DXにおける業務プロセス変革(3)
業務プロセス変革も最終回です。
今までは業界共通のPCFを紹介してきましたが、特定業界用のPCFがいくつか用意されています。
今回は特定業界のPCFとして「損害保険業界」用のPCFを紹介します。
13のすべてのカテゴリーが用意されているわけではなく、オペレーティングプロセスの一部だけが特定業界用として作成されていますい。バックオフィス系のカテゴリー(例えば、人事や経理関係)は業界共通PCFと共通です。
オペレーティングプロセスの「5.0サービスを提供する」カテゴリーが重要です。
[画像クリックで拡大表示]
特有なのはプロセスグループ「顧客に保険サービスを提供する」(レベル2)です
その下には3つのプロセス(レベル3)がありますが、ご覧のとおりまさに保険業務そのもののプロセスです。
- 5.1.1 保険契約を管理・運営する
- 5.1.2 保険金請求を管理・運営する
- 5.1.3 保険契約および保険金請求情報の記録を管理する
[画像クリックで拡大表示]
レベル3「5.1.1 保険契約を管理・運営する」プロセスの下には以下の7つのアクティビティがあります。
- 5.1.1.1 取引の受領とチャネルの管理
- 5.1.1.2 新規契約の引受け
- 5.1.1.3 特約条項の処理
- 5.1.1.4 保険契約の解約
- 5.1.1.5 保険契約の復活
- 5.1.1.6 契約の更新
- 5.1.1.7 契約条項の発行
同様に、レベル3「5.1.2 保険金請求を管理・運営する」プロセスの下には7つのアクティビティが、「5.1.3 保険契約および保険金請求情報の記録を管理する」プロセスの下には3つのアクティビティがあります。
例えば、アクティビテイ「5.1.1.2 新規契約の引受け」の下にはさらに次の9つのタスクがあります。
[画像クリックで拡大表示]
- 5.1.1.2.1 契約者ポートフォリオの審査
- 5.1.1.2.2 引受開始および必要データの収集
- 5.1.1.2.3 必要データの評価
- 5.1.1.2.4 不足情報の請求
- 5.1.1.2.5 新契約の料率を設定する
- 5.1.1.2.6 保険料を発行する
- 5.1.1.2.7 再保険の要件を評価する
- 5.1.1.2.8 新契約を認可する
- 5.1.1.2.9 顧客に通知する
このようにプロセス、アクティビテイ、タスクがしっかり定義されていて、その数は以下の通りです。
- レベル3プロセス: 3個
- レベル4アクティビテイ: 17個
- レベル5タスク: 71個
ここまで参照モデルが用意されているのには驚きますね。どの保険会社でも上記タスクは存在するはずです。 重要なことはこの階層構造がタスク(レベル5)まで標準化されていることです。
これだけの参照モデルがあると、保険業務のヌケや漏れを防ぐことができますし、組織全体の業務の可視化、標準化が容易に可能になりますね。
それのみならず、事業再編が頻繁な保険業界ではこのような業務参照モデルが果たす役割は大きいものがあります。同じ参照モデルを使用していれば、業務プロセスの統合は短期間で済みます。バックオフィス系の業務のみならず、オペレーティングプロセスでさえ、顧客対応を変更することなく、もとは異なる2つの保険会社が新しいサービスへとスムーズに移行することも難しくありません。
さらに、日本の損保企業が海外市場に進出する際、現地法人の業務と比較・統合しやすくなるため、国際展開の推進にも役立ちそうです。
ただし、PCFはグローバル基準で作成されているため、日本の損保業界の独自の規制(例:金融庁の監督指針、保険業法、顧客対応義務など)などは考慮されていないことに注意する必要があります。
3回連続でAPQC(American Productivity and Quality Center)のPCF(Process Classification Framework)を解説いたしました。
ご意見、感想をいただければ幸いです。