RPAの成功事例紹介
働き方改革が花盛りですね。その切り札としてRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)が注目されています。その成功事例のプレゼンを聞かせてもらったので、この場を利用して読者の皆様にご紹介したいと思います。素晴らしい成功事例ですので、RPAを成功裏に活用するための大きなヒントが得られると思います。逆に失敗事例も多く耳にしますが、その理由も何となくわかると思います。
事例はオリックス・ビジネスセンター沖縄様(通称OBCO)です。この会社はオリックスグループのSSC(シェアードサービスセンター)としてオリックス・グループの直接業務(10社以上、数十業務)を受託されています。
受託業務の例は以下のようなものです。
法人金融サービス:
- 与信申込受付
- 契約条件確認
- リース終了業務処理
メンテナンスリース事業:
- 注文書・売買契約書作成
- 終了・再リース業務
- ETCカード登録
リテール事業もあります。
受託業務を見てみるとかなり詳細な業務単位で受託されていることが分かります。業務プロセスの階層構造の観点で見ると、レベル4プロセスと言えます。例えば最初の例の「与信申込受付」の業務がレベル4とすれば、その上のレベル3プロセスは「与信」、「審査」、「受領」、などでしょうか。
[図のクリックで拡大表示]
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)で請け負った業務をレベル4プロセスのインプットとしてもらい、レベル5以下のさらに詳細なプロセスを実行した結果としてレベル4プロセスのアウトプットとして委託会社に戻すわけです。ですから、この会社では具体的な業務をレベル5、さらにレベル6に分解していきます。ちょうどレベル6が個人の仕事の粒度になります。そしてRPAは個人の仕事を肩代わりに実行してくれますから、レベル6プロセスをさらにレベル7に分解し、人が行う作業とRPAが行う作業に分けて、その分解された作業(レベル7)のみをRPAが実行します。RPAが行う具体的な作業は、
- XXXシステムにログインする
- メニュー内の「予約顧客管理」クリックする
- 予約番号を検索し、データが存在したらそのデータを開く
- 回答欄を「済」にし、「回答済登録」をクリックする
この様な作業になるわけです。
RPA導入のためにはよく業務を標準化することが不可欠と言われます。しかし業務の標準化とはいったい具体的に何をすることなのでしょうか。上記でわかるように、RPAに任せられる業務はレベル7プロセスです。ですからその上のレベル6のプロセスを標準化しておく必要があります(個人が行う作業レベルです)。レベル6を標準化するにはその上のレベル5が標準化されていなければいけません。レベル4もレベル3も当然です。
レベル4やレベル5を無視して、レベル6(個人レベルの作業)を標準化することができるのでしょうか。不可能ではないかもしれませんが、業務改革とは程遠いものになります。業務改革でレベル3を変更した瞬間にレベル6は機能しなくなります。無理をして機能させると業務改革の足を引っ張ることになりかねません。言い換えると業務改革(レベル3やレベル4を変革して標準化すること)をしないとRPAだけ導入してもほとんど意味がないのではないでしょうか。その個人の作業の効率だけ改善されても全体最適につながらず、RPAのコストだけが余計にかかってしまいます。
また、同じ業務なのに10人が独自のやり方で作業している場合は、RPAも10台必要です。標準化して同じ作業にすれば1台のRPAで済みます。
RPA導入に成功する理由と失敗する理由は業務プロセスの階層構造の観点で見ると明確になります。業務プロセスの改革(少なくとも改善)が前提であるべきではないでしょうか。
OBCO様の成功には、別の理由もありました。場所が沖縄で従業員の約9割が女性だそうです。ほとんどママさんで、育児、幼稚園の送迎などで、フルタイムですがフレックスな勤務への要求が極めて強いことです。お互いが助け合うという組織風土が出来上がっており、業務の標準化を積極的に取り入れることに熱心なことです。自分の仕事が忙しければ他部署の人に仕事を手伝ってもらい、逆に手が空いていれば他部署の仕事を手伝うという組織風土です。それを助長するためにも業務の標準化に抵抗なく取り組めたようです。
[図のクリックで拡大表示]
OBCO様はこの業務改善を8年間かけて実施されてきました。
- 業務の可視化: 業務をもれなく洗い出し
- 計測: リアルタイムで業務を計測
- 分析: 業務の繁閑、生産性のバラツキ、業務単位のコスト算出、KPI設定
- 改善: チームを超えた支援体制、 数値に基づく改善提案
そして「ECOまるアーツ」というシステム化で管理されています。
業務改善はBPMNを活用して業務計測とプロセス改善に役立てています。
レベル5プロセスの標準化、レベル5を分解してレベル6プロセスを定義するのもBPMNです。
RPAはこの業務改善のほんの一部の役割を果たしているにすぎません。可視化、計測、分析、改善のPDCAを何年もかけて(実際は8年)実践していることが素晴らしいことです。