DX実現に不可欠なビジネスアナリシス(1)

1.デジタルトランスフォーメーションとは何か

世の中DX流行の真最中ですね。毎日のようにDXに関する、製品紹介、セミナー、事例紹介の案内が届いています。

DXをITと置き換えても何も違和感のないものばかりです。DXとはITを言い換えたに過ぎないと思えるぐらいです。特にクラウド、AI、IoT、AWSなどを活用することがDXであるかの如くですね。

そのような風潮の中ですが、デジタルトランスフォーメーションを実行するためにはビジネスアナリシスが不可欠なことは言うまでもないところですが、まだ一般にはそれが周知されていないのも事実のようです。そこで、このメルマガのブログにおいて少し具体的にビジネスアナリシスがどのようにDX実現に貢献できるのかについて解説していきたいと思います。

概ね10回程度の連載になる予定です。(改訂版:2021/2/3)

  1.  デジタルトランスフォーメーションとは何か
  2.  顧客経験の変革
  3.  戦略アナリシスとエンタープライズ・アーキテクチャ
  4.  ビジネスモデル・キャンバス(現状)
  5.  ビジネスモデル・キャンバス(将来像)
  6.  将来像のEA
  7.  DX後に必要な商品・サービス
  8.  EAモデルの詳細化
  9.  DX実行戦略
  10.  まとめ

DXの定義

第1回の今週はまず、冒頭のタイトルの「デジタルトランスフォーメーションとは何か」について考えます。

2018年に経産省から「2025年の崖」が発表されてから、DXに火が付いたような気がします。その中ではIDC(有名なコンサルティング会社)の次の定義が引用されています。

  • “企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”

さらに翌年2019年7月の経産省の「DX推進指標とそのガイダンス」では

  •  「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」

となっています。

そうです、重要なことは

  • 「..業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革」することです。

しかしその前提としてさらに重要なことはIDCの定義にはありますが

  • 「..顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出」することです。この部分が何故DXを行うべきなのか(WHY)に対する回答になります。これを抜かすと単に自己満足的なDXがはびこってしまいますので注意が必要です。

このブログでのDXを次のように定義します。

  • 「デジタルを前提にして、エンタープライズのビジネスモデル(例:BMキャンバス)全体を変革し、かつ顧客経験(CX)も画期的に変革し、社会に大きく貢献すること。」

いくらビジネスモデルやプロセスを変革してコストダウンで競合優位なったとしても顧客に価値を提供できなければDXとは言えません。ここではDXの目的を顧客経験の変革としました。決して競争優位という内部的な目標(提供側の都合)ではありません。あくまでも外部の顧客経験が重要で、その結果として競争優位になりうるのです。既存企業ですから永続性(サステナブル・グロース)が重要で、その基本は顧客中心です。

ちなみに、企業といわずエンタープライズとしています。ビジネスアナリシス的には単に民間企業にとどまらず、もう少し広い意味合いでとらえています。例えば政府機関も立派なエンタープライズです。最重要なステークホルダーは国民です。

 DXの進化過程

もう一つ別の観点で見てみましょう。やはり何事も進化過程を無視するわけにはいきません。DXも同様です。いきなりデジタルトランスフォーメーションといっても物事はなかなか進みません。DXを実現するためにはデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションと段階を追って進化していくしかないのも事実ではないでしょうか。その進化の過程を見ておくことも重要です。既存ビジネスとしてアナログ主体の業界の場合はデジタイゼーション~デジタライゼーションとそしてDXと時間がかかると思います(むしろかけるべきです)。デジタル化する部分とデジタル化できない(してはいけない)部分(それこそが競争優位なコア・コンピタンス)をしっかり見極めることも重要です。

ここではデジタルの進化過程を次の5段階で表してみます。

レベル0:

アナログなビジネス

レベル1:

商品(製品・サービス)がデジタル化された状態(例:ラジカセからCDプレイヤー:プロダクトイノベーション)

レベル2:

プロセスがデジタル化されている(デジタライゼーション、もしくはプロセスイノベーション)

レベル3:

企業内の組織・文化が変革し、プロセスも変革し、顧客経験も変革し価値を提供している。いわゆるDXが実現している状態。(ビジネスモデル・イノベーション)

レベル4:

一企業にとどまらず業界全体がトランスフォーメーションし、劇的な顧客経験の変革を提供している(業界イノベーション)

レベル5:

複数の業界が連携して変革し、社会全体にイノベーションが行き届いている(社会イノベーション)

尚、レベル1とレベル2はどちらが先とも言い切れません。業態によってプロセスのデジタル化の方が早いことも多いようです。プロダクト(やサービス)そのものはデジタル化しようがないものもあります。例:一次産業やエアーラインなど)

しかし農業を例にとってみると、IoTを活用して季節・天気に応じた肥料・配水などデジタルを活用して作物の生育を最適化するプロセスを実現し質の良い作物を実現することもできますし、流通過程では温度・湿度まで管理するサプライチェーンのプロセスが利用できます。

ベンチャー企業ではレベル1、レベル2はすでに到達していることも多いと思います。

ここでは、レベル3以上のものをデジタルトランスフォーメーションとして扱うことにします。レベル5はいわゆるSociety5.0を意識したものになります。

第1回はこの辺までとします。DXの議論の初めにはその言葉の定義からスタートしました。