初めてのビジネスアナリシス (2)

第2章 ビジネスアナリシスの3つの役割

プロジェクトにおけるビジネスアナリシスの役割は大きく次の3つがあります。

  1. プロジェクト開始前の活動として、プロジェクト発足の理由や根拠を明確にします。
  2. プロジェクト中においては要求の作成と管理、すなわち要件定義を行います。
  3. プロジェクト終了後にソリューションの価値を評価し改善策を作成します。

PMとBAの関係_2020年3月23日

プロジェクトマネジメントとビジネスアナリシスの関係を1枚の絵で示したものです。グリーンがプロジェクトマネジメント、ピンク色がビジネスアナリシスです。
まず、ビジネスアナリシスはビジネス要求を定義し、それをビジネス・ケースというドキュメントにまとめ、プロジェクトマネジメント側に渡します。プロジェクト側はそのビジネス・ケースを基にプロジェクト憲章を作成し、プロジェクトがスタートします。具体的にはPMBOKの「プロジェクト憲章作成」というプロセスへのインプットがビジネス・ケースであり、その作成責任者がビジネスアナリストです。プロジェクト中においては各ステークホルダーの意見を聞きながら要求をまとめていきます(要するに要件定義です)。プロジェクトではビジネスアナリストがまとめた要求に基づきプロダクト(最終成果物)を構築し、納入します。そしてビジネスアナリストは納入後、稼働しているプロダクト(ソリューション)の価値を測定し、ビジネス価値が達成されているかを評価し、改善策を提案します。

すなわち、プロジェクト開始前の活動としては、ビジネス全体の課題を洗い出し、その中から最も重要なものを定めビジネス要求として定義し、その要求を満足するソリューションの概要を定義し、ドキュメントとしてビジネス・ケースを作成することです。そのビジネス・ケースを基にプロジェクト憲章が作成され、プロジェクトが正式に発足することになります。このフェーズでの最終成果物はビジネス・ケースです。このビジネス・ケースがない限りプロジェクトは開始できないという関係がありますので、プロジェクトにとってはビジネスアナリシスの活動が極めて重要ということになります。

 プロジェクトが開始されると、ビジネスアナリシスの活動は要件定義をすることですが、そう容易なことではありません。まず、ステークホルダーの要求を引き出すことが重要です。単なるヒアリングで必要な要求が出てくるわけではありませんので高度なテクニックを使用する必要があります。ついでデータフロー図、UML、ER図などの複数のモデリング・テクニックを用いて要求を精緻化してステークホルダー要求、ソリューション要求と詳細度を高めていきますが、要求を検証したり、要求の妥当性を確認したりする必要もありますし、要求の優先順位も考慮しなくてはいけません。さらに要求を管理することも忘れてはいけません。具体的にはトレーサビリティを確立したり、要求を適切に維持したりするためには適切なリポジトリを準備してそこに要求を保存します。要求の変更を管理しながら最終的には要求を承認してもらい、それを関係者に伝えていく事が求められます。

そしてプロジェクト・マネジャー率いるチームによりプロダクト(またはソリューション)が設計、構築、テストされていきます。このプロダクトの実装とデリバリーを統括するのがプロジェクト・マネジャーです。すなわち、プロジェクト・マネジャーとビジネスアナリストはタッグを組んで仕事をしていくことになります。おそらくこの図がプロジェクトマネジメントとビジネスアナリシスの関係を最もシンプルに表現している絵ではないかと思います。

 無事にプロダクト(またはソリューション)が納品されると、プロジェクト・チームは解散しますが、ビジネスアナリシスの活動はまだ続きます。本当にビジネス成果を出しているのか検証するのもビジネスアナリシスの重要な仕事です。

プロダクト作成の責任者であるプロジェクト・マネジャーはプロダクトが納品されるとプロジェクトの終結とともに役割が終わります。QCDの責任は持っていますが、プロダクトのビジネス的な価値については何も責任ありません(変ですが現実です?)。そこで本当に実装されたソリューションはビジネス価値を発揮しいているのだろうか。もし発揮していないとすればその原因は何で、何を改善すればソリューションの価値が向上できるのかを見定めなければいけません。そのためには多くの活動が必要です。また、長年ソリューションが使用されていれば、耐用年数などからソリューションのリプレースも考慮しなければいけないかもしれません。これらもビジネスアナリストの重要な仕事です。

 この様に、ビジネスアナリシスはプロジェクト活動の中だけでなく、プロジェクトの開始前、プロジェクトの最中、そしてプロジェクト終結後にも多くの活動をする必要があるのです。そのため、ビジネスアナリシスの活動をプロジェクトとは言わずにイニシアチブということが多いのです。プロジェクトの場合明確なスタートと終結がありますが、ビジネスアナリシス活動はプロジェクトの開始前から始まり、プロジェクトが終結した後も続くからです。

 以下の章において、上記3つの役割、すなわちプロジェクト開始前、プロジェクトの最中、そしてプロジェクト終結後の活動について具体的に解説していきます。