホルダーに価値のある結果を記述するため、特定の分析テクニックを使用して、一連の要求またはデザインについて詳細に記述する。
要求を検証する:
- 特定のステークホルダーによって使用可能なために一連の要求あるいはデザインが十分に詳細に開発されていて、内部に一貫していて高品質であることを確実にする。
要求を妥当性確認する:
- 一連の要求あるいはデザインがビジネス価値を提供し、組織のゴールおよび目的を支援することを確実にする。
要求アーキテクチャーを定義する:
- すべての要求とデザインを体系化し、変革による全面的なビジネス目的を支援する。またすべての要求とデザインは、密接に結合し全体として有効に働く。
ソリューション選択肢を定義する:
- ビジネスニーズを満たす異なる可能な方法を識別し、調査し、記述する。
潜在的な価値を分析しソリューションを推奨する:
- 潜在的なソリューションに関連したビジネス価値をアセスメントし、トレードオフを含む異なる選択肢を比較し、最も大きな価値を提供するソリューション選択肢を識別する。
この知識エリアにおけるデータフロー図です。
3つのグループに分けられるようです(まだ断定ではありませんが)。
要求を分析するタスク:
- 7.1 要求の仕様化とモデリングを行う
- 7.2 要求を検証する
- 7.3 要求を妥当性確認する
バージョン2であったのと同じものです。
アーキテクチャに関するタスク:
- 7.4 要求アーキテクチャを定義する
バージョン2の「要求を体系化する」タスクに似ていますが、エンタープライズアーキテクチャを意味しています。ですからこのタスクのアウトプットはこの知識エリアの他のタスクで使用されません。エンタープライズアーキテクチャの特徴です。
ソリューション定義に関するタスク:
- 7.5 ソリューション選択肢を定義する
- 7.6 潜在価値を分析しソリューションを推奨する
新たに加わったタスクで、ビジネスアナリストがソリューションを定義する役割を持ちます。
知識エリア【要求アナリシスとデザイン定義】におけるBAコアコンセプトモデル
コア・コンセプト |
「要求アナリシスとデザイン定義」においてビジネスアナリストは; |
変革(Change):組織的に制御された変革(トランスフォーメーション) |
引き出しの結果を次の要求に変換する。 その要求は、変革により生じるソリューションを定義する変更およびデザインを定義する。 |
ニーズ:ステークホルダーにとって潜在的価値のある問題、機会、または制約 |
ニーズを表わすことを支援するためにモデルを作成し修正する。 |
ソリューション:コンテキストにおいてニーズを満たす具体的な方法 |
ソリューション選択肢を定義し、ニーズに対処できる可能性が最もありそうなものを推奨する。 |
価値:コンテキストにおいてステークホルダーにとって重要なもの |
ニーズの潜在的価値を分析する。 |
ステークホルダー:変革又はソリューションと関係を持つグループまたは個人 |
各ステークホルダー・グループに理解できて使用できるように、ニーズの表現をカスタマイズする。 |
コンテキスト:環境のなかで変革を包含する部分 |
コンテキストを、すべてのステークホルダーに理解でき、使用できるフォーマットにモデル化し記述する。 |