【BABOK(R)よもやま話】(その1):ビジネスアナリシス・コア・コンセプト
昨年(2015年)はBABOK(R)v3の日本語化に明け暮れた年、と言っても過言ではなかったような気がします。11月に念願の日本語版が発行された時は感無量の思いでした。v3のパブリック・レビュー版の公開(2014年5月)から数えれば1年半の道のりと言えるもので、多くの仲間(ボランティア)の支援と協力があって完成したものです。個人的コミュニティーでスタートした「V3自由研究会」での議論、その後のBABOK訳語集の作成、正式(英語)版発効後のIIBA日本支部としての公式な翻訳・レビュー活動...。特に翻訳・レビュー活動では多くのボランティアに協力してもらいました。出版関係のノウハウを持たないIIBA日本支部にたいして、多大なノウハウを提供していただいたボランティアの方もいらっしゃいました。
公式な成果物としてはBABOK(R)V3ガイド(日本語版)のみなのですが、正式な書籍がすべてを物語るわけではありません。我々が身に付けた知恵、知見ははるかに大きなものがあります。翻訳・レビュー、自由研究会で得た、納得できた知見の一端をこのメルマガ読者にも共有したいと思います。
しばらく連載でBABOK(R)v3の気になる話題を「BABOK(R)よもやま話」として書いてみようと思います。お付き合いください。
初回は、BACCM(ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル)です。
まず、v3で新しい概念として登場してきたBACCM(ビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル)について解説します。
新しいBABOK(R)v3では、ビジネスアナリシスの業務のコアとなる次の6つの用語をコア・コンセプトと言います。
チェンジ、ニーズ、ソリューション、価値(Value)、ステークホルダー、コンテキスト。
各々次のように定義しています。
- チェンジ:ニーズに対応して変える行為。エンタープライズのパフォーマンスを改善するためのもの。
- ニーズ:対処するべき問題または機会。ニーズがステークホルダーの行動意欲を駆り立てて、チェンジを引き起こすこともあれば、チェンジが、ニーズを生み出すこともある。
- ソリューション:あるコンテキストにおいて、一つ以上のニーズを満たす具体的な方法
- 価値(Value):あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性
- ステークホルダー:チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ
- コンテキスト:チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況。
上記定義を見ると、各々が他のコンセプトを定義していることが分かります。互いに依存しあい、補完し合っている関係ですね。これをグラフィカルに表すと左のような図になります。
コンセプトの物理的位置は何も意味がありません。上にあるチェンジがより重用と言う意味ではありません。どのコンセプトと同様に等しく重要です。
このグラフィカルに表現したものをビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル(BACCM)と言います。そして、ビジネスアナリシスもこれらのコンセプトを用いて次のように定義されます。
「ニーズを定義し、ステークホルダーに価値(Value)あるソリューションを推奨することにより、エンタープライズにおけるチェンジを可能にする専門活動」
ですからこの6つのコンセプトを追求することがビジネスアナリシスの活動には欠かせない、という事です。例えば、読者のみなさんのプロジェクト(または現在のお仕事)において以下の質問を考えてみてください。
ステークホルダー:
- 本当の顧客は誰でしょうか?
- あなたのプロジェクト(お仕事)で誰が喜ぶのですか?
ニーズ:
- その顧客の真のニーズは何でしょうか?
- 何を満たすと顧客はお金を払ってくれるのでしょうか?
価値:
- 顧客に提供できる価値は何でしょうか?
- プロジェクト結果の具体的な目標(売上、利益など)は何でしょうか?
ソリューション:
- 何を通じて価値が提供できるのでしょうか?
チェンジ:
- ステークホルダーはそのソリューションを通じて何を変えるのでしょうか?
コンテキスト:
- そのチェンジが影響を及ぼす範囲は? 社内、社外、国内、海外,...
例えば、読者が企業の情報システム部のエンジニアなら、ビジネスアナリシスは
- 顧客ニーズを定義し、企業利益を飛躍的に向上させるソリューション(具体的なITシステム名)を推奨することにより、企業変革を引き起こすことを可能にする専門活動
となるかもしれません。
また、ITベンダーのエンジニアなら、ビジネスアナリシスは
- 最終顧客(顧客の顧客)のニーズを定義し、顧客企業の利益を飛躍的に向上させるソリューション(具体的なITシステム名)を提案することにより、顧客企業内に変革を引き起こすことを可能にする専門活動
となるかもしれません。
読者個人の場合に当てはめて、定義してみたらいかがでしょうか。ご自分の仕事に何か気づきが得られるかもしれません。
次回はビジネスモデル・キャンバスについて考えてみます。
知識エリア「戦略アナリシス」で推奨されているテクニックです。最近流行の新しいビジネスモデル作成の方法です。お楽しみに。