プロジェクトマネジメントを成功に導くビジネスアナリシス (4)

PMBOK第5版の中からビジネスアナリシスに関係する下記の3つの重要な知識エリアを取り上げています。

  • プロジェクト・スコープ・マネジメント
  • プロジェクト・タイム・マネジメント
  • プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント

最初のプロジェクト・スコープ・マネジメントを見ています。

 

知識エリア: 5.プロジェクト・スコープ・マネジメント:

今週は「5.2要求事項収集」を取り上げます。

5.2 要求事項収集

このプロセスはPMBOKの歴史の中でも比較的新しいプロセスで第4版から登場しました。そして最新の第5版ではその内容、インプット、アウトプットが大きく変わっています。

まず、第4版の「5.1要求事項収集」プロセスと第5版の「要求事項収集」プロセスを比較してご覧ください。

Collect Req_4thCollect Req_5th

[図のクリックで拡大表示]                    [図のクリックで拡大表示]

中央のツールと技法は8項目から11項目に増強されていますが大きな変更はありません。
大きく異なるのは第4版で「5.1要求事項収集」プロセスのアウトプットだった「要求事項マネジメント計画書」が、第5版では「5.2要求事項収集」プロセスのインプットになっている点です。

先週ご紹介したように「要求事項マネジメント計画書」の構成要素は以下のとおりです。

  • 要求事項に関する活動の計画、追跡、および報告の方法
  • コンフィギュレーション・マネジメントの活動。
  • 要求事項の優先順位づけプロセス
  • プロダクトの評価基準およびそれを使用する理由
  • トレーサビリティ構造。どの要求事項の属性がトレーサビリティ・マトリクスに取り組まれるかを反映する。

最初の「要求事項の関する活動計画、追跡、および報告の方法」は広い意味でBABOKの「2.3ビジネスアナリシスのアクティビティを計画する」タスクのアウトプット「ビジネスアナリシス計画」に相当します。BABOKを知らないとこの構成要素の意味が分かりにくいのではないでしょうか。

そして、上記計画書をインプットとして「5.2要求事項収集」プロセスは実行され、そのアウトプットが「要求事項文書」と「要求事項トレーサビリティ・マトリクス」が作成されます。最初の「要求事項文書」の内容は

  • ビジネス要求事項
  • ステークホルダー要求事項
  • ソリューション要求事項
  • 移行要求事項
  • その他

ビジネスアナリシス/BABOKを少しでもご存知の方には大変お馴染みの4つの要求のカテゴリーがそのまま出てきました。では、この「5.2要求事項収集」というプロセスはこの4種類の要求事項を全部作成するのでしょうか?
BABOKをご存知の方なら誰でも、

  • 「引き出し」はいつ、誰がやるの?
  • 「要求アナリシス」はどのプロセスで実行するの?
  • 「要求の優先順位づけ」を行うプロセスは?
  • 「要求の検証」は実施しなくてよいの?
  • 「要求の妥当性」はどうするの?
  • ...

と疑問を持たれるのではないでしょうか。

実は先週解説したように、プロジェクトマネジメントのPMBOKはプロジェクトマネジメントのプロセスだけを扱っていて、プロダクト指向のプロセスには何も触れていません。そのため、このような形になってしまいます。4種類の要求はまさにプロダクト指向のプロセス(のアウトプット)です。それを扱っているのが、ビジネスアナリシス/BABOKで、PMBOKとBABOKで明確に2つを分担していることになります。

これをわかりやすく図示すると次のようになります。ご覧ください。

Collect Req_and_BABOK

 

ビジネス要求事項はBABOKの「エンタープライズアナリシス」の活動で作成され、ステークホルダー要求事項とソリューション要求事項はBABOKの「要求アナリシス」の活動で作成され、そして移行要求事項はBABOKの「ソリューションのアセスメントと妥当性確認」の活動で作成されます。それら4種類の要求事項はすべてビジネスアナリストが作成します。

[図のクリックで拡大表示]

 

 

PMBOKではプロジェクトマネジメントのプロセスとして、ビジネスアナリストが作成した4種類の要求事項を収集するプロセスを定義しています。言い変えると、PMBOKの「5.2要求事項収集」というプロセスは、ビジネスアナリシスのBABOKおよびその活動を実施するビジネスアナリストの存在を前提にしたプロセスである、といえます。ですからプロセス名は「引き出す(elicit)」ではなく、「収集する(collect)」となります。ビジネスアナリストが要求を引き出し、要求に優先順位をつけ、要求を分析し、要求を検証し、要求を妥当性確認し、要求を文書化した「ビジネス要求」「ステークホルダー要求」などを、プロジェクトマネジメントとして「収集(collect)」し、要求事項文書(アウトプット)としてまとめ上げるプロセスです。要求事項文書はビジネスアナリシス/BABOKでは「要求パッケージ」と称する場合があります。具体的には、BRD(ビジネス要求文書)、SW要求仕様書、プロダクトのロードマップ、RFI/RFP/RFQなどが該当します。

重要なので繰り返します。PMBOKはプロジェクトマネジメントのプロセスのみを対象にしています。プロダクト指向、特に要求に関する部分はビジネスアナリシス/BABOKが担っています。プロジェクトを成功に導くためにビジネスアナリシスが不可欠な主要な理由です。