【意思決定マネジメント】 (2)

前回の続きで、意思決定モデリングの解説です。

1.  意思決定モデリング

これから解説する意思決定モデリングは、意思決定がどのように行われるべきかを正確に検証可能なモデルとして表現してくれます。そのため意思決定が明確にかつ広く理解され、管理されて効果的に使用されるようになりますから、公式化することができます。さらに、意思決定モデリングは、組織の意思決定の文書化を支援してくれますので、一貫性を保つことができ、時間をかけて改善することができますから、適切に自動化することまでできます。

意思決定は、意思決定をその構成要素または部分的意思決定に分解されることがあります。 それには、意思決定のために利用可能な情報(入力データ)と、意思決定の方法を決めるための知識(ビジネス知識)の観点から、各意思決定の要求をモデル化しておく必要があります。

Sub_Decision_2017年2月8日

ちょうど、ビジネスプロセスが階層構造をし、サブプロセスに分解されるのと似ています。

意思決定は組織の業務運用の中核をなすものであるため、意思決定のためのビジネスコンテキストのモデリングも含まれます。

企業の業務上の意思決定は、モデリングを使用すれば正確に文書化でき、通達でき、そしてレビューすることができますから、まさに有形資産に値します。ですから意思決定を文書化することは大変重要なことです。

2. 意思決定マネジメント

 James Taylor(意思決定マネジメントの第一人者です)の「意思決定マネジメントのマニフェスト」の一部を紹介します。

1 意思決定ファースト

1.1 意思決定(特に業務上の意思決定)は、組織上の評価基準と目標を業務システムと連携すべきである。

その通りですね。業務上の意思決定はそのこと自体が組織の戦略、戦術、評価基準や目標と強く関連していなければいけません。

1.2 意思決定は、ビジネスプロセスやデータのように第一級のオブジェクトであり、ビジネスアーキテクチャーの一部としてのビジネス用語で、特定、記述、モデル化、レビュー、 マネジメントされるべきである。

 今まで、私たちは意思決定について無頓着だったかもしれません。組織で扱うデータ(顧客情報、製品情報、部品データ)はデータモデルなどでしっかり管理されていたかもしれません。またサプライチェーンなどの業務プロセスはプロセスモデルで管理されている組織が多いのではないでしょうか。最近はビジネスルールを管理することが普及しつつあります。そのためBRMS(ビジネスルール・マネジメント・システム)がもてはやらされつつあります。ビジネスルールをプロセスから分離し、管理することにより、環境変化に対応するためにはビジネスルールのみを変更し、プロセスの変更は最小限度にすましておくというアプローチで、金融、保険業界などでもてはやらされています。

はたして意思決定はどうでしょうか。日常の意思決定はプロセスの中に隠れてしまい、明確に管理されているとはいいがたいのではないでしょうか。それはそもそも意思決定そのものをモデル化するという発想が乏しかったからだと思います。

 考えてみれば業務上の意思決定が重要なことは当たり前のことですが、そのことにあまり焦点が当てられていなかったのは意思決定の管理方法が見つからなかったからではないでしょうか。それがごく最近モデル化することが可能になった(OMGにより標準化された)ため、にわかに注目されてきています。もし、プロセスやデータと同様にうまくモデル化できるのなら、その立場は一変しそうです。それは顧客のニーズに対応するきめ細やかなサービスの実現に近づくことを意味し、その結果企業の業績に直接反映しそうだからでしょう。もしそうだとすれば、ビジネスプロセスやデータと同様にしっかり管理するべき価値があり、まさに第一級のオブジェクトとして取り扱う意味が出てきます。

1.3 意思決定は、ビジネスルールやアナリティクスをどのように使用するかを検討する前に、まず、モデル化されるべきである。

ビジネスルールは必要ですが、ある意味、意思決定の手段と考えることが可能です。そうならば、ルールを抽出する前に、意思決定をモデル化し、意思決定に必要なルールを抽出すればよいと考えることができます。立場が逆転することです。

アナリティクスも同様です。後ほど解説しますが、アナリティクスも意思決定の手段として考えることができます。最適な意思決定モデルを作成するためには多くの入力データを分析し最適なビジネスルールを作成し、最適な意思決定につなぎます。

 1.4 意思決定は、ビジネスプロセスを支援し、イベントへの対応をサポートするが、プロセスやイベントのいずれかにも包含されず、プロセス上の表現やマネジメントをシンプルにするものである。

 最近、ビジネスプロセスを複雑にしている大きな要因は実は意思決定がプロセスの中に紛れ込んでいることが多いことが判明しています。

OMG_DMNモデル1_2017年2月17日

前回、解説したように意思決定はプロセスの特殊な形態としてモデリングすることができますが、いわゆるプロセスモデルとはすこし異なります。そのためビジネスプロセスのモデリングツール(例えばBPMNモデリングのツール)では意思決定をモデリングすることはできません。ですからビジネスプロセスのモデリングとは別のツールを用いて意思決定をモデリングする必要があります。またそうすることにより、プロセス側の複雑さは極めて軽減されることになります。左図の左側がプロセスモデル(BPMN表記)です。右側が意思決定モデルです。

意思決定もプロセスやイベントに近いものですが、意思決定をモデリングすることにより、プロセスやイベントから独立させれば、プロセスはきわめてシンプルになり、マネジメントしやすくなります。

1.5 ビジネス、IT、アナリティクスの各専門家すべては、意思決定を特定、記述、モデリング、レビュー及びマネジメントの役割を担うべきである。

上記のことを実現するためには各専門家が協力し合うことが極めて重要です。まさに「意思決定ファースト」ということが分かります。 特に意思決定をモデリングするのはビジネスアナリストの役割ということがOMGのDMN標準に明記されています。ビジネスアナリシスの最新動向として注目されていることを強調しておきます。

これからのビジネスアナリストは意思決定モデルを扱えなければいけなくなりそうです。BABOK v3のテクニックに意思決定モデリング(10.2 日本語版P.207)が採用されていることに注目してください。

 「意思決定マネジメントのマニフェスト」に関するホワイトペーパーです。

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筆者も翻訳に関わりましたので、ご紹介します。

ご覧いただければ幸いです。