ビジネスアーキテクトとビジネスアナリシス(2)
それでは本場のビジネスアーキテクト(Business Architect)とはどんなことをする人でしょうか
それを紐解く根拠としてグローバルにビジネスアーキテクチャの活動を定義しているN P O法人 Business Architecture Guildが発行するa Guide to the Business Architecture Body of Knowledge(BIZBOK)を主に参照します。
ここでは用語の混乱を防ぐためにグローバルに定義されているビジネスアーキテクト/ビジネスアーキテクチャを原文のまま Business Architect/Business Architectureと記述します。そして、経産省/IPAが定義しているビジネスアーキテクトをカタカナ表記とします。
BIZBOK(A Guide to the Business Architecture Body of Knowledge)の歴史はまだ浅い(2011年に初版を発行)ですから知らない人が多いのは仕方がないことです。ですが極めて積極的に活動し、Updateを頻繁に(毎年のように)しています。
Business Architectureの定義:(BIZBOKより)
- Business Architectureは、ケイパビリティ、エンド・ツー・エンドの価値提供、情報、組織構造のビジネスビューとこれらのビジネス・ビューと戦略、プロダクト、方針、イニシアチブ、ステークホルダーの関係性についての全体的で多次元的なビジネス・ビューを表す。
文章だとわかりにくいですが、次の図が分かりやすいです。
(画像クリックで拡大表示します)
コアの部分として4つのビジネスビューがあります。
- ケイパビリティ
- 価値提供(バリューストリーム)
- 情報
- 組織構造
次の階層に次の6つがあります。
- 戦略
- プロダクト
- 方針、
- イニシアチブ、
- ステークホルダー
- (メトリクス)
という構造です。
これらの2つの階層のビジネスビューでビジネスの構造(アーキテクチャ)を表現しようとします。表現するのであって、ビジネスを設計したり、ITソリューションを構築することではなさそうです。
そしてその価値はつぎのとおりです。
- Business Architectureの価値は、エンタープライズとその中で活動するビジネス・エコシステムを抽象的に表現することである。そうすることで、ビジネスアーキテクチャは、戦略を実行可能なイニシアティブに変換するための効果的なコミュニケーションおよび分析フレームワークとしての価値を提供します。
まだまだ極めて抽象的ですね。多くのステークホルダーにエンタープライズのビジネス全体を複数の観点でのビューを提示し、コミュニケーションと分析のフレームワークを提供するということです。
ビジネスビューの具体的な表現例です。
(画像クリックで拡大表示)
右側に表示されているモデルの数々を青写真(Blueprints)といいます。
- 組織モデル(Organization Models)
- Value Chain Models(バリューチェーンモデル)
- Dashboards(ダッシュボード)
- Capability Map
- Balanced Scorecard(バランス・スコアカード)
- Value Streams(バリューストリーム)
など。ご存じのモデルがあるのではないでしょうか。なんとなくイメージがわくのではないでしょうか。
ただし、組織にビジネス アーキテクチャを導入することは、忍耐、強力なスポンサーシップ、安定したリーダーシップ、そしてすべてのステークホルダーとの関係構築とコミュニケーションへの重点を必要とする旅(ジャーニー)のようなもので、かなりの年月(数年)が必要になります。そして、この専門活動を正式に確立し十分な賛同を得るのにはこの専門分野の価値を証明しなくてはならず、さらなる時間と労力が必要になる場合もあるようです。
Business Architectureは、エンタープライズ レベルのビジネス ユニット全体で活用される場合に最も効果的です。BIZBOKでは次の例を挙げています。
Business Archtectureの活用例(BIZBOKより)
- 企業合併、買収、売却、または同様の組織の合理化または統合への対処
- ビジネス・パートナー全体にわたる製品およびサービスの提供に関する全体的なビューの管理
- 異種のビジネス ユニットまたは部門全体にわたるリスク管理および危機計画に情報を提供する 地域、製品の競合他社とコア機能を比較および評価する 、またはビジネス全体の視点
- 一部の企業はこれを「一社」戦略とみなし、顧客およびその他のステークホルダーに対する共通かつ透明性の高いビューの作成
これを見ると、企業買収を含めて完全に経営者が判断するのに必要な情報ですね。ビジネスを設計するレベルではないようです。さらにBusiness Architectureを開始するときのよくある失敗例がBIZBOKに記載されていますので紹介します。
Business Architectureを開始するときの失敗例(BIZBOK)より
- Business Architectureの範囲を単一のビジネス・ユニットに限定し、ケイパビリティ、顧客、バリューストリーム、情報、およびビジネス目標を共有する関連ビジネス・ユニットを可視化しない。
- 単一の課題、システム、または類似のスコープに限定されたトピックについ て、狭義の概念実証を試みている。
- ケイパビリティマップやバリューストリームが不安定で、明確化されていない、またはスコープに制約がある状態で、広範で視認性の高い使用シナリオ(図 3.4 のレベル 5 ~ 7 に示す)に着手してしまう。
- ケイパビリティの明確化範囲が単一のビジネスユニットに限定され、ビジネスユニット間だけでなく、その単一のビジネスユニットのコンテキスト内でも、ケイパビリティマップが事実上使用不可能になってしまう。
要はエンタープライズ全体でなく単一のビジネスユニットで行ったり、限定したテーマ(課題)で行うと、全体最適にならずに部分最適になってしまいBusiness Architectureの効果を得ることができなくなってしまう、ということです。
ですから、 あくまでBusiness Architectureはエンタープライズ全体で行うものです。
日本の経産省/IPAの提唱するビジネスアーキテクトとはかなり異なるようです。