【意思決定の自動化】(1)
「意思決定モデリング」はBABOK v3で新たに取り上げられたテクニックとしても注目されています。BABOKガイド v3をお持ちの方はp.207(日本語版)をご覧ください。なぜ、この聞きなれない新しいテクニックがBABOK v3で取り上げられたのかをひも解いてみたいと思います。
BABOK v3を翻訳・レビューしているときには、この新しいテクニックのことを何も知りませんでした。その重要性に気が付いたのは、出版されたばかりの日本語版BABOKガイド v3をIIBA本部のDirectorたちに見せるために、11月のラスベガスで開催されたBBCカンファレンスに参加したときです。このBBCカンファレンスには2年前にも参加したのですが、その時はRon Ross氏やGladys Lam氏を中心とするビジネス・ルールの話題が多かったものです。もちろんアジャイル開発も大きな流れとしてありましたし、セッションが125もあり、全てを見るわけにはいかないので、自分の興味のある分野を中心にセッションに参加するしか方法がありません。
今年になり、以前はそれほど注目されていなかった意思決定モデル(DMN: Decision Model and Notation)が出始めてきたのです。これは大きな驚きでした。ビジネス・ルールの先には意思決定(の自動化)があることはわかっていたのですが、さまざまなやり方があり、標準化されるのはまだ当分先の話と思っていたので、このように早く実現するとは思ってもいませんでした。それがOMGにより標準化され、すでに複数ベンダーが実装してデモンストレーションまで行っているわけです。日本から遠いラスベガスに来た甲斐があったというものです。
意思決定モデリング(DMN)とは一体なんでしょうか。それは次のようなグラフィカルな表現による、意思決定をモデル化するIT上のエディターです。
構成要素は次の4つの図形と3つの矢印です。
- 四角(長方形)の図形は「意思決定」を表します。
- 丸みの四角は入力される「データ」です。
- 角のかけた四角は「ビジネス知識」で主にビジネスルールで、デシジョン・テーブルや、ディシジョン・ツリーです。入力がビッグデータの場合はアナリティクス・モデルが該当します)
- 「知識源」はビジネス知識のもとで、その根拠(拠り所)となる法律、業務方針、書籍、エキスパート(人)の知識、などがあります。
3つの矢印は、何を要求しているかを表します。
- 情報要求(実線の矢印)はインプットデータや下位の意思決定のアウトプット(データや情報)を要求します。
- 知識要求(点線の矢印):業務上の意思決定はビジネス知識(ビジネス・ルールがその典型)を要求します。
- 権限要求(丸点の点線):ビジネス知識はその拠り所として権限を要求します。
見た目にはこれだけのことなのですが、このグラフィカルなエディターを使い意思決定をモデル化すると、その裏でXMLが動作しBRMS(ビジネスルール・マネジメント・システム)やBPMS(ビジネスプロセス・マネジメント・システム)と自動的にリンクされる仕組みになっています。ビジネスプロセスは標準化されたBPMN(ビジネスプロセス・モデリング表記法)と整合するように設計されていて、ゲートウェイという判断のアイコンにリンクしますから、ビジネスプロセスから意思決定を完全に分離することができます。従来ビジネスプロセスを複雑化していた大きな要因は実は意思決定だったのです。意思決定がプロセスから分離されると、プロセスは大幅に単純化されることが多いのです。
図は単純化されたプロセスを示しています。左側のプロセス図(BPMN表記)の中のひし形がゲートウェイです。
この意思決定が自動化されると大変大きなメリットが得られると思います。現在は保険金請求の審査業務の自動化が話題になっています。審査業務の担当者が大幅に削減されることが予想されていますが、活用範囲はそれだけにとどまりません。
いま話題のIOTの実現には不可欠な要素として注目されることになると思います。あらゆるものがインターネットにつながるようになりましたが、モノからセンサーを通じてデータが大量に取れたとしても、それを人間が見て判断していてはビジネスになりません。この意思決定プロセスが不可欠なのです。人の介在なしに意思決定され、プロセスが自動的に実行されてこそ初めて新しいビジネス、新しいサービスの実現が可能になります。IOTとビッグデータの応用こそこの意思決定モデルが威力を発揮するところです。
AI(人工知能)を待つまでもなく、現在の意思決定モデルとビジネスルール・マネジメント・システムさえあれば、大きなビジネスチャンスが生まれる可能性が出てきたと言えます。