デジタル・ビジネスアナリシス 基礎 (その7)

ビジネスアジリティ・マニフェストの解説1

 

日本語版を参照ください。→ ビジネスアジリティ・マニフェスト

I. 絶え間なく続く変革

 1.ビジネスアジリティ実現のためには絶え間ないイノベーションと急速な変革に対応しなくてはいけない。

その通りですね。イノベーションと変革に対応するためにビジネスアジリティが不可欠です。

2.既存のビジネスは,継続的に進化する外部エコシステムにおいて,ビジネスの妥当性を維持するために継続的に変革されなければならない。

外部エコシステムが進化しますから、既存のビジネスも変革しないとその妥当性(正当な利益を出すこと)が継続しません。ビジネスも変革が求められています。

 3. 絶え間なく続く変化は避けられないが,既存のバリューチェーンが変革中に不要なリスクにさらされないように,変革しなければならない。

重要なのは既存のビジネスはしっかり守らなければいけないのです。新規ビジネスのために従来のビジネスが犠牲になってはいけません。ベンチャー企業のようなゼロから始めるスタートアップではありませんから、既存のバリューチェーンへのマイナスの影響を避けるべきです。

ここで著者の一人、ロジャー・バールトン氏が得意とするバリューチェーンが出てきます。バリューチェーンは多くの場合、ビジネスプロセスで表現されます。そのビジネスプロセスを新規ビジネスのビジネスプロセスと互いに矛盾することなく整合させることの重要性をうたっています。具体的なやり方は後半に出てきます。

4. 絶え間なく続く変革は,その影響,特に意図しない結果を予測し緩和するためのビジネス知識ベースに依存する。

ビジネス知識とは何でしょうか。あとから出てきますが、重要なのはビジネスルールです。この分野はロン・ロス氏が最も得意とする分野です。上記バリューチェーンはビジネスプロセスで表現されることが一般的ですが、そのビジネスプロセスからビジネスルールを切り離して管理することが重要です。ビジネスプロセスを変えなくても、ビジネスルールを変えるだけで実現できる変革が多いものです。例えば、毎月のように新プランが発表されるスマホ(携帯電話)の料金プラン。学割、家族割、--割、という割引プラン。これらのサービスは料金プランというプロセスに付加されているビジネスルールだけが、変更されているわけです。おおもとのビジネスプロセスそのものは何も変わっていませんね。

またテレビコマーシャルで毎日謳われる生命保険、損害保険の新しいサービスも同様です。特定年代に有利な自動車保険。事故対応サービスを充実させている保険。ネットで契約すれば割引(保険代理店に支払う手数料を考えれば安いものかもしれません)。これらすべてはビジネスプロセスとビジネスルールが明確に分離したシステム設計になっているのです。

II. ビジネス・ソリューションのアジリティ

1. ソフトウェアを高速に開発するだけでは,存続と成長のために十分ではない。そのようなソフトウェアは一旦運用すれば,意図しない結果を招くことなく,継続的かつ迅速に変更することが難しくなりがちだからである。

ここで言う「ビジネス・ソリューション」はITシステム(ソフトウェアで実現するもの)を意味します。ソフトウェアをアジャイル・アプローチ(スクラム、XT、カンバン)で開発することがビジネス・アジリティに結びつくことはあまり関係がない、と主張しています。特に米国ではアジャイル開発が主流になっているので、アジャイル(俊敏な)という言葉がビジネスのアジリティと混同されがちなことを警戒しています。両者のあいだの相関関係は強くないのです。

2. アジャイルなビジネス・ソリューションの正しい評価基準は,ビジネス知識がどれだけその中に構成されているか,そしてその知識をどれだけ容易に変更または再構成できるかということである。

アジャイルで開発されたITシステム(ビジネス・ソリューション)がどれだけビジネス的にアジリティであるかは、ビジネス知識(すなわちビジネスルール)がどれだけ容易に変更、再構成できるように設計・構築されているかということです。言い換えるとアジャイル開発されたソフトウェア・コードにビジネスルールが含まれていてはいけないです。

3. ビジネス知識のビジネスプロセスと製品への活用は,タイムリーで,効果的で,選択的で,再現性があり,普及しやすく,追跡可能で,扱いやすくなければならない。

同様です。ビジネス知識(その多くがビジネスルール)はタイムリー、効果的で、...扱いやすいように、適切に管理する必要があります。その具体例はビジネスルール管理システム(BRMS)です。マニフェストの中では具体的なツールまでは言及していません。マニュアルで管理するのも可能です。しかし効果と効率を考えるとツールまで考慮する必要があると思います。

次回はⅢビジネス価値の創出 とⅣ.バリューチェーンです。