ビジネスアーキテクトとビジネスアナリシス(1)

ビジネスアーキテクトとビジネスアナリシス(1)

昨年、経産省がデジタルスキル標準を発表しました(2023年8月)。

その中でD X推進スキル標準があり、核となる人材類型のロールモデルとしてビジネスアーキテクトがあります。
ビジネスアナリシスとの関連を聞かれることが多くなりましたので、まとめてみます。
この役割はどういうもので何をする人でしょうか。

 ビジネスアーキテクトの定義:(経産省/IPAのデジタルスキル標準より)

  • DXの取組み(新規事業開発/既存事業の高度化/社内業務の高度化・効率化)において、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材

これって、ビジネスアナリスト(ビジネスアナリシスを実践する人)そのものではないでしょうか。
特に「目的」が価値を意味するのであれば、「価値実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、価値を実現する人材」はまさしくビジネスアナリストです。

ビジネスアナリシスの定義(BABOKガイド v3より)

  • ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動

ここでチェンジは「ニーズに対応するトランスフォーメーションの行為」と定義されています。さらにニーズ、ソリューションも。

  • ニーズ:対処すべき問題または機会
  • ソリューション: あるコンテキストにおいて、一つ以上のニーズを満たす具体的な方法
  • ステークホルダー:チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ
  • 価値:あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有 用性
  • コンテキスト: チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況。

 

また、DXの取り組みとして3つのテーマがあります(経産省)。

  • 新規事業開発:データやデジタル技術を活用した新規製品・サービスの市場への提供
  • 既存事業の高度化::データやデジタル技術の活用を通じた既存製品・サービスの価値向上(多様な提供方法、既存製品の新市場開拓等
  • 社内業務の高度化・効率化:データやデジタル技術の活用を通じた社内業務の品質やコスト、スピードの向上

これらのテーマはすべてビジネスアナリシスの定義にあるコンテキストに該当します。すなわちビジネスアーキテクトは3種類のコンテキストにおいて実践するビジネスアナリストということになりますね。

続いて期待される役割を見ていきましょう。

ビジネスアーキテクト:期待される役割(経産省/IPAのデジタルスキル標準より)

  • デジタルを活用したビジネスを設計し、一貫した取組みの推進を通じて、設計したビジネスの実現に責任を持つ
  •  関係者をコーディネートし、関係者間の協働関係の構築をリードする

これも設計したビジネスの価値実現に責任を持つのがビジネスアナリストです。

「ビジネスの実現に責任をもつ」ことは聞こえは良いのですが、ビジネスが実現しても価値が実現できるとは限りません。特に最近の変化の激しいいわゆるVUCAの時代では、ビジネスが実現した時点では当初の目的は陳腐化してしまって、意味がなくなっている可能性すらあります。ですから、ビジネスの実現ではなく 「価値の実現に責任を持つ」が正しいと思います。顧客の嗜好が変化したり、競合会社が破壊的技術を生み出すなど外部環境は既に変わっている可能性があります。ですから当初の目的そのものも変えるべきもので、そのような環境においても価値を実現することが極めて重要です。

ビジネスアナリシス(BABOKガイドv3)では、ビジネスの実現時に価値の実現を妨げている要因を分析し、この時点での外部環境の変化に応じた目的の再調整をする仕組みを持っています。そのようにして価値を実現するわけで、ビジネスアナリストがその責任を持ちます。

的(マト)に狙いを定めて大砲をうち、単純にどれだけ的の中心に当たるのかを競うのではありません。的そのものが動いているのです。その動く的を追尾しながら的に当てることです。すなわち、単純な大砲ではなく、最新鋭の(追尾機能を備えた)ミサイルのようなものです。

スキルマッピング(経産省/IPAのデジタルスキル標準より)

(新規事業開発)

ビジネスモデルやビジネスプロセスの設計はビジネスアナリシスの真骨頂ですね。知識エリア「戦略アナリシス」では、

  • ケイパビリティ(能力)中心のビューを活用し、既存の能力を組み合わせて、新しい成果を作り出す革新的なソリューションを探します。
  • 将来状態を実現するためにアクティビティーを実行するであろう方法で、新たな種類のアクティビティーやチェンジを特定する。新しいプロダクトやサービスを提供するためにケイパビリティ(能力)の追加、変更を行います。

さらにテクニックとして、次のものがあります。

  • ビジネスモデル・キャンバス
  • ケイパビリティ(ビジネス能力)分析
  • ベンチマークと市場分析
  • プロセス分析、
  • プロセスモデリング
  • データモデリング
  • データ・マイニング

まさに、ビジネスアナリシスの知識体系が最大限に効果を発揮します。

(既存事業の高度化)

上と同様です。

(社内業務の高度化・効率化)

BABOKの知識エリア「戦略アナリシス」では、

  • プロセス中心のビューを活用し、現行のアクティビティーのパフォーマンスを改善する方法を探します。
  •  将来状態を実現するためにアクティビティーを実行するであろう方法で、新たな種類のアクティビティーやチェンジを特定します。エンタープライズのパフォーマンス改善などを実現するためにプロセスの追加、変更を行います。

次のテクニックが活用できます。

  • ケイパビリティ(ビジネス能力)分析
  • ベンチマークと市場分析
  • プロセス分析、
  • プロセスモデリング
  • データモデリング

 

上記3テーマに共通なこととして、重要なことに

「エンタープライズの準備状況のアセスメント」があります。

  • ビジネスアナリストは、エンタープライズを分析して、チェンジを実施できる力があるか、またチェ ンジ後に将来状態を維持できるかを評価します。 準備状況のアセスメントでは、エンタープライズが チェンジを実施できるかどうかだけでなく、ソリューションを使った運用で価値を引き出せるかどうか を考慮します。

知識エリア「ソリューション評価」の中の「ソリューションの価値を向上させるアクションを推奨する」タスクでは、組織的変革マネジメントがあり、ソリューションに関係するチェンジへの態度、認識、関与をマネジメントします。

 

結論としては、経産省/IPAの提唱するビジネスアーキテクトはビジネスアナリシスを実践するビジネスアナリストが担うのが適切ではないでしょうか。

 

次回は、ではビジネスアーキテクト/ビジネスアーキテクチャ(正確にはBusiness Architect/Business Architecture)とはどういうことをする人なのでしょうか。グローバルに通用している仕事の内容を紹介いたします。