プロジェクト前 (その3)
知識エリア【戦略アナリシス】(続き)
前回までで、「現状分析」と「将来状態」が決まりましたので、その移行を含めたチェンジを実行する計画を策定するのが「チェンジ戦略を策定する」タスクです。ただその前にリスクをアセスメントしようというわけです。こう書くと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、大きな意味がありますので解説します。
実は、以前のBABOKはリスクにあまり重きを置いていませんでした。「ビジネスケースを定義する」というタスクの中の要素の一つでしかなかったのです。それが今度のバージョン3では、独立したタスクとして扱われるようになったのです。これは大きな変化と言えます。
【リスクをアセスメントする】:
チェンジの周辺にある不確実性を把握し、それらの不確実性がチェンジを通して価値の提供に与える影響を検討し、必要に応じてリスクへの対処を推奨します。
【チェンジ戦略を定義する】:
現状と将来状態との間のギャップを分析し、将来状態を達成するための実現案を評価し、、将来状態に到達するための最も価値の高いアプローチとその過程の移行状態を推奨します。
【現状】【将来状態】【リスク】【チェンジ戦略】の4つのタスクの相互の関係が極めて重要です。いくつかのケース(パターン)を説明します。6つありますが、これが全てというわけではありませんのでご注意ください。
【ケース1】:もっとも単純なパターンです。リスクが少ない(小さい)場合
チェンジ戦略は現状と将来状態を直線的に結ぶ計画になります。一昔前の中期計画と言われていたものも該当します。今でも公共系ビジネスなど、環境変化が少ないビジネスでは有効です。ロードマップとして、1年後、2年後...5年後の姿を絵にすることができます。従来型のウォーターフォール型のPDCAが最も適したビジネスモデルです。途中では主にビジネス改善が実践されます。ITサービスマネジメントの継続的改善もこのパターンに分類されます。
【ケース2】:現状と将来状態の間に大きなリスクが想定される場合
よくあるパターンはそのリスクを避けるためにチェンジを数回実行します。これもウォーターフォールとPDCAサイクルがまだ有効です。チェンジ1の実行後に再度将来状態をレビューし、問題がないことを確認してからチェンジ2を実行し将来状態までたどり着きます。中期計画、ロードマップ、継続的改善の一部と言えます。
【ケース3】:ビジネスの周りにリスクが多く想定される場合ですが、まだ将来状態は明確にすることができるケース
多くのリスクを避けるために最初のチェンジは小さなチェンジからスタートします。つぎに環境分析とリスクアセスメントを行い、再度リスクを避ける小さなチェンジを繰り返し実行しながら将来状態に徐々にたどり着くパターンです。小さなチェンジのためにはアジャイル開発も必要になるかもしれません。
【ケース4】:リスクがあまりにも多く、将来状態が定義できないケース
とりあえず、リスクを避けて小さなチェンジを実行し、環境分析とリスクアセスメントにより小さなチェンジを何回か繰り返します。将来状態はどこにたどり着くか未定のままのビジネスになります。言い換えるとチェンジと将来状態の区別がつかないパターンです。大きな将来像が描けませんから大きな投資は期待できません。Webビジネス、ゲームなど最近のビジネスはこのパターンが多いようです。開発スタイルは当然、アジャイルがメインです。
【ケース5】:目の前のリスクを果敢に取りに行きますが、失敗しビジネスチェンジを断念するパターン
早めに失敗することが重要です。別のビジネスイニシアチブに投資できる余裕を残します。組織文化が極めて重要です。失敗から学ぶことを尊いと考える文化です。アジャイル開発ができなければ実現できないでしょう。
【ケース6】:多くのリスクがある中、環境分析を注意深く行いながら果敢にリスクをとりに行き成功するパターン
再度環境分析とリスクアセスメントをし、再度リスクを取ることに成功し、大きな成果を得るパターンです。これが本当のビジネスイノベーションと言えます。アップル社のiPhoneなどのビジネスが該当します。このケースも組織文化が極めて重要です。
BABOKの「戦略アナリシス」は上のどのケース(パターン)でも対象としています(パターンは6つとは限りません。派生、組み合わせを考えるといくらでもありえます)。読者の皆様のビジネスではどのパターンが有効でしょうか。それに合わせて、4つのタスク「現状を分析する」「将来状態を定義する」「リスクをアセスメントする」「チェンジ戦略を策定する」を組み立ててみてはいかがでしょうか。