BABOK®ガイド V3(パブリックレビュー版) 第6章 ストラテジーアナリシス

知識エリア【ストラテジーアナリシス】

バージョン2では「エンタープライズアナリシス」という名称でしたが、大幅に見直されています。タスク名も内容も大きく変更されてましたので、注意が必要です。以下試訳です。

  •  知識エリア「ストラテジーアナリシス」は、ビジネスの現状を理解し将来の望ましい状態を定義し、エンタープライズの目標を達成する変革ストラテジーを開発し、変革ストラテジーに本来的なリスクをアセスメントするために使用されるビジネスアナリシスのタスクを記述する。ストラテジーアナリシスのアウトプットは、要求とデザインの分析、および与えられた変革イニシアチブ、あるいは長期計画用のソリューションの識別にコンテキストを与える。ストラテジーアナリシスは多くの場合、新しい変革イニシアチブの出発点で変革の進捗とともに、またより多くの情報が利用可能になるにつれ継続される。戦略的変革はプロジェクトや継続的改善通じ、または探検的変革(その結果によるフィードバックが将来の変革をドライブすること)によってドライブされるかもしれない。
  •  知識エリア「ストラテジーアナリシス」のタスクは総体的である。それらは、変革のビッグピクチャおよびエンタープライズに対するその影響を考慮する。知識エリア「ストラテジーアナリシス」のタスクは、エンタープライズ全体でも、任意のレベルでも、あるいはエンタープライズの任意のコンポーネント上で行なうこともできる。すべての変革は、その大きさに関係なくストラテジーによってドライブされなければならない。それは望ましいゴール、目標に達するためにエンタープライズの能力を適用する、最も有効な方法についての理解である。この知識エリアは、ビジネスアナリシスのストラテジー・革新的な思考をカバーするのと同様に、ステークホルダーに追加の価値のデリバリーを可能にするソリューションの発見または想像もカバーする。
  •  ストラテジーは、対処されるべきニーズと、そのニーズに対処する特定のアプローチを定義する。変革ストラテジーはビジネス・ゴールを達成するために、現状から将来の状態に移るための計画であるが、そのためには以下を理解して表現すること。
    ・現在のエンタープライズの境界、利用可能なリソース、また変革のキャパシティーにおける、現在のエンタープライズの問題または潜在的な機会
    ・将来のエンタープライズの望ましい状態、達成するべきビジネス目標、そして実現される潜在的価値、
    ・現在と将来の状態のギャップ、
    ・将来の望ましい状態を達成するアプローチ、
    ・変革に関連するリスク、
    ・変革の有効性を評価するために使用されるであろうメトリクス。
  •  ストラテジーは、ストラテジー計画、将来のビジネス・アーキテクチャの状態、TO-BEプロセス・モデル、プロダクトビジョン、ビジネスケース、プロダクトロードマップあるいは他の成果物の中で捕らえられるかもしれない。

 

現在の状態と将来の状態、そして変革ストラテジーのサンプルです。イメージをつかみましょう。

現在の状態 将来の状態 変革ストラテジー
既存のソフトウェア・アプリケーションは旧いテクノロジーを使用している。また、保守費用はますます増加 新しい特徴をマーケットに投入する時間を、以前のアプリケーションの60%にする ・COTSアプリケーションを買収する・外部クラウドソリューションに移行する・強化したソフトウェアを内製する
顧客は、注文エラーの多さと、配送時間が長いことに不満 注文配送時間の半減および注文の90%はエラーがないこと ・主要なプロセスのリエンジニアリング・リーン継続改善プログラム・受発注業務のアウトソーシング
企業は売り上げ不足に直面 次の四半期で5%以上の利益マージンにより、黒字に転換 ・コスト削減のためにスタッフを縮小する・増収をドライブするために新市場セグメントに参入する・既存客からの売り上げを増加する新製品およびサービスを導入する
軍用機の破損があまりにも多い 航空機損害費用を年間1000万ドル減少させる ・パイロットにトレーニングを実施する・新しいパイロットおよび地上職員を雇う・航空機製造のために、より弾力性のある材料を購入する

 

次のコンセプトが知識エリア「ストラテジーアナリシス」の中心となります。似た用語(コンセプト)ですが、その違いに注意してください。

  • エンタープライズ: 組織、およびそれらが使用するソリューションは一連の共通のゴールを追求する。ストラテジーアナリシスは、エンタープライズまたはその一部が、現状を評価する場合または、将来の状態を定義する際に、何が適切であるのかを判断するために探検的調査をすることもある。
  •  組織: 共通のゴールおよび目的が明確に定義された境界を持つ共同作用を行う人々のグループ。これは部門、チームあるいは他のグループを指すことができる。ストラテジーアナリシスは、組織のゴールを達成するために将来の望ましい状態および変革ストラテジーを決める際に、組織とそのゴールを決定する。
  •  コンテキスト: 変革のためのセッティングを形成する状況。コンテキストは完全にエンタープライズ(例えば利用可能なリソース)の内部である場合があるが、しばしば外部要素(例えば景気情勢)も含む。

この知識エリア全般の注意事項です。

  • エンタープライズはステークホルダーに価値を届けるために変革する。変革ストラテジーの成果は、エンタープライズの1つ以上の部分を変革するソリューションを完成させる計画だ。ストラテジーアナリシスはエンタープライズのすべてのレベルで生じる。エンタープライズのある視点から生じて、全ビジネスユニット、外部要因あるいは政府機関に関係のある、問題と機会を見ることができる。その場合、ここで記述されるアクティビティはエンタープライズの境界を超えるかもしれない。ストラテジーアナリシスが、恐らく1つの組織単位内の小粒な変革イニシアチブで生じる場合もあるが、その場合はよりハイレベルの戦略と整合しなければならない。

 

V3_Strategy_Task_2014年6月13日

 

左図はバージョン2の「エンタープライズアナリシス」のタスクと新しい「ストラテジーアナリシス」のタスクの違いです。すべてのタスク名が変わっているのみならず、その内容も大きく変化していますのでご注意ください。V3では、

  • AsIsを分析し
  • ToBeを決め
  • リスクを考慮し
  • 変革の戦略を練る

と単純な図式で表すことができるので、理解しやすいのではないでしょうか。

つづいて、この知識エリアのタスクの概説です。

現在の状態を分析する:

  • ビジネスニーズ、およびエンタープライズが現在、ビジネスニーズに関してどう機能するかを理解する。変革のためにベースラインとコンテキストをセットする。

将来の状態を定義する:

  • 変革のためにゴールと目標を設定して、エンタープライズのどの部分がそのゴールと目標を達成するために変革する必要があるか定義する。

リスクをアセスメントする:

  • 変革のまわりの不確実性と我々の知識と理解の限界を理解して、その不確実性が変革によって価値を届ける能力に与える可能性のある影響を考慮する。

 変革ストラテジーを定義する:

  • 現在と将来の状態の間のギャップを分析し、将来の状態の達成に対する選択肢をアセスメントして、途中で必要かもしれないあらゆる移行状態を含む将来の状態に達することのできるベストなアプローチを推奨する。

 

V3_Strategy_DDFD_2014年6月13日

 

 

 

 

 

 

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