ビジネスアナリシスの定義
BABOK®ガイドのバージョン3では、ビジネスアナリシスの定義が変わります。
従来の定義を振り返ります。
【BABOK®ガイド V2での定義】
- ビジネスアナリシスは、タスクとテクニックの集まりである。組織の構造とポリシーおよび業務運用についての理解を深め、組織の目的の達成のために役立つソリューションを推進するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニックをまとめて、ビジネスアナリシスと呼ぶ。(BABOKガイドバージョン2日本語版)
日本では、メディアで「経営とITの橋渡しをするビジネスアナリシス」「ビジネスとITの橋渡しをするビジネスアナリシス」と紹介されてきたものです。これが間違いと言うわけではありませんが、時代とともにビジネスアナリシスの考え方も進化してきました。
新しいVer.3の定義は次の通りです。
【BABOK®ガイド V3での定義】(訂正 2014年5月15日)
- ニーズを定義しステークホルダーに価値あるソリューションを推奨することにより、エンタープライズにおける変革を可能にするプラクティス(清水訳)
抽象的な表現なので、なれるまで分かりずらいかもしれません。「ニーズ」、「ステークホルダー」、「価値」、「ソリューション」、「コンテキスト」、「変革」が最も重要なキーワードです。
この6つの重要な基本的用語はBACCM(ビジネス・アナリシス・コア・コンセプト・モデル)とも呼ばれていて、次のように定義されています。
- 【変革(Change)】:組織的に制御された変革(トランスフォーメーション)
- 【ニーズ】:ステークホルダーにとって潜在的価値のある問題、機会、または制約
- 【ソリューション】:コンテキストにおいてニーズを満たす具体的な方法
- 【価値】:コンテキストにおいてステークホルダーにとって重要なもの
- 【ステークホルダー】:変革又はソリューションと関係を持つグループまたは個人
- 【コンテキスト】:環境のなかで変革を包含する部分
新しいビジネスアナリシスの定義とコア・コンセプトモデルは一体となっていることにお気づきでしょうか。数学的な言い方をすると、6変数の連立方程式と思ってください。6つの用語すべてが変数で、互いに影響し合っていて(正式には独立した変数とまでは言えませんが)一つの変数が変われば、他の変数も変化します。
例えば、ステークホルダーが変われば、ニーズは異なり、価値も変わります。ニーズが変わればそれを満たすソリューションが変わり、変革も変わります。変革が変わればコンテキストも変わる。コンテキストが変われば、価値が変わり、別の変革が必要になり、ステークホルダーも変わる....と言う具合です。どこから始めても似たような循環が起きることがわかります。
言い方を変えると、V3におけるビジネスアナリシスはこの6つの基本用語を与えられた場面において適用すること、とも言えます。
漠然としていてつかみどころがないかもしれませんので。具体例を考えてみましょう。
例:ECサイトで本を販売していたアマゾン・ドット・コムが日用品まで販売する。
- 【変革(Change)】:ECサイトの取扱商品を本から日用品にまで拡大する
- 【ニーズ】: 本だけでなく、日用品までWebサイトから購入したい
- 【ソリューション】: ECサイトで日用品まで販売する
- 【価値】:本以外の物も発注後2日以内に届くことが嬉しい
- 【ステークホルダー】:アマゾンで本を購入していた顧客
- 【コンテキスト】:アマゾンのECサイト
ビジネスアナリシスのプラクティスとして簡単なのでわかりやすいと思います。つまり、従来通りのWeb開発(ソフトウェア開発)の例ですが、6つのBACCMで表現してみました。
別の言い方をすると、上記の6変数の連立方程式が成立するプラクティスをビジネスアナリシスと呼ぶわけです。もはやIT(情報技術)だけを対象にしているのではありません。ビジネスアナリシスの対象は大変広いことになりそうです。具体的なことは来週までお待ちください。
左図は このBACCMをビジネスアナリシスのフレームワークとして全体を表現したものです。
この図がパブリックレビュー版で採用されるかどうか、不明ですが、BACCM全体の構造を理解するために有効です。
[図のクリックで拡大表示]