よくわかるビジネスアナリシス Kindle版 出版

IIBA日本支部 が下記 書籍を出版いたしましたのでお知らせいたします。

よくわかるビジネスアナリシス: BABOK®の心

  • 形式:   キンドル出版
  • 価格:   1,000円

200+250アマゾンサイトにリンク

書籍の紹介

はじめに

昨今のIT業界では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が話題にならない日はないくらいにメディアを賑わせている。DXとは、デジタル技術の活用によって企業のビジネスを変革し、デジタル時代に勝ち残れるよう自社の競争力を強化することだ。日本ではすぐ短絡的にAI、IoTなどのテクノロジーを使えばDXが実現できると思いこんでいるふしが見受けられる。そのため、POC(概念実証)が華やかな打ち上げ花火のごとく行われているが、実際のビジネス変革には繋がっていないというのが多くの企業の現状である。挙句の果て「POC貧乏」なる言葉まで出始めているありさまである。このままではGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)のようなディスラプターに破壊されることに手をこまねいて待っていることにならないだろうか。

経済産業省は2018年9月に「DXレポート「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開」を発表し、日本企業はレガシーに代表されるITシステムの刷新を早期に実現し、速やかにDXに取り組まないと2025年までに12兆円の経済損失が発生する、と警告を発している。よくよく考えてみると上記のPOC止まりのDXは、本来の目的であるビジネス戦略が不明確なまま手段のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めていることではないだろうか。DX、すなわち、デジタル技術の活用によって企業のビジネスを変革し、デジタル時代に勝ち残れるよう自社の競争力を強化するためには、その目的であるビジネス戦略を明確にすることが不可欠である。それなくして手段であるDXを進めようとしても無理があると言わざるを得ない。

もうひとつDXに必要なのはトランスフォーメーション(変革もしくは変容)である。いくらデジタル技術を活用して新たなサービス(顧客体験)を提供しようとしてもそれを顧客がそれを利用しない限り価値ある体験に結びつかない。そのためには顧客にトランスフォームしてもらうことが不可欠となる。顧客は新しいサービスを使って(使うことがチェンジ)初めて価値を得ることができる。また、それによりサービスを提供する企業側にも価値が発生することになるのでこのチェンジは極めて重要である。プロダクトやサービスを作ればそれでおしまいということでは決してない。顧客にいかにすれば使ってもらえるかまで考えなければならない。それもトランスフォーメーションの一部である。

さらに、デジタル技術で新しいサービスを提供する企業自身も外部エコシステム(社会の変化)の変化に迅速に対応できること、すなわちビジネスのアジリティを高めておかなければならない。そのためには、組織構造・組織文化(人のスキルを含む)、意思決定、能力・プロセス、ポリシー、内部資産(情報資産含む)などが柔軟に対応できるようにトランスフォーム(変革・変容)しなければいけない。それが、ビジネスアジリティに通じる。企業側がトランスフォームするためにはデジタルビジネスに対応できるようにアジリティを高めておかなければならないわけである。

例えば、POCでダイナミック・プライシングが有効だと分かったとしよう。プラチナレベル、ゴールドレベルの優良顧客には有利な価格を提供したい。飛行機代金なら、早割、学割、など。小売りなら、昼間の価格、夕方混雑時の価格、閉店間際の特別価格など。量販店なら地域最安値を提供したいなど、ダイナミックに価格を決定することがビジネスに重要な意味を持つ例は多い。POCでそのようなダイナミック・プライシングの実証ができ、いざ本格的に運用しようとしても、肝心の基幹系の請求システムが「一物一価」にしか対応していなかったら、それこそ絵に描いた餅にしかならない。「一物一価」は極端にしても、基幹系がダイナミック・プライシングに対応するためには、ITシステムのデータベース構造(情報資産)のみならず、仕入れの仕組み(ビジネスプロセスやビジネスルール)、組織構造や組織文化(人のスキルも含めて)もそれなりに対応しなくてならないだろう。これらはPOCで小さなDXが実証できたとしても企業レベルでDXを成功させるためにはまだまだ多くのハードル(それもPOCとは比べ物にならないくらい高いハードル)を越えなければならないことを意味している。

本書籍はビジネスアナリシスの知識体系(BABOK® ガイド)の解説本である。ビジネスアナリシスとは、「ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動」である。ここで言うチェンジは、「ニーズに対応して変える行為」と定義されているが、実は原文は「The act of Transformation in response to a need.」すなわち「ニーズに対応するトランスフォーメーションの行為」である。4年前にBABOK® ガイドを日本語化する作業の中で、トランスフォーメーション(変革、変容)はあまりにも大げさなので、言葉を和らげて「変える行為」にしてしまったが、今のDXブームのことまで先を読めなかったのは残念と言わざるを得ない。言い方を変えると、顧客の知らない(まだ気づいていない)ニーズを定義し、価値ある顧客体験を提供することにより企業にDX(デジタル・トランスフォーメーション)を可能にする専門活動である。端的に言えばDX実現のために不可欠な知識体系と言える。

BABOK® ガイド v3 を具体的事例に即して解説しようと試みて、第2章は実在のプロジェクトの事例として「A社事例」を取り上げた。各知識エリアのタスクを「A社事例」に即した解説を試みている。DXほど大規模ではないが、ビジネスアナリシスをわかりやすく解説しようとしている。読者の理解の一助になれば幸いである。また、本書の随所に「心」と題するコラムが挿入されている。この「心」がBABOK® の神髄でありスピリットと言える。表面的にはわかりずらいがDX実現のためには不可欠な部分である。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の基盤となる知識体系をお楽しみいただけると幸いである。

最後に、本書はIIBA日本支部のBABOK® 研究会メンバーによる執筆である。BABOK® ガイドV3出版当時からの研究成果としてまとめたものでもある。

2019年7月吉日
IIBA日本支部
BABOK® 担当理事
清水 千博