【BABOK(R) よもやま話】 (4) 「ニーズ」

【BABOK(R)よもやま話】 (その4) 「ニーズ」

ビジネスアナリシス・コア・コンセプトにおいて「ニーズ」は、次のように定義されています。

ニーズ:

  • 対処すべき問題あるいは機会
  • ニーズがステークホルダーの行動意欲を駆り立てて、チェンジを引き起こすこともあれば、チェンジが、ニーズを生み出すこともある。

 

先週解説した「価値」と、今週の「ニーズ」の関係ですが、ひとは「ニーズ」が満たされると「価値」を感じる。そして価値に見合うお金を支払う。これがビジネスの大原則ですね。ですから、「ニーズ」は「価値」の源泉とも言えます。ではそのニーズは誰のニーズが重要でしょうか。おそらくビジネスの顧客のニーズが最も重要です。「お客様は神様」と言われるゆえんでしょうか。またスポンサーというステークホルダーのニーズも重要ですね。さまざまなステークホルダーにはそれなりのニーズがあります。今週はステークホルダーとしてビジネスの顧客を中心に考えましょう。

簡単なことのようですが、私たちは自分のビジネスの顧客の本当のニーズを知っているのでしょうか。そんなことは当たり前だ、と思っている方が多いかもしれませんが、いざ真面目に答えようとすると、意外によく知らないことに気が付いたりします。筆者は「顧客の真のニーズ、それが簡単に分かれば苦労しない」と思っています。なかなかわからないので、あの手この手と考え、試行錯誤しながらニーズを満たす方法を考えているのです。

逆に、顧客は自分のニーズを明確に認識しているのでしょうか。実はこれも甚だ怪しいものです。意外と自分のニーズに気が付いていないことが良くあります。例えば、最近大変ポピュラーになったスマートフォンですが、10年前にこのような便利なものが使えるようになると思っていた人はどのくらいいるでしょうか。ほとんどの人はこのような物が使えるようになるとは思っていなかったでしょう。アップル社のアイフォンが出現し、サムソンが続き...。私たちは使ってみて初めてその便利さを知ったのです。すなわち私たちのニーズに初めて気が付いたというわけです。

狩野モデル:

東京理科大学名誉教授の狩野紀昭(かのう のりあき)(1940年~ )氏が1980年代に唱えた、3種類のニーズ(もとは品質のモデル)を紹介します。このモデルはKano Modelとして世界的に有名です。

 

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基本的ニーズ(当たり前の品質):上図の緑色の矢印です。

  • このニーズ(品質)が満たされないと、顧客は大変不満を持ちます。しかし、これが満たされていても何も感じません。
  • 顧客は自分からこれが満たされないと不満だ、とも言いません(当たり前だからです)。
  • 不満な顧客は、その不満を別の顧客に話します。

インタビューなどでこのニーズを聴き出せないと致命的な問題が発生する可能性があります。
例えば、自動車を買う時にバックミラーが欲しいというお客はいませんね。当たり前だからです。

 期待のニーズ(一元的品質):上図の真ん中の直線的な黄色の太い矢印です。

  • これについて、顧客は自分から何が必要かを、話してくれます。
  • この機能が欲しい、これが満たされないと困る(不満)、と言ってくれます。

自動車ではボディの色、オーディオなどいろいろ注文する物です。
顧客が自ら自分の好み(ニーズ)を表明するのはこの「期待のニーズ」だけです。
他の2種類のニーズは顧客は口にしません。

喜びのニーズ(魅力的品質)

  • 顧客が気付いていなかった、特別付録です。大変喜んでくれます。
  • 逆にこれが満たされなくても、別に不満に思いません(気付いていないからです)。
  • 喜んだ顧客は、別の顧客に話してくれます。

最近の自動車では、ぶつかる前にブレーキがかかり止まってくれる車が有名です。数年前まで、私たちはこのような車が実現するとは気が付いていませんでした。大人気ですね。

スマートフォンは数年前に、私たちに上記狩野モデルの「喜びのニーズ」を気づかせてくれたと言えるわけです。

特に「喜びのニーズ」が重要なのは、それが大きな価値につながるからです。スマートフォンは社会にイノベーションを起こしたと言っても過言ではないと思います。それは「喜びのニーズ」が大きな価値(イノベーションを起こすほど大きい)の源泉だったと言えるわけです。

ビジネスにおいて、この3種類のニーズを認識する必要があります。そのためBABOK(R) v3では次のように数多くの引き出しのテクニックを紹介しています。

  • インターフェイス分析:
  • インタビュー:
  • 観察:
  • 協働ゲーム:
  • コンセプト・モデリング:
  • 調査やアンケート:
  • データ・マイニング:
  • データ・モデリング:
  • ビジネス・ルール分析:
  • フォーカス・グループ:
  • プロセス分析:
  • プロセス・モデリング:
  • プロトタイピング:
  • 文書分析:
  • ベンチマークと市場分析:
  • マインド・マッピング:
  • ワークショップ:

そして、引き出しの種類として次の3種類を解説しています。

協働型:

  • ステークホルダーとの直接のやり取りを伴う。そのためステークホルダーの経験、専門能力、判断力に依存する。

上記テクニックでは、インタビュー、フォーカス・グループ、ワークショップが該当します。

調査型:

  • チェンジに関与するステークホルダーが直接には認知していない資料または情報源から、情報を体系的に発見し、調査する。ステークホルダーはそれでもやはり調査に参加する可能性がある。調査には、過去データを分析して、動向や過去の結果を特定することも含まれる。

上記テクニックでは、調査やアンケート、データ・マイニングが該当します。さらに、インターフェイス分析、コンセプト・モデリング、データ・モデリング、ビジネス・ルール分析、プロセス分析、プロセス・モデリングも該当します。

実験型:

  • 何らかの管理された試験がなければ知ることのできなかった情報を特定する。ある種の情報は人や文書からでは得ることができない(まだ知られていない情報であるため)。実験はこの種の情報を発見するのに役立つ。実験には、観察研究、概念実証、およびプロトタイプが含まれる。

観察、協働ゲーム、プロトタイピングなどです。

3番目の実験型が重要なのは上記「喜びのニーズ」につながる可能性の高いアプローチだからです。具体的には、観察から相手の気持ちに共感し、そこから問題や課題を定義します。その問題/課題を解決するためのアイデアを創造し、そのアイデアを具体化するプロトタイプを作成し、最後に実験/テストする。というプロセスを繰り返すことです。有名なデザイン思考の5つのステップです。

  1. 共感
  2. 問題定義
  3. 創造(Ideate)
  4. プロトタイプ
  5. 実験/テスト

これらのステップを実行するために重要な要素はビジュアル思考や概念的思考(どちらも基礎コンピテンシーに新たに加わったスキル)です。どちらかと言うと、右脳的発想が重要になります。論理的思考(左脳的)のみならず、システム思考(V2でもありましたが)や直観も等しく大切に扱うというのが、新しいBABOKの考え方と言えるかもしれません。

「ニーズ」だけでもいろいろ考えることがあるものです。コア・コンセプトとして取り上げられたことだけのことはある、と言うものです。

 

次回は同じくコア・コンセプトより「チェンジ」です。