【BABOK(R) よもやま話】 (3) 「価値」

【BABOK(R)よもやま話】(その3): 価値

「よもやま話」の第1回で、これからのビジネスアナリシス活動の根幹に位置付けられるビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデルの解説をしました。今回は6つのコア・コンセプトの中から、「価値」について考えてみましょう。ビジネスアナリシス活動の最終目標はこの「価値」を実現することであると言っても過言ではありません。筆者個人的には、この「価値」が6つのコア・コンセプトの中でも最も重要ではないかと考えています。

ビジネスアナリシス・コア・コンセプトにおいて「価値」は、次のように定義されています。

価値(Value):

  • あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性

ここでは、ビジネスアナリシスにとって最も重要な2種類ステークホルダーを考える必要があると思います。それはビジネス顧客とビジネスアナリシスのスポンサーです。ビジネス顧客は、そのビジネスが提供する商品・サービスを購入してくれる人たちで、お金を実際に支払ってくれる人たちです。スポンサーは例えばCIO、事業部長、本部長など、企業の経営陣が該当します。

ビジネス顧客に対する値打ち(すなわち価値)は、その人が自分のニーズを満たしたと感じることです。 自分のニーズを満たされたと感じるとその商品(やサービス)の価値を認めてお金を支払ってもらえます。ところが、これはなかなか難しいことがあります。実は「顧客の真のニーズ」はよくわからないものです。顧客本人ですらわからないこともあり、大変やっかいです。例えば、今日お馴染みのスマートフォンですが、10年前にこのような商品が身軽に使えるようになると思っていた人はどのくらいいたでしょうか。ほんの一握りのマニアックな人だけが使うものと思っていた人がほとんどではなかったでしょうか。今日のスマートフォンのビジネス顧客(つまり私たち)は自分の「真のニーズ」を知らなかったのです。このように、自分の真のニーズを知らないビジネス顧客に対して価値を提供することは大変難しい事と言えます。

一方、スポンサーに対する値打ち(価値)は、売上増のような、企業に提供できる価値と言い換えることが可能です。具体的には、企業の売上増、利益増、コスト削減、顧客満足度向上、従業員満足度...。最近では、特に北米の企業経営者は業務の効率上(改善)程度の効果では満足せずに、直接的な企業利益に直接貢献するものにしかIT投資を認めないとも言われています。スマートフォンで言えば、アップル社の企業利益を飛躍的に向上させたことはあまりに有名です。市場価値(株式の時価総額)が世界一とも言われています。

BABOKガイドV3 の知識エリア「戦略アナリシス」(P.97)では次のように記述されています。

  • 「戦略アナリシスは、....(一部省略)...、ステークホルダーのためのより大きな価値の創出や、エンタープライズ自身のためのより多くの価値の収集を可能にするソリューションの発見や想像も含む。」

すなわち、

「ステークホルダー(ビジネス顧客)のためのより大きな価値の創出や、エンタープライズ自身(企業自身)のためのより多くの価値の収集(企業利益の達成)...」と言えます。アップル社はまさにこのことを実現したことになります。

価値スペクトル

つづいて重要な考えとして、「潜在価値と実現価値」があります。左の図は「ビジネスアナリシスの価値のスペクトル」です。運用時に初めて価値が実現することが良くわかります。

潜在価値が大きくなければ実現価値も大きくありません。一番左側にある「潜在価値」の源泉となる「ニーズ」(特に顧客がまだ気が付いていない真のニーズが最も重要)です。「ニーズ」に関しては、次回に取り上げることにしますので少しお待ちください。

 

 

 

 

「ビジネス顧客のためのより大きな価値の創出」はまだ実現していませんから潜在価値になります。その源泉はビジネス顧客がまだ気が付いていない「真のニーズ」(例えば、10年前に私たちが気が付いていなかったスマートフォンを使いたいというニーズ)です。

ここでは、潜在価値を高めておく必要があります。潜在価値を高めておかないと図の右端の実現価値はそれ以上に大きくなりません。どのように潜在価値を高めたらよいのでしょうか。潜在価値を高めるための活動を明確にしているのが、知識エリア「要求アナリシスとデザイン定義」の中のタスクです。そして、BABOKガイドV3では、次のように述べています。

  • 「ビジネスアナリストは、要求とデザインの両方の潜在価値を分析する。そして、実装の専門家と協力して、評価可能なソリューション・デザイン案を定義してから、ニーズを満たし最大の価値を生み出す最適なソリューション選択肢を推奨する。」(BABOK(R)ガイドV3 P.129)

すなわち、潜在価値を最大化することが重要です。

システム開発のプロジェクトの中では「価値」は発生しません。プロジェクトが終了し、カットオーバーした後、運用時において初めて価値が発生します。この運用時に発生する価値が当初(システム開発の開始時)想定していた価値(潜在価値)を実現しているかについて誰が責任を持つのでしょうか。残念ながら、プロジェクトのQCD(品質、コスト、納期)に責任を持つプロジェクト・マネジャーは、企業利益(すなわち実現価値)の貢献にまでの責任がありません。これでよいのでしょうか。大きな疑問がありますね。一体誰が実装したITシステム(ソリューション)が貢献する「実現価値」に責任を持つのでしょうか。

ビジネスアナリシスは、最終的には右端の「実現価値」すなわち実際の価値を実現することを含むようになりました。BABOKガイドV3は、この「実現価値」に責任を持てるような知識体系に生まれ変わったという事です。具体的には知識エリア「ソリューション評価」の中の5つのタスクが該当します。

  • ソリューション・パフォーマンスを測定する:
  • パフォーマンス測定結果を分析する:
  • ソリューションによる限界を評価する:
  • エンタープライズによる限界を評価する:
  • ソリューションの価値を向上させるアクションを推奨する:

そして、BABOKガイドV3では、次のように述べています。

  • 「ソリューション評価」では、実際に提供する価値を分析し、価値の実現を妨げる可能性がある限界を特定し、ソリューションの価値を向上させる推奨を行うタスクについて説明する。(BABOK(R)ガイドV3 P.157)

ビジネスアナリシスにおいて、「価値」がいかに重要であるかがお分かりになったと思います。ビジネスアナリシスのコア・コンセプトになっている理由がうなずけるのではないでしょうか。

次回は、「価値」の源泉とも言うべき「ニーズ」について解説します。「ニーズ」は「価値」に引けを取らずに重要なコンセプトです。

お楽しみに。