先号では、ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル(BCCM)をご紹介しました。
パブリックレビューが始まります。 いくつかの情報をお知らせします。
パブリックレビューの期間はわずか2か月(7月11日まで)です。その後すべての意見を収集、反映して、正式版の発行を本年末までに行う予定です。ただしレビュー期間中のフィードバックの数により変動の可能性もあります。
5つの視点(Perspectives)
読者の多くはBABOKガイドはビジネスアナリシスの対象が主にITシステムだとお考えではないでしょうか。本来ビジネスアナリシスの適用範囲はもっと広いものです。そこで新しいBABOKガイドV3ではビジネスアナリシスが付加価値を提供できる適用分野を明確に拡張することになりました。視点(Perspectives)と呼ばれるもので、アジャイル開発、ビジネス・インテリジェンス、情報技術(IT)、ビジネス・アーキテクチャ、ビジネス・プロセス・マネジメントの5種類です。
各々の内容を簡単に解説します。
左図は2013年11月にラスベガスで開催されたBBCカンフェレアンスでのKevin Brenann氏のプレゼンの一部です。ビジネスアナリシスそのものの変革(Change)の必要性を示しています。
[図のクリックで拡大表示]
【アジャイル開発】
- スクラム、XP、リーン、カンバンなどが該当します。
非ウォーターフォール系の開発手法です。
【ビジネス・インテリジェンス】
- 意思決定システム
- ビジネスアナリティクス、ビッグ・データなどが該当します。
最近はやりのデータサイエンスとビジネスルールです。
【情報技術(IT)】
- 従来のITソリューション
- 要求エンジニアリング など
従来のビジネスアナリシスの主要な対象分野です。
【ビジネスアーキテクチャ】
- エンタープライズアーキテクチャ
- プロジェクトポートフォリオ管理
- ビジネストランスフォーメーション
- 戦略的計画 など
エンタープライズレベルでのビジネスアナリシスを一括りにしているようです。
【ビジネスプロセス・マネジメント】
- プロセスアーキテクチャ
- プロセスデザイン
- サプライチェーンマネジメント
- ケースマネジメント
- BPMSとワークフロー
- 継続的改善 など
ビジネスアナリシスとは切っても切れない、ビジネスプロセスです。
すごいですね。これだけ広い分野でビジネスアナリシスが付加価値を提供できるのです。実は現行のバージョン2でも、ソリューション・コンポーネントの例として、「ソフトウェア・アプリケーション、Webサービス、ビジネスプロセス、プロセスの動作を決めるビジネスルール、ITアプリケーション、組織改正、アウトソーシング、インソーシング、職務の見直しなどがある。」と書いてありますから、上記に近いことを述べていたわけです。新しいバージョン3ではさらに、最近のビッグデータなどまで考慮に入れて、具体的に明確に示すようになりました。
筆者の感想。
流行のビッグデータが視点の一つに採用されたことは大変良いことです。日本ではビッグデータ花盛りですが、目的が不明のまま手段だけが独り歩きをしている感じがします。目的を明確にするのがビジネスアナリシスとなります。ビジネスアナリシスを行ってから(目的を明確にしてから)ビッグデータを分析して初めて意味のある結果が出せるのです。
バージョン2で外されたビジネスアーキテクチャ(もしくはエンタープライズアーキテクチャ(EA))が復活されたのは興味深いものです。実は、EAはバージョン2のパブリックレビュー版(2008年)まではビジネスアナリシスのタスクの中にあったのですが、正式版で突然に、除外されたものでした。当時、EA(およびビジネスアーキテクチャ)をなぜ外したのかという批判があったのを記憶しています。昨年のBBCカンファレンスでは有名なZachman氏がBusiness Architectureの講演をされていたのを思い出します。
BPMも当然です。従来のビジネスアナリシスでもERPやサプライチェーンは重要な対象分野でした。昨年のBBCカンファレンスでもビジネスプロセスは重要な大きなテーマとして扱われています。
対象分野が広がるのと同時に、アナリシス(分析)という概念も広がります。AnalysisだけでなくDesignまで扱うようになりました。例えば、AsIsのビジネスプロセスを分析すれば、必ずToBeのビジネスプロセスを設計します。今まではこれを広い意味でAnalysisの一部として扱っていたのですが、新しいバージョンでは正式にAnalysisとDesign(分析&設計)と言います。後述の知識エリア/タスクをご覧ください。
以下は新しい知識エリアとタスクの一部です。(清水の試訳です)
3. 知識エリア:ビジネスアナリシスの計画とモニタリング
- ビジネスアナリシスのアプローチを計画する
- ステークホルダーエンゲージメントを計画する
- ビジネスアナリシス情報マネジメントを計画する
- ビジネスアナリシスガバナンスを計画する
- ビジネスアナリシスのパフォーマンス改善を識別する
4. 知識エリア:引き出しとコラボレーション
- 引き出しを準備する
- 引き出しを主導する
- 引き出しの結果を確認する
- ビジネスアナリシス情報を伝達
- ステークホルダーとの協働をマネジメントする
5. 知識エリア:要求のライフサイクルマネジメント
- 要求をトレースする
- 要求を保守する
- 要求の優先順位を付ける
- 要求とソリューションコンポーネントの優先順位を付ける
- 要求変更をアセスメントする
- コンセンサスを得る
6. 知識エリア:ストラテジー・アナリシス
- 現状の状態を分析する
- 将来の状態を記述する
- リスクをアセスメントする
- 変革の戦略を定義する
7. 知識エリア:要求アナリシスと設計定義
- 要求の仕様化とモデリングを行う
- 要求を検証する
- 要求を妥当性確認する
- 要求アーキテクチャを定義する
- ソリューション選択肢を定義する
- 潜在価値を分析しソリューションを推奨する
8. 知識エリア:ソリューションの評価
- ソリューションのパフォーマンスを計測する
- パフォーマンスメジャーを分析する
- ソリューションの限界をアセスメントする
- エンタープライズの限界をアセスメントする
- ソリューション価値を向上するためのアクションを推奨する
続きは次回までお待ちください。