デジタル・ビジネスアナリシス(2)

デジタル・ビジネスアナリシス(2)

先週に引き続き、IIBA発行の

キャズムを超えて: デジタル・ビジネスアナリシス です。

デジタルBA_Slide2_2019年1月27日

今週はベストプラクティスの概要を示します。

  1. 戦略的課題を理解する
  2. 真の顧客に共感する
  3. ビジネスプロセスを再考する
  4. アジリティに対応する
  5. 継続的にステークホルダーと協働する
  6. エビデンス・ベースの意思決定を推進する
  7. テクノロジーを理解する

具体的な内容を簡単に紹介します。

1.戦略的課題を理解する

簡単に言えば、戦略的な課題は全体像であり、「What」の背後にある「Why」です。すなわち解決されるべき本当の問題です。

ビジネスアナリストとして、戦略的課題を理解することは、BABOK®ガイドが現状と将来の状態を雄弁に表現していることを徹底的に知ることになります。 現状理解は、エンタープライズが現在どのように機能しているのか、その課題は何であるのか、そしてこれらの課題を克服するために何をする必要があるのかを知ることに関連しています。現状の理解はベースラインとチェンジの背景、将来状態はビジネスニーズが満たされたときにビジネスがどのように見えるかを定義します。 これは基本的なことです。 デジタルの世界をエキサイティングにするのは、「顧客」と彼らが今日期待する経験に焦点を合わせることです。そのため、組織のデジタル戦略とイニシアチブでは、顧客に重点を置くことになります。

戦略的課題は、ビジネスアナリストの活動だけでなく、組織のすべての活動を導く必要があります。 BABOK®ガイドには、ビジネスアナリストが戦略的課題を理解できるようにするための実用的なテクニックがいくつか記載されています。

  • バランススコアカードは戦略的立案と管理のツールです。
  • ビジネス能力分析は、ビジネスアナリストがエンタープライズのビジネスゴールや目標を達成するのに役立つ能力を記述するのに役立つ手法です。
  • ビジネスケースは、ビジネスアナリストがチェンジを実行するための論拠または戦略的意図を理解するのに役立ちます。
  • ビジネスモデル・キャンバスは、エンタープライズが顧客に対してどのように価値を創造、提供、獲得するかを説明します。
  • SWOT分析は、内部の長所・短所、外部の機会・脅威を評価することによって、エンタープライズの全体的な状態を特定するのに役立つ

 

2. 真の顧客に共感する

優れた顧客体験を約束するビジネスモデルは、そのビジネスがお客様に確実に共感を持っている場合にのみ可能です。
Zipcarは、顧客が毎時レンタルを必要としていることをどのようにして分かったのでしょうか? 特にタクシーがいたるところにあるとき、Uberはどのようにして顧客へのチャレンジがタクシーを降ろすことにあると気付いたのでしょうか?

Netflixは、顧客はコンテンツが直接デバイスにストリーミング配信されるオンデマンドの経験を必要としていることをどのように認識できたのでしょうか。答えは共感です。 彼らは顧客に対して本当に共感できたのです。

「デジタル環境では、最も重要なステークホルダーは顧客、つまりお金を払う人である。」

当然のことながら、共感はデザイン思考の基盤のひとつです。 論文の中で、Fulmer氏は次のように述べています。 「ビジネスアナリシスは「アウトサイド・イン」思考を要求していた。伝統的なビジネスプロセスや情報ベースのアプローチでは、BAが行う仕事は内部ビジネスを支援することでした。BAに直接関与するステークホルダーは、ビジネスの内部に属するすべての人々でした。ステークホルダーは、ビジネス上の問題を理解するために彼らのニーズを識別し、ついで[ビジネスアナリストは]要求を定義し、解決策を評価していました。」

Fulmer氏は続けて次のように述べています。「デジタル環境では、最も重要なステークホルダーは顧客、つまりお金を払う人です。 そして、この道を歩んでいる他の多くのステークホルダーは、外部のパートナー、ベンダー、そしてプロバイダーです。 この視点の変化と、それらすべてが顧客体験の一部として結び付けるやり方が、デジタルの核心です。」

「ビジネスアナリストは、現在、ビジネスプロセスマッピング、それらのプロセスの分析、および新しいソリューションを確立するために必要なプロセスおよびシステム(情報システムを含む)の改善に関する推奨事項の作成に慣れています。 デジタルの世界では、BAは顧客のペルソナ、共感マップ、エコシステム・マップ、カスタマー・ジャーニー・マップを作成することを期待されます。 [将来のビジネスアナリシス]は、顧客体験の観点を十分に取り入れ、この形式のビジネスアナリシスをサポートするための新しいツールとテクニックに適応していきます。」

ビジネスアナリシスはますますコラボレーションが重要になってきます。 それは、顧客体験のデザイン・プロセスの一環として、顧客、パートナー、および従業員と関与することです。よりシームレスな顧客体験を提供するための、背後のサービスコンポーネントであるデジタルネットワークからなるソリューションは通常、より複雑になっています。
さらに、それは望ましい顧客体験のために使用される単一つの技術ではありません、それは一連の技術です。 AI、機械学習、アナリティクス、IoTなどを組み合わせることで、重要な顧客ニーズを満たすだけでなく、いくつかの重要な問題を解決し、顧客を喜ばせる顧客体験を提供していきます。

「顧客体験の分析が非常に重要になるにつれて、ビジネスアナリストが顧客中心のインプットを「引き出す」方法も重要になっています。 私たちは、プロダクトやサービスに関する彼らの体験について、顧客からのフィードバックを積極的に求める必要があります。 多くのエンタープライズもまたこれには、電子メールや顧客サービスへの問い合わせ、ソーシャルメディアの投稿で証明されているように、顧客からのより間接的なフィードバックを調べることも含まれます」とFulmer氏は述べています。

実際の顧客と共感することは、顧客が口に出さないニーズを知るために極めて重要です。 共感は単に「本当の顧客」を発見し、ワークショップで彼らのニーズを引き出すことではありません。 共感は、顧客がビジネスとやり取りするときに顧客の本当の感情に触れながら、顧客が感じていることを感じることです。 そうして初めて、たとえ外面的に顧客が言葉や非言語で自分のニーズを表さなくても、顧客の真のニーズを知ることができるようになります。

相互の関係に共感を注ぎ込むことは、引き出しをまったく新しいレベルのものにします。 顧客の真のニーズを知ることで、ビジネスプロセスを再考する可能性が生まれ、それが今度は想像力に富んだ優れた顧客体験につながります。 この新しいレベルの引き出しは、デジタル世界でビジネスアナリストが活動する必要がある場所です。

 

3. ビジネスプロセスを再考する

ビジネスプロセスの漸進的な(画期的ではない)改善は、既存のエコシステムの効率を高めることがあるかもしれません。再考されたビジネスプロセスの場合は市場を破壊し、新しいエコシステムを創出し、それを全く新しいレベルに高めてその新しい状態でバランスさせます。

Zipcarが、顧客が車を借りるために列に並んでいる間の待ち時間を減らすことだけを求めた場合はどうなるでしょうか? 彼らはおそらくもう少し効率的で、わずかに改善されたビジネスプロセスを考案したでしょう。しかし実際にはZipcarは顧客体験の異なる分野を目指し、レンタカービジネスモデルを再考し、完全にビジネスプロセスを再発明し、レンタカー業界に新たな標準を設定しようとしたのです。

Netflixは簡単にテレビチャンネルやネットワーク、あるいは制作会社を始めたかもしれませんが、それでも今日提供しているすべてのことができるようになるでしょう。 しかし、それは漸進的なものにすぎません。 市場のすべての人にとってゲームが変わるわけではありません。 その代わりに、Netflixは自分たちに質問をしました。「高品質のコンテンツをオンデマンドで直接消費者に提供し、最高品質の広告なしの体験を提供するにはどうすればよいか」と。
Netflixは、従来のテレビネットワークとハリウッドのエコシステムを破壊することなく、エンターテイメントを提供するための新しいコンジットを作成しました。

将来のBAは、これらの大胆な質問を自分たちに投げかけて、ビジネスプロセスを再発明し、市場を混乱させることになると予想されます。 デジタル・ビジネスプロセスは、期待される顧客体験を提供するために考慮する必要があるだけでなく、このプロセスが顧客によって実行される方法も考慮する必要があります。 今日、ほとんどの顧客向けプロセスはモバイルデバイス上で実行されているため、このデジタル・ビジネスプロセスが実行される方法について、表向きのみならずその背景でも新しい考え方を必要としています。

ビジネスプロセスを再考することは本質的に可能性を想像するための創造性の練習ですが、BABOK®ガイドはそのような想像に構造を提供する特定のテクニックを収録しています。それは「プロセス分析」と「プロセスモデリング」です。

 

 4. アジリティに対応する

今日のデジタル世界のすべての企業は、アジャイルのマインドセットを必要としています。 この宇宙を創造している間、自然界でさえアジャイルのマインドセットを採用したと人は言うかもしれません。 進化はその証拠です。アジャイル思考は自然なことです。 アジャイル思考の基本原則に反するアプローチはありません。

アジリティはアジャイルソフトウェア開発のことを言うのではありません。 スクラム(SCRUM)やXPについては言及しません。 私たちはビジネスアジリティを感情、マインドセット、考え方として言及しています。 BABOK®ガイドのアジャイル拡張版は、アジャイルな考え方の目標を「最小限の入力で結果(提供される価値)を最大化するために」「より少ないことと正しいことを、正しく行う」と明確に表現しています。

アジリティの主な側面は次のとおりです。

  • 迅速かつ一貫して価値を提供する
  • 勇気を持って協力する
  • 学ぶために繰り返す
  • 無駄を避けるために簡素化する
  • コンテキストを考慮し、現実に適応する
  • フィードバックを反映し、プロダクトとプロセスの両方を適応させる
  • 最高品質のプロダクトを生産する

デジタル世界でのイニシアチブは明確な始まりはありますが、明確な終わりはありません。 イニシアチブは永続的かつ継続的です。 たとえば、Google検索には、定義されたバージョン番号(少なくともユーザーに表示されるもの)はありませんし、目に見えるプロダクト開発の終着点もありません。

アジャイル思考では、ビジネスアナリストはプロジェクトではなくプロダクトのコンセプトを開発する必要があります。 ビジネスアナリストは、すべての成果物に対して最小実現可能プロダクト(MVP)アプローチを採用する必要があります。 MVPには、プロダクトを顧客に提供し、フィードバックを求め、そのフィードバックからの学習を加速し、それをプロダクトとして次のMVPレベルに向上させるための基盤として使用するのに十分なコア機能があります。 同様に、このMVPアプローチは、プロダクトだけでなく、あらゆる活動や成果物に簡単に適用できます。 MVPアプローチは、ビジネスアナリストがかなりの進捗を示し、フィードバックを求め、学習を引き出し、成果物を改善して次のMVPレベルに引き上げるのに役立ちます。

アジリティは、ステークホルダーとの協働に絶えず焦点を当て、継続的にステークホルダーからのフィードバックを求め、価値ある結果を提供しながら、真実を保ち、全体像または戦略的意図に適合することに重点を置くマインドセットです。 定期的な間隔で、間違いを早期かつ迅速に認識し、新たな情報に迅速に適応します。

IIBAのBABOK®ガイドのアジャイル拡張版、バージョン2は、ビジネスアナリストがアジャイルのマインドセット、思考、ツール、およびテクニックをデジタル化して成功させるための最良のガイドです。

 

5. 継続的なステークホルダーとのコラボレーション

アジャイル思考は継続的なステークホルダーの関与(エンゲージメント)を必要とします。 「エンゲージメント」という用語はコラボレーションを意味します。つまり、ステークホルダーはビジネスアナリストとしてのあなたの活動において積極的な役割を果たします。

今、デジタル世界におけるステークホルダーのリストは、伝統的な世界よりも少し長く複雑になっています。 ビジネスアナリストは、日常生活の中で常に内部および外部のステークホルダーと関係を持ちます。 デジタル世界では、従来のステークホルダー・マネジメントの範囲を超えています。

  • デジタル世界で鍵となるのは、ステークホルダーとのより深く継続的な関わり合いをもつことであり、そのためステークホルダーは文書に署名する偉い人というよりは一緒に旅(ジャーニー)をする人であると考えられます。 ステークホルダーとの継続的なエンゲージメントを確立することの絶対必要条件は、より新しくより関連性のあるステークホルダーがイニシアチブの間中いつでも表面化するかもしれないということです。 したがって、ビジネスアナリストは新しいステークホルダーを歓迎するだけではなく、常に彼らを発見することに積極的にならなければいけません。
  • そして、開発を進めているもう1組のステークホルダー、「デジタル・ステークホルダー」があります。Facebook、Twitter、WhatsAppなどを使っている人間を指すのではありません。時間とともに進化するインテリジェントな「デジタル」システムのことを言います。「人間のような」体験を提供するために開発されている「インテリジェント」システムについて言います。 このようなシステム間のやり取りは、メッセージフォーマットやデータファイルの交換ほど単純ではありません。 そのようなデジタルシステムの相互作用は、より大きな価値と望ましい顧客体験を提供するための情報交換を含むでしょう。 したがって、ビジネスアナリストは常に以下のことに注意する必要があります。 それがIT風景(ランドスケープ)です。

継続的なステークホルダー・エンゲージメントは大変な作業です。 それはビジネスアナリストが彼らの意図を引き出しとコラボレーションで明確にすることを必要とします。 ビジネスアナリストは(プロジェクトとは対照的に)プロダクトの概念を開発する必要があることを考慮すると、「プロダクト・オーナー」のペルソナを採用する必要があります。 ビジネスアナリストはプロダクトのステークホルダーとの間で主導的な協働作業者です。 デジタル世界におけるビジネスアナリストの役割は、ビジネス成果とその成果を達成するためのプロダクトに対する説明責任者です。 BABOK®ガイドは、ステークホルダー・エンゲージメントのためのベストプラクティスを学び、内面化するための最良のガイドです。

 

6. エビデンス・ベースの意思決定を推進する

期待される顧客体験を提供するためにデジタル世界における新しいビジネスモデル/プロセスを考察しながら、エビデンスを評価し分析することが重要です。 これには、正しい意思決定をするために活用できるデータを見つける必要があります。 このようなデータは、調査や動向、業界団体、再考されているビジネスプロセスの履歴データなど、さまざまなソースから取得されます。 問題は、ビジネスアナリスト・コミュニティーが洞察を推進したり、仮説を立証したり、意思決定をするためのデータが利用できない、またはデータが正しい形式になっていない、さらにそもそもデータの形になっていない可能性があることです。 しかし、正しいエビデンスが得られれば、実際の顧客の真の問題点を明確にし、戦略的な課題を改善し、ビジネスプロセスを再考し、そして正確な顧客の問題を解決するソリューションを提供することができます。

大手小売チェーンの1つであるTargetは、彼らのクーポンビジネスにおいて、ROIが低いという問題がありました。顧客から収集したフィードバックを分析したところ、Targetは顧客がクーポンをゴミとしか見ていないことがわかりました。 隔週毎にすべての顧客が同じようなクーポンを受け取っていたのです。そしてそのクーポンは店の入り口でも入手可能であったため、クーポンは顧客にとって価値がなさそうなことがわかりました。

この謎を解くために、Targetは、所有しているペタバイト単位の売上データを分析することにしました。その結果、顧客のためにクーポンをパーソナライズする方法を考え出しました。 彼らは、顧客がある種類の製品を連続して購入すると、次回の購入時に特定の製品を購入することを販売データから学びました。 ターゲットは彼らにその製品のクーポンを大きなサプライズとして送ったのです。

さて、デジタルの世界で自分自身のことを考えてみましょう。優れた顧客体験を提供するためにビジネスプロセスを再考する際に、データを見て収集したエビデンスが望ましい結果を達成する可能性を大いに高めます。

そのため、デジタルの世界のビジネスアナリストは次の能力を保持する必要があります。

  • 必要なデータを理解する。
  • それを集めることができる、
  • 効果的に整理して分析することができる。

データは、顧客に提供しようとしている価値を高めたり、壊したりする可能性がある信頼できる唯一の情報源(a single source of truth)となる可能性があります。データ分析、アナリティクス、統計、シックスシグマ、情報アーキテクチャの卓越したスキルと能力を持てば、ビジネスアナリシス・コミュニティがデジタル世界で成功するのに役立ちます。