デジタル・ビジネスアナリシス 基礎 (その6)

ビジネスアジリティ・マニフェスト 解説(1)

協働作者の一人、ロン・ロス氏のサイトにマニフェストに関するいくつかの質問に3名が回答しています。マニフェストを書きあげた背景を知るうえで役に立ちますので紹介します。

ビジネスアジリティ・マニフェスト日本語版はこちらです

 質問:なぜこのマニフェストを書いたのでしょうか。

ロン・ロスの回答を紹介します。

  • (a)ビジネス知識の深い複雑さ、(b)限られた欠陥のある人類の記憶、(c)ビジネスの変化の速度、を考慮すると、変革、イノベーション、ソフトウェア開発に関する今日の大きな問題がある。業務の専門家、ビジネスアナリスト、およびソフトウェア開発者は、ビジネス知識を正確かつ完全に記憶する能力を持っているのだろうか? また、答えが必要なときにいつでも利用できるようになっているのだろうか? いや、そうはなっていない! 我々は、ビジネス知識をソフトウェアから外部化し、暗黙知ではなく形式知にする必要があると考えている。

ここでのキーワードは「ビジネス知識」です。 マニフェストのコア・コンセプト定義によれば、

  • ビジネス知識: ビジネス・コンセプト,それらの系統的なつながり,およびビジネスの存在が依拠するビジネスルールの総体

平たく言えばロン・ロス氏が専門とするビジネスルール全体を主にさしています。そしてソフトウェアの開発するときにビジネスルールをソフトウェア・コードとは別出しにして(暗黙知ではなく形式知として)管理することが重要ということを述べているわけです。ビジネス知識(主にビジネスルール)が複雑になり、ビジネスの変化に応じてルールをダイナミックに変えても、人間の記憶の限界で管理しきれなくなると、イノベーションには対応しきれないわけです。ソフトウェアにルールを埋め込んでしまうと、その変更は時間と労力がかかり、外部変化に対応することもできなくなります。人間の記憶に頼れる範囲ではなくなっていることを危惧しているようです。

ロジャー・バールトン氏の回答を紹介します。

  • 今まで真実であることは決してなかった。 通常、他の誇張された技術やプラクティスに気を取られてしまい、それ自体がすべて無駄になってしまう。 何がうまくいくかを見ると、クライアントサーバー技術、クラウド、BPR、データ品質、インターネット、権限のあるチーム、またはアジャイルなソフトウェア開発ではないことがわかった。 これらはすべて価値があったが、それ自体では、より本質的な、包括的なアプローチを必要とする多次元の複雑な課題として扱うには不十分だ。 私たちは今、この言葉(アジリティ)を手に入れて、流行している考え方を変えたいと思っていた。

インターネット、クラウドなど個々の技術はそれなりに役に立っても全体としてまだ不十分だったので、ビジネスアジリティとして全体をまとめる概念を作りたいということです。

質問:なぜ今なのか。マニフェストを書くタイミングとして。

ロン・ロスの回答:

  • ビジネスエコシステムの変化のペースは、突然単に緩和されない。混乱は広く、組織のすべてに影響を与える。組織はそれを間違ったり遅くしたりする時間がない。ソフトウェアの方法だけでは解決できない。

ロジャー・バールトン氏の回答:

  • 現代は知識経済(Knowledge economy)に突入したと信じている。それが起こった時を正確に特定するのは難しいが、デジタル思考、ボット、機械学習の出現は明らかに新しい時代を告げている。しかし、考え方とテクニックを調整できていない。私たちがやった時、あるいは変革とイノベーションの速さが急速に我々の組織を損なうだろう。現在の方法は単にクイックサンドに基づいている

質問: ビジネスアジリティとは何でしょうか。

ロジャー・バールトン氏の回答:

  • ビジネスアジリティとは、変革された製品やサービスを使用してビジネスエコシステムの変革を効果的かつ迅速に予測し対応する機能であり、ビジネス市場での関連性を維持するためのリソースをサポートするもの。

ロン・ロス氏の回答:

  • 私は、ビジネス知識を資産として維持し、保護するためのインフラストラクチャーの構築において、物事を一定の方法で取り上げる ビジネスの緊急の資産として、ビジネスアジリティを説明する

ザックマン氏の回答:

  • ビジネスアジリティは、市場や規制当局などの外部からの要求に応じて、企業の特性をダイナミックに変革する能力である。必然的に変化させなければならない特性には、投資、文化、価値観、政策、手順、など構造的特徴を含む現在の業務が依存する慣性、そしてインベントリ、プロセス、場所、責任、タイミング、動機などである

ここで三人三様のアジリティに関する考え方が出てきます。ビジネスプロセスのロジャー・バールトン氏は「ビジネスエコシステムの変革を効果的かつ迅速に予測し対応する機能」、ここでビジネスエコシステムは拡張されたバリューチェーンを意味します。ビジネスルールのロン・ロス氏はやはりビジネスルールをベースとした「ビジネス知識」に焦点を当てています。ザックマン氏はわかりにくいかもしれませんが最後のフレーズ「インベントリ(What)、プロセス(How)、場所(Where)、責任(Who)、タイミング(When)、モチベーション(Why)」がザックマン・フレームワークの5W1Hを意味し、これらの5W1Hの基本セルを外部変化(要求)に応じてダイナミックに変革する能力ととらえています。

 

質問:ビジネスアジリティ・マニフェストはどのようなソリューションを提案するのか?

ロジャー・バールトン氏の回答:

  • マニフェストは、あらゆる変革に毎回ゼロから始まり、冗長性、重複性、低品質、完全性の欠如を作成していた問題に対処する。
  • マニフェストがないと、これまでの取り組みを活用したり、変革されたアイテムが他のアイテムに与える影響を知ることは不可能である。 そして、意図しない結果が発生し、事態が悪化したときにビジネスオペレーションのすべてを再調整するために驚異的な努力が必要だ。

マニフェストにのっとっていないとこのような大きな被害に会うことを警告していますね。

ロン・ロス氏の回答:

  • 私はマニフェストが強調している次の4つのソリューションを提案する。
  • まず、要求開発やソフトウェア開発で重要なものだけでなく、あらゆる種類のビジネスコミュニケーションにおける精度と曖昧さを解決するコンセプト・モデルである。ビジネス知識は非常に複雑だ。それを正確に表現できるようになるまで、誤ったコミュニケーションと誤解の世界、つまり文字通りバベルの塔に運ばれてしまう。包括的で、活動的で、意味論的に豊富なビジネス用語集は、知識の時代には欠かせないものである。顧客やソフトウェア開発者は、正確にコミュニケーションできないものを補うことはできない。立ち戻ってこの問題を包括的に見るまで、ゾウの実際の大きさを把握するのは難しい。
  • 第二に、ビジネスルール。技術的なビジネスルールを意味するわけではない – それは暴言だ。ビジネス・ルール – ビジネスのすべての関係者が使用するために表現されたルールを意味する。
  • 第三に、バリューチェーン。エンドツーエンドのバリューチェーン・モデルは、真の顧客中心性を達成するために必要な視点を提供してくれる。小規模な、サイロ指向の、またはチャネル固有のソリューションに対する財務とその他のリソースの浪費を回避する手段を提供する。
  • 最後に、これは最終的に、ビジネス知識ベース内の明確なビジネス知識であるマニフェストの中心的なものである。ビジネス知識は、信頼性、永続性、および追跡可能な単一の真実の源であるコンセプト・モデル、ビジネスルール、バリューチェーンなどを包含する。知識の時代では、企業は企業のメモリーにいかなるギャップを認めるわけにはいかない。

この4項目がロン・ロス氏が声を大きくするビジネスルールを中心にしたビジネス知識がマニフェストに貢献している部分です。次回にマニフェストのどの部分に相当するか解説します。

ザックマン氏の回答:

  • マニフェストでは、リスク軽減、管理のためにリソースを配分し、プロジェクトを開始し、知識を蓄積し、公式化するために、緩和のためのリソース要求の優先順位付けと評価を行うために、致命的な障害リスクの網羅的なリストを全体的に検討することを提案している。
  • 意図的な行動が取られなければ、企業のビジネスは俊敏ではなく、知識の時代において生存確率はゼロまで低くなってしまう。

 

まだ続きますが、今週はこのくらいにしておきましょう。

次回以降、マニフェストそのものの内容に関して解説していきます。

 

原文は下記URLのWebページを参照ください。

http://www.brcommunity.com/articles.php?id=b944