デジタル・ビジネスアナリシス 基礎 (2)
1. デジタルビジネスにおける「戦略アナリシス」(続き)
ビジネスモデルの変革をエンタープライズ・アーキテクチャの変革に翻訳する
前述の医療保険のビジネスモデルを変革するために、ビジネスアナリシスの最新のテクニックを採用します。それは以前メルマガでも紹介した「意思決定モデリング(DMN)」です。
「意思決定モデリング(DMN)」についてはすでに下記Webページで解説してありますので、参照ください。
この最新の意思決定モデルを使用すると、モデル化により従来不可能だったより複雑な意思決定が正しく正確に定義することができるので、医療保険の複雑な査定を人が行うより正確にできるようになります。さらに、アナリティクス技術と組み合わせれば、意思決定の結果を「ビジネス知識モデル」(これを基に意思決定が行われるビジネスルール)にフィードバックすることができ、より精度の高い判定ルールを作成することができますので、従来保険に入れなかった弱者(病気持ちの人や、高齢者)まで加入できる可能性が広がります。なおかつ、判定結果をビジネスプロセス(例:BPMS)に渡すことができるので、医療保険の給付金が即日に自動的に支払うことまで可能になります。言ってみればリアルタイム保険が実現される可能性を秘めているということです。当然ながら、現在多くの人手を介している査定業務の大幅な削減が可能になります。しかも高価な人工知能(AI)はまだ使用していません。将来的にはAIとも組み合わせることももちろん可能です。
まとめると、最新のビジネスアナリシスのテクニック「意思決定モデリング」は次のことを可能にしてくれます。
- 保険の査定業務(意思決定のかたまり)のほとんどが自動化され、査定業務の大幅削減
- リアルタイムで査定が決定し、支払い/請求業務まで自動化されるので、保険の概念そのものが変わりうる(リアルタイム保険?)
- モデリングによるきめ細かな条件設定により、従来加入できなかった人でも医療保険に加入できる
では、医療保険のビジネスモデルはどう変わるでしょうか。
新医療保険のビジネスモデルの例です。
ビジネスモデル・キャンバスの各要素は次のようになります。
- この場合、まずキャンバス上で変わるのは価値提案です。新たなサービスが登場することも可能です。医療保険の申込みに対しても素早く簡単に保険に加入できますし、給付金は請求とほとんど同時に支払われます。査定業務が抜本的に削減されますから保険料も安くできます。リアルタイムに給付金が支払われるなら、医療機関への支払いを代行するサービスまで提案できるかもしれません。そうなれば、医療機関に行くのに現金を持ち合わせなくてもよいかもしれませんので、今まで加入していなかった若年層にも加入してもらえるチャンスになるかもしれません...
- 顧客セグメントもシフトしていきます。従来一定年齢以上の健常者が対象だったかもしれませんが、若年向けの医療保険なら新しい顧客セグメントが増えます。
- ここでは、デジタルビジネスをテーマにしますので話を単純化し、若者向けの医療保険を考えましょう。他の顧客セグメント(例:今まで医療保険に加入できなかった病気持ちの年配者、など)も本当は大切なのですが、筆者が追求する立場ではありませんので。
- 若者向けのチャネルは当然ながら、LINEやWebサイトということになるでしょう(当然デジタルです)。顧客との関係は対面は多くなく、非対面で行われることになるでしょう。保険の窓口に出向く若者は考えづらいところです。
- 収益構造は、顧客セグメントが増えますから、保険料収入も増えるでしょう。運用差益は相変わらずです。
- リソースの変化も大きいものがあるでしょう。査定業務の担当者が大幅に減りますし、オンラインで契約が増えますから人的販売の担当者も減るでしょう。代わりに商品企画の担当者が増加することになりそうです。意思決定をモデル化する人材(ビジネスアナリスト)も必要です。
- 主要活動は従来の対面営業活動は減少し、IT開発がより多く必要になるでしょう。
- パートナーとしては、従来通りの医療機関に加えてオンラインのオペレータやITベンダーが増えますね。データを多く扱うのでデータサイエンティストも重要になります。
- コスト構造も大きく変化します。一番大きく変わるのは当然査定コストですが大幅減です。代理店も減るでしょうから手数料も減少します。無駄な支払いをしなくて済みますから給付金の支払いも減少するでしょう。全体としての経費が大幅に減少になります。
- 結論として、収益が増えコストが減少するので、この新しいビジネスモデルはうまくいきそうです。
では、このビジネスモデルを実行に移すためにはどうすればよいのでしょうか。ビジネスアナリシスのBABOKで考えていきます。
現状を分析(ビジネスモデル・キャンバスでビジネスモデルを考慮)した結果、若年層向けのリアルタイム保険(仮称)が具体的ビジネス要求としてまとまってきました。
戦略アナリシスを進めていきます。2番目は「将来状態を定義する」タスクです。
この将来状態の5W1Hに先ほどのビジネスモデル・キャンバスの要素を当てはめて考えていきます。
例えば、価値提案にあった「若者向け短期間保険」や「支払い代行サービス」は能力・プロセスに大きく関係します。ポリシー(Why)もそれなりに変革しなければならないでしょう。などなど。関連する要素にマッピングしてみると下図のようになります。
上図のピンクの部分はデジタルビジネスで実現できることがお分かりになるでしょうか。
でも、なぜビジネスモデル・キャンバス上の変革をエンタープライズ・アーキテクチャの変革に翻訳する必要があるのでしょうか。
少し考えてみていただきたいところです。この連載のポイントです。解答は後ほど。