デジタル・ビジネスアナリシス(略してデジタルBA)基礎(1)
デジタルビジネスを実現するための、BABOKガイドV3の活用方法について、具体例を交えて解説していきます。BABOK以外にもデジタルBAとして不可欠のビジネスプロセス、ビジネスルール、意思決定、ビジネスアジリティ、そしてBABOKアジャイル拡張について解説していきます。
目次案
1.デジタルBAにおける「戦略アナリシス」
- BABOKの知識エリア「戦略アナリシス」をデジタルビジネス変革用にアレンジし、ビジネスモデル・キャンバスからエンタープライズアーキテクチャを定義していく。
- ビジネスモデルの変革をエンタープライズ・アーキテクチャの変革に翻訳し、チェンジ戦略を策定していく。
2. デジタルビジネスにおける「要求アナリシスとデザイン定義」
- ビジネス変革を拡張されたビジネスプロセス(ビジネスルールを含む)で表現する
- ビジネスのコンセプトモデルを理解する
- 意思決定モデルの重要性(特にデジタルビジネスおいて)を理解する
3. ビジネスアジリティ・マニフェストの解説
4. デジタルBAにおける「引き出しとコラボレーション」
5. デジタルBAにおける「アジャイルBABOK」の解説
1.デジタルビジネスにおける「戦略アナリシス」
まず知識エリア「戦略アナリシス」の全体像です。
次の4つのタスクがあります。
- 現状を分析する
- 将来状態を定義する
- リスクをアセスメントする
- チェンジ戦略を策定する
タスク:現状を分析する
現状を分析するタスクでは、エンタープライズの内部と外部の影響要因を分析します。
内部要因:
- 組織構造と組織文化(Who、Where)
- 能力とプロセス (How、When)
- テクノロジー・インフラ
- ポリシー・ルール(Why)
- ビジネス・アーキテクチャ
- 内部資産(What)
5W1H(What/Who/Where/How/When/Why)に整理すると下図のようになり、エンタープライズ・アーキテクチャ(略式)になることが分かります。デジタルビジネスを考える場合、この観点は極めて重要です。
外部要因
- 業界構造
- 競合他社
- 顧客動向
- サプライヤー
- 政治
- 経済/社会
- テクノロジー
外部要因はマイケル・ポーターのファイブフォース分析とPEST(Politics:政治、Economy:経済、Society:社会、Technology:テクノロジー)分析をベースにしています。
デジタルビジネスにおいて最も重要なものはビジネスモデルです。BABOKガイドV3ではテクニックとしてビジネスモデル・キャンバスを採用しているので活用しましょう。
例題として、医療保険のビジネスモデルを考えてみます。通常の医療保険のビジネスモデルをキャンバスで表してみると次のようになります。
殆どの読者は医療保険に加入していると思いますから、このビジネスモデルを理解することは極めて容易ではないでしょうか。
- 顧客セグメント: 契約者(健康な人)
- 価値提案: 安心した生活が保障される
- チャネル: 代理店、営業支社、TVコマーシャル...
- 顧客との関係: 対面、非対面、書面(給付金請求の場合)
- 収益の流れ: 保険料収入、運用収益、など
- リソース: 営業社員、保険査定人、ドクター、商品企画
- 主要活動: 保険料設定、特約設定
- パートナー: 代理店、オペレータ、医療機関、ITベンダー
- コスト構造:
図からわかるように、顧客セグメントは契約者で基本的に健康な人を対象にしています。価値提案は契約者に「安心した生活が保障」されることで、わかりやすい医療保険を提案することや、充実した保証を提案すること(その他もあります)です。チャネルは代理店や営業支社などですが、TVコマーシャルも忘れてはいけません。その他の要素はご覧の通りです。
この医療保険の現状のビジネスモデルを先ほどのBABOKガイドの「現状を分析する」タスクの内部要因と外部要因のモデル(すなわち略式のエンタープライズアーキテクチャ)と対比して考えてみましょう。
例えば、顧客セグメントの「契約者(健康な人)」は外部影響要因の「顧客」に対応することが分かります。では、価値提案の「安心した生活、充実した保障...」はどうでしょうか。考えにくければ、価値提案を変更するには5W1Hのどこを変更すればよいのかを考えてみてください。そうすると「能力、プロセス」を変更することが価値提案を変更することにつながることが理解できます。
そうすると、ビジネスモデル・キャンバスで表現したキャンバスの各要素をエンタープライズアーキテクチャ各要素にマッピングすることが可能で、次の図のようになります。
必ずしも1対1に対応するとは限りません。例えば「収益の流れ」に相当する「保険料収入」や「運用差益」を変更するためにはプロセスの変更のみならずポリシーやルールの変更も伴うことが多いものです。またチャネルの「代理店・営業支社」を変更するためには「プロセス」のみならず「組織構造」も変更する必要があるかもしれません。
さあ、次回はこの医療保険のビジネスモデルをデジタルビジネスに変革していく事を考えていきます。
次回までお待ちください。