デジタル・ビジネスアナリシス 基礎 (その4)

カスタマージャーニーマップとバリュー・デリバリー・システム

 

カスタマージャーニーマップ

今まではBABOK V3の内容を活用してデジタルビジネスアナリシスを解説してきました。

デジタル・ビジネスアナリシスはBABOK以外のノウハウも重要です。その一つとしてカスタマージャーニーマップがあります。これはデジタルビジネスにとって最良のカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を考えるのに大変有効なテクニックで、

  • 「顧客の行動傾向を分析するのではなく、お客様が何を思いその行動を行ったのか、行った先にどんな自分を思い描いているのかを知るためのもの」です。

例えば例に挙げている「若者向けXX保険」を例にとると、新しい顧客セグメントとして従来医療保険に加入していなかったヤング(若者)に焦点を当ててみましょう。ペルソナ分析でヤングの生活実態はモデル化できますが、さらに「XX保険」を購入してくれるためにはどのような気持ちなれば行動してくれるのでしょうか。

 

カスタマージャーニーマップそのものについては下記の複数のWebサイトで解説されていますので、そちらを参照してください。

マップそのものの標準的なフォーマットはありません。自分のビジネスに応じた最適なものを考えればよいと思います。

例えば、簡単ですが次のようなものを考えてみます。

デジタルBA_カスタマージャーニー_2018年2月26日

各々のタッチポイントにおいて、ヤング(若者)はどのような行動をして「XX保険」に加入して、利用して、更新するのでしょうか。その時の思考は何を思い浮かべているのでしょうか。その時どんな感情を持つのでしょうか。提供する側のタッチポイントにおける課題は何でしょうか。それを徹底的に想起することが重要です。この時の基本的な考え方が

  • 「顧客として考える(Think as a Customer)こと」です。

我々自身も顧客になりうる立場です。ヤング(若者)への共感が最も重要です。
そして課題を解決する施策を練ります。施策の実現には前回考慮した「要求アナリシスとデザイン定義」のコンポーネント(5W1H)が役に立ちます。

デジタルBA_要求アナ5_2018年2月7日

 

Who/whereの列にある

「ステークホルダー・リスト、マップ、ペルソナ」のテクニックから

「ユーザーエクスペリエンスを含むユーザー相互作用」

がこのカスタマージャーニーマップで明確になってくると思います。

タッチポイントにおける課題を解決する施策に移っていくと、タッチポイントを実現することは何らかの価値をタッチポイントごとに提供していく事になります。小さいながらのバリューチェーンになります。
カスタマージャーニーを上から下の流れで表示しています。そして各々のタッチポイントで提供するバリューチェーンを右から左への流れで表示しています。

バリュー・デリバリー・システム(VDS)

 

デジタルBA_VDS1_2018年2月26日

図の例は契約時のタッチポイントは「XX保険」そのものです。その保険を提供するためのバリューチェーンを示しています。上部に記載されている「伝える人」「準備する人」「開発する人」「ソース」などがバリューチェーンの代表格を示しています。タッチポイントごとに適切な名称を考えて構いません。

「関心・興味」におけるタッチポイントはヤングですから当然スマホでしょう。「比較・検討」も熟年者なら「ほけんの窓口」かもしれませんが、ヤングは窓口で対面で相談するようなことはあまり好まないかもしれません。ペルソナ分析が役に立ちますが、やはりスマホで比較することになるでしょう。そうすると右側のバリューチェーンはやはりスマホでの実現方法になります。

上図のように右側は複数のバリューチェーンが並行していることに気が付きます。

一方、左側は価値を受け取る人が複数いる場合を想定しています。ヤングの場合は契約者と保険の対象者が同一のことが多いと思いますが、一般には契約者が対象者と異なります。保険対象者が子供(例えば小学生)なら契約者は保護者(両親)が一般ですね。保険対象者のニーズと契約者のニーズは必ずしも同じとは限らないこともあります。そのようなことも考慮する必要があるかも仕入れません。上図は更に、必要に応じてもう一人(スポンサー)も加えられます。

上図ではタッチポイントに応じた複数のバリューチェーンをシステマチックに考えることができるので、バリュー・デリバリー・ステム(VDS)と言います。

このVDSのベネフィットは次の通りです。

  • 複雑な全体の仕組みと、現在のマネジメントの範囲を越えて変革していくことを理解するためのフレームワーク
  • カスタマ経験に関する戦略的プラニングのためのフレームワーク
  • 新しいビジネスや、新しい市場に対して、顧客に価値を届けるため、関係者全員のアライメント
  • コア・コンピタンシや関係の強化、プラニング/メトリクスなど、パートナーとの価値デリバリのアライニングのための戦略的ツール
  • VDS全体の顧客満足・ロイヤリティ向上のためのGap 分析ツール

ここまで来て気が付くのは、ビジネスモデルを変えることから始めたのですが、いつの間にかバリューチェーンを変えることになっていますね。バリューチェーンを変えることはすなわちビジネスプロセス(ビジネスルールを含めて)を変えることになるのです。このことはデジタルビジネスにおいて極めて重要です。

ビジネスモデル・キャンバスでビジネスモデルを変えればすべてできると思いがちかも知れませんが、実際はビジネスモデルを実装するためにはビジネスプロセス(ビジネスルール、組織を含めて)の変革になるのです。

さらに、デジタルビジネスの特徴はバリューチェーンの中に顧客が入り込むことです。保険の例で言えば、契約者のニーズに応じた保険の特約を設定するなどがあります。ただ、今回はあまり深入りはしません。